一昨年12月に創設された清麗戦は、優勝賞金が女流棋界最高の700万円、一躍女流棋戦のトップに躍り出た。
しかし第1期清麗戦は、今一つ盛り上がりに欠けたように思えた。理由はいろいろあるが、個人的には「予選2敗失格」が緊張感を欠き、将棋ファンの関心が薄れたからと見ている。
第1期は里見香奈女流五冠が清麗を獲得し、大方の将棋ファンの予想通りに帰結した。
そして第2期の清麗戦予選も佳境を迎え、4日には本戦準決勝の伊藤沙恵女流三段VS石本さくら女流初段戦が行われた。
伊藤女流三段の実力は改めて述べるまでもない。2014年10月に奨励会から女流棋士に転向。それからは力強い将棋で勝利を重ね、タイトル戦に登場すること7回。ところがそのすべてに敗れ、現在は「無冠の女王」状態になっている。
対する石本女流初段は21歳。女流棋士デビューは17歳だが、それまで何度も奨励会試験に落ち、いわゆる「泣き」が入っている。その鬱憤を晴らすかのように、女流棋士1年目では女流名人リーグに入る殊勲の星を挙げた。いまや関西のホープである。
だが本局は、やはり伊藤女流三段持ちである。一応無料中継はあったが私は見ず、結果も伊藤女流三段の勝ちだった。
だが深夜に棋譜を確認すると、どうしてどうして、石本女流初段が必勝型を築いていたので、驚いた。
軽く振り返ってみよう。
石本女流初段の先手で、5手目に三間飛車に振った。伊藤女流三段は6手目に△1五歩。後手番なのになかなか大胆な手だが、立ち遅れないと見ている。
伊藤女流三段は居飛車で、銀冠を構築する。石本女流初段は▲7六飛と浮き、角交換となる。▲6七銀を▲5八銀と引き締めた形は立石流にも似て、振り飛車党なら満足のいく進行だろう。
伊藤女流三段が△5三銀と上がったところで、薄い7筋めがけて▲4六角と据えたのが、解説の長沼洋七段も感心する好手だった。
続けて▲7四歩から飛車交換となったが、▲8三飛と先着しては振り飛車が有利だ。いやアマ同士なら9割以上、振り飛車側が勝つ。
△7一金に、私なら▲6三飛成として歩切れを解消したいが、それを堪えて▲6四歩が好手。やむない△同銀に▲6三飛成として、銀の措置を難しくした。以下△7三銀▲6五桂から銀桂交換になったが、振り飛車の左桂と居飛車の銀と交換できては、振り飛車が大優勢だ。
石本女流初段は△6四角に▲5五銀と据え、今度は角銀交換の駒得を果たす。ということは、角桂交換の駒得である。このあたり石本女流初段は、長沼七段の解説通りに指していたから、いわば男性プロが指していたようなものだ。ええー、この将棋をどうやって負けたのだろう。
しかし伊藤女流三段は△5六金を足場に、△4六歩▲同歩△4八歩▲同金△4七歩。
うわー、これが駒落ちの上手っぽい手で、棋力が近ければこんな攻めは何でもないのだが、指導対局でこれをやられるとすごくイヤだ。私は大野八一雄七段との指導対局で、この類の手で何度ゴマかされたか分かりゃしない。
だが石本女流初段は丁寧に受け、▲7三角成として桂を入手。この時点で何と角得である。逆転どころか、ますます差が開いているではないか。
石本女流初段、▲4四桂と金取りに打つ。伊藤女流三段も金を逃げている余裕はなく、△5七歩(図)と攻め合いだ。
だがここで石本女流初段が▲6四馬と引いたのがマズかったらしい。とはいえこの局面、何はともあれ▲3二桂成と取りたくなるではないか。事実それでよく、△3二同銀▲4二金で先手が勝勢だったらしい。
しかしプロは▲3二桂成を味消しと考えるわけだ。だが平凡な指し手が正着の場合もあるわけで、ここは石本女流初段に運がなかった。
もっともこれでも石本女流初段のリードは残っていたのだが、数手後の▲2二金に△1四玉がいい感触である。ここ、△1四歩型だったら簡単に後手玉が寄っている。△1五歩の突き越しは玉の懐が段違いに広くなるが、その利がここで活きてきた。もはや、流れは伊藤女流三段である。
それでも際どい戦いが続いたが、伊藤女流三段が△2六桂と詰めろ逃れに打った王手が好手だった。ここで形勢が入れ替わり、最後は伊藤女流三段が石本玉を即詰みに討ち取り、劇的な勝利となったわけだった。
こうなると痛々しいのは石本女流初段で、私が対局者でこんな負け方をしたら、自己嫌悪爆発で相当見苦しいことになっている。
ところが本局はコロナの関係で感想戦も省略だったそうで、石本女流初段にはグチを言う機会も与えられなかった。
だが私は、石本女流初段の強さをよく認識した。調べてみれば、石本女流初段はほかの棋戦もよく勝ち進んでいて、どこかのタイトル戦に出てきそうな勢いである。もう本局の悪夢は早いところ忘れて、次の将棋を頑張ればいい。
石本さくら、憶えておこう。
そして挑戦者決定戦に進んだ伊藤女流三段の相手は、上田初美女流四段だった。なるほどここまで勝ち進んだだけあって、おふたりとも、里見清麗からタイトルを獲れる数少ない女流棋士である。
