一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

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2020-06-20 00:10:07 | 男性棋士
14日放送のNHK杯将棋トーナメントは久しぶりに現在に戻り、第70回1回戦第5局・谷川浩司九段VS中村太地七段だった。
私は永井英明氏の姿に慣れてしまって、現在に戻ったことが寂しくてしょうがない。「時空棋士」の中島遼平もこんな気持ちだったのだろうか。
本局、私はビデオ録画はしていたが、リアルタイムで冒頭部分を見逃してしまった。
対戦表の紹介のあと、対局室が映される。これが前代未聞の景色で、あんぐりしてしまった。
対局者は椅子に腰かけている。よって将棋盤は二寸程度である。問題はその先で、将棋盤の周りに4本の棒が立ち、その面に沿ってアクリル板が通されていた。ちょっと、拘置所や刑務所の接見場を想起させた。
対局者はもちろんマスク姿だ。谷川九段は白のマスクで、中村七段はイカした黒だった。
谷川九段は2週前から31年ワープしての登場である。14歳で棋士になった谷川九段は大山康晴十五世名人とA級順位戦を戦ったわけで、時代の証言者でもある。その谷川九段は今後、藤井聡太七段とも対局していく。この対決も伝説になるのであろう。
記録らしき人は飯野愛女流初段で、もちろんマスク姿である。しかし秒読み者の姿はなかった。
この光景を31年前の永井氏が見たらなんと言うだろう。
「いやー、大変な時代になりましたですねぇ」
くらいか。
解説は森内俊之九段だったが、声の主である司会・藤田綾女流二段の姿はない。3密を避けて、端のほうにいるのだろう。
毎度毎度永井氏を出して恐縮だが、谷川九段の十七世名人はいいとして、十八世名人に森内九段が就くとは、さすがの永井氏も思わなかっただろう。
対局開始になり、棋譜読み上げの和田あき女流初段が対局者らと離れたところから、持ち時間等の説明をする。なるほど、読み上げならリモートでこなせるわけだ。
といってもなあ。飯野女流初段と和田女流初段が並んで座っても構わないと思う。同じ方向を向いているわけだし。それになにより、飯野女流初段と和田女流初段が、コロナウイルスを持っているとは思えない。絶対に陰性だと思う。
だがそこはそれ、対局室がどんなにいびつになっても、「私たちNHKは、関係者にウイルスは絶対に移しません!」という気概が窺えた。
将棋は中村七段の先手で、角換わり腰掛け銀になった。お互い右金をまっ直ぐ立ち、飛車をひとつ引くあの形である。
画面には将棋盤が映り、森内九段の解説が聞こえる形である。むかしのNHK杯は、対局室を映すことは稀で、ほぼ解説室が映されていた。現在は逆で、中盤以降はほとんど盤面を映している。解説者は変化を符号で述べることになるが、そんなわけだから2~3手しか進められない。どちらを映すかは視聴者の好みが別れるところだが、私は解説室を主にしてもらいたい。大盤の駒を動かして、突っ込んだ変化を聞きたいのである。
中村七段が▲8二角と打った。いかにも角が窮屈だが、森内九段は大盤に▲8三桂と置き、意外に角が死なない、と説く。解説室は藤田女流二段の姿が見えないから、ちょっとヘンな感じだ。
ちなみにこの▲8二角や▲8三桂のような手は、私が好きな手だ。
このまま▲6四角成~▲9七馬となれば先手有利だが、谷川九段は△8六歩▲同歩を利かして△8一飛とする。これで角が死に、角金交換となった。
だが中村七段は攻撃の手を緩めず、歩頭に▲2四桂!
本局の前まで両者の対戦成績は1勝1敗である。元王座の中村七段は以前ほどの勢いはないが、十七世名人を一気に攻めつぶそう、の気概が見て取れた。
本譜△2四同歩▲同歩に、ふつうは△同銀であろう。以下▲同飛△2三歩とし、銀桂交換の駒損ながら場を収めるのが相場だ。
だが谷川九段は△3一桂! これが場合の好手だったようで、こうなってみると、角桂と金の交換にまで拡がり、さすがに谷川九段の駒得がクローズアップされてきた。
以下は谷川九段が中村七段の攻めに丁寧に応接し、△7七角の王手から△4四角成(図)と返り、不敗の態勢。最後は中村玉を鮮やかに詰めあげた。

勝った棋士は当然強いのだが、本局の谷川九段は円熟味があふれ、全体でまるい輪を描くような、一分の瑕疵もない勝ち方だった。
本局は熱戦だったので感想戦はなし。もしあったら、森内九段と藤田女流二段はどこに陣取るのか。マスクは掛けるのか。などいろいろ興味はあったが、それは次回のお楽しみ?となった。

現在はコロナ禍だからマスク姿もやむを得ないが、こんなのが毎回続いたら鬱陶しくなってしまう。一日でも早く素顔での対局に戻る日が来ることを、切に願うものである。
コメント
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