挑戦者決定戦が楽しみである。
しかし第1期清麗戦は、今一つ盛り上がりに欠けたように思えた。理由はいろいろあるが、個人的には「予選2敗失格」が緊張感を欠き、将棋ファンの関心が薄れたからと見ている。
第1期は里見香奈女流五冠が清麗を獲得し、大方の将棋ファンの予想通りに帰結した。
そして第2期の清麗戦予選も佳境を迎え、4日には本戦準決勝の伊藤沙恵女流三段VS石本さくら女流初段戦が行われた。
伊藤女流三段の実力は改めて述べるまでもない。2014年10月に奨励会から女流棋士に転向。それからは力強い将棋で勝利を重ね、タイトル戦に登場すること7回。ところがそのすべてに敗れ、現在は「無冠の女王」状態になっている。
対する石本女流初段は21歳。女流棋士デビューは17歳だが、それまで何度も奨励会試験に落ち、いわゆる「泣き」が入っている。その鬱憤を晴らすかのように、女流棋士1年目では女流名人リーグに入る殊勲の星を挙げた。いまや関西のホープである。
だが本局は、やはり伊藤女流三段持ちである。一応無料中継はあったが私は見ず、結果も伊藤女流三段の勝ちだった。
だが深夜に棋譜を確認すると、どうしてどうして、石本女流初段が必勝型を築いていたので、驚いた。
軽く振り返ってみよう。
石本女流初段の先手で、5手目に三間飛車に振った。伊藤女流三段は6手目に△1五歩。後手番なのになかなか大胆な手だが、立ち遅れないと見ている。
伊藤女流三段は居飛車で、銀冠を構築する。石本女流初段は▲7六飛と浮き、角交換となる。▲6七銀を▲5八銀と引き締めた形は立石流にも似て、振り飛車党なら満足のいく進行だろう。
伊藤女流三段が△5三銀と上がったところで、薄い7筋めがけて▲4六角と据えたのが、解説の長沼洋七段も感心する好手だった。
続けて▲7四歩から飛車交換となったが、▲8三飛と先着しては振り飛車が有利だ。いやアマ同士なら9割以上、振り飛車側が勝つ。
△7一金に、私なら▲6三飛成として歩切れを解消したいが、それを堪えて▲6四歩が好手。やむない△同銀に▲6三飛成として、銀の措置を難しくした。以下△7三銀▲6五桂から銀桂交換になったが、振り飛車の左桂と居飛車の銀と交換できては、振り飛車が大優勢だ。
石本女流初段は△6四角に▲5五銀と据え、今度は角銀交換の駒得を果たす。ということは、角桂交換の駒得である。このあたり石本女流初段は、長沼七段の解説通りに指していたから、いわば男性プロが指していたようなものだ。ええー、この将棋をどうやって負けたのだろう。
しかし伊藤女流三段は△5六金を足場に、△4六歩▲同歩△4八歩▲同金△4七歩。
うわー、これが駒落ちの上手っぽい手で、棋力が近ければこんな攻めは何でもないのだが、指導対局でこれをやられるとすごくイヤだ。私は大野八一雄七段との指導対局で、この類の手で何度ゴマかされたか分かりゃしない。
だが石本女流初段は丁寧に受け、▲7三角成として桂を入手。この時点で何と角得である。逆転どころか、ますます差が開いているではないか。
石本女流初段、▲4四桂と金取りに打つ。伊藤女流三段も金を逃げている余裕はなく、△5七歩(図)と攻め合いだ。
だがここで石本女流初段が▲6四馬と引いたのがマズかったらしい。とはいえこの局面、何はともあれ▲3二桂成と取りたくなるではないか。事実それでよく、△3二同銀▲4二金で先手が勝勢だったらしい。
しかしプロは▲3二桂成を味消しと考えるわけだ。だが平凡な指し手が正着の場合もあるわけで、ここは石本女流初段に運がなかった。
もっともこれでも石本女流初段のリードは残っていたのだが、数手後の▲2二金に△1四玉がいい感触である。ここ、△1四歩型だったら簡単に後手玉が寄っている。△1五歩の突き越しは玉の懐が段違いに広くなるが、その利がここで活きてきた。もはや、流れは伊藤女流三段である。
それでも際どい戦いが続いたが、伊藤女流三段が△2六桂と詰めろ逃れに打った王手が好手だった。ここで形勢が入れ替わり、最後は伊藤女流三段が石本玉を即詰みに討ち取り、劇的な勝利となったわけだった。
こうなると痛々しいのは石本女流初段で、私が対局者でこんな負け方をしたら、自己嫌悪爆発で相当見苦しいことになっている。
ところが本局はコロナの関係で感想戦も省略だったそうで、石本女流初段にはグチを言う機会も与えられなかった。
だが私は、石本女流初段の強さをよく認識した。調べてみれば、石本女流初段はほかの棋戦もよく勝ち進んでいて、どこかのタイトル戦に出てきそうな勢いである。もう本局の悪夢は早いところ忘れて、次の将棋を頑張ればいい。
石本さくら、憶えておこう。
そして挑戦者決定戦に進んだ伊藤女流三段の相手は、上田初美女流四段だった。なるほどここまで勝ち進んだだけあって、おふたりとも、里見清麗からタイトルを獲れる数少ない女流棋士である。
挑戦者決定戦が楽しみである。