羽生善治九段が大山康晴十五世名人と対局したときの印象は、ざっくり書くと
「(年齢的に)私相手に本気で指していたとは思えない。しかし威圧感があり、攻めても攻めても受け返された。手を読んでいるのではなく、大局観で指している感じだった」
というものだった。
だが羽生九段の対大山十五世名人は6勝3敗(●○○○●○○●□)、つまりダブルスコアだった。リップサービスを割り引いても、ずいぶん十五世名人を持ち上げている気がするのだ。
だがその星をよく見ると、最終局は大山十五世名人の逝去による、羽生九段の不戦勝だった(JT杯日本シリーズ)。またふたりは、公式戦初戦の前に「将棋世界」の企画で対戦しており、これは大山十五世名人が勝っている(1987年11月)。
となると、羽生九段の5勝4敗(●●○○○●○○●)という見方もできるのだ。
現在も通算勝率7割を誇っている羽生九段が、47も歳の離れた老棋士(失礼)とほぼ互角だった。そう考えれば、羽生九段の述懐も、あながちオーバーではないと思えてくる。
そして私には、むかしから気になる局面があった。公式戦6局目の早指し将棋選手権戦がそうで、この将棋、羽生棋王が勝ったのだが、終盤で大山十五世名人に一瞬勝ちがあったのではと思うのである。

図がそうで、実戦は▲3七同金△同成桂▲同玉△4八銀▲2七玉△3七金▲1七玉△3四飛▲同馬△1五香▲1六歩△2七金打まで、羽生棋王の勝ちとなった。
これでは紛れがないので、第1図で目をつぶって▲2三銀成はなかったか。これは当時の解説者も触れていたが、以下△3八歩成▲1七玉(問題図)で、後手玉が詰めろ。先手玉は△1八金▲同玉△2七銀▲同玉△3七成桂以下王手は続くが、際どく詰まないと思う。これは後手も気持ち悪いのではないか。

問題図で△1二香は▲1三歩△同桂▲同成銀(参考A図)。

これは次に▲2三桂△2一玉▲1一金△同銀▲同馬までと、▲1二成銀△同玉▲2四桂△2三玉(△1三玉は▲1二金△2三玉▲2二金△同金▲同馬以下詰み)▲1二銀△1三玉▲1四馬△同玉▲2五金△1三玉▲1四香(参考B図)までの2つの詰めろがかかっている。

これらの詰み筋が解きにくく、どうも△1二香は最善手でない気がする。
よって問題図で、△1二銀か△1三金を考えてみる。
△1二銀には、とりあえず▲同成銀と取ってみる。以下△同玉に王手を続けるには▲2三銀しかない。これに△2三同玉は玉が露出するので、△2三同銀。以下▲1三歩△同玉(△同桂は▲1一金まで)▲2四銀△同銀▲同馬△同玉▲2五歩△3四玉(参考C図)となる。

これは△4一香の利きが強く、後手玉は詰まない。さりとてここから受けに回るにも先手は駒を渡しすぎており、これは後手勝ちだと思う。
念のため△1三金の変化もやると、▲同成銀△同桂▲1二歩△同玉▲2三銀△同玉▲2四金△1二玉▲1四馬(参考D図)となる。これは一応、▲2三金△同銀▲1一金までの詰めろだ。

対して後手には△2一玉、△3三歩、△4四歩などの受けが考えられるが、仮に△4四歩としてみよう。以下▲2三金打△2一玉▲1三金上△同銀▲同馬が進行の一例だが、そこで△1五香▲1六歩△1八金▲同玉△1六香▲1七歩△2八金(参考E図)で、先手玉が詰んでしまう。

よって私の拙い検討では、問題図でも後手が勝ちとなるのだが、△1二銀・△1三金とも▲2四銀と打って千日手含みに粘る手もあり、変化は多岐に渡る。少なくとも本譜よりははるかに紛れがあるのだ。
ただ羽生棋王のことだから、問題図になれば黙って△1二銀と打ち、簡単に勝ちにするのであろう。
とはいえこのように大山―羽生戦には一手違いの際どい将棋が多い。冒頭の羽生九段の述懐も、大いに頷けるのであった。
6月23日午前1時30分追記:念のため「平成3年版将棋年鑑」を繰ると、この将棋が載っていて、「▲3七同金=逆転の機をのがす、▲2三銀成△3八歩成▲1七玉で勝ちだった。」との解説があった。
なんだい、最初にここを見ておけば良かった……。
でもそれなら、私の出した結論はどうなるのだろう。
「(年齢的に)私相手に本気で指していたとは思えない。しかし威圧感があり、攻めても攻めても受け返された。手を読んでいるのではなく、大局観で指している感じだった」
というものだった。
だが羽生九段の対大山十五世名人は6勝3敗(●○○○●○○●□)、つまりダブルスコアだった。リップサービスを割り引いても、ずいぶん十五世名人を持ち上げている気がするのだ。
だがその星をよく見ると、最終局は大山十五世名人の逝去による、羽生九段の不戦勝だった(JT杯日本シリーズ)。またふたりは、公式戦初戦の前に「将棋世界」の企画で対戦しており、これは大山十五世名人が勝っている(1987年11月)。
となると、羽生九段の5勝4敗(●●○○○●○○●)という見方もできるのだ。
現在も通算勝率7割を誇っている羽生九段が、47も歳の離れた老棋士(失礼)とほぼ互角だった。そう考えれば、羽生九段の述懐も、あながちオーバーではないと思えてくる。
そして私には、むかしから気になる局面があった。公式戦6局目の早指し将棋選手権戦がそうで、この将棋、羽生棋王が勝ったのだが、終盤で大山十五世名人に一瞬勝ちがあったのではと思うのである。

図がそうで、実戦は▲3七同金△同成桂▲同玉△4八銀▲2七玉△3七金▲1七玉△3四飛▲同馬△1五香▲1六歩△2七金打まで、羽生棋王の勝ちとなった。
これでは紛れがないので、第1図で目をつぶって▲2三銀成はなかったか。これは当時の解説者も触れていたが、以下△3八歩成▲1七玉(問題図)で、後手玉が詰めろ。先手玉は△1八金▲同玉△2七銀▲同玉△3七成桂以下王手は続くが、際どく詰まないと思う。これは後手も気持ち悪いのではないか。

問題図で△1二香は▲1三歩△同桂▲同成銀(参考A図)。

これは次に▲2三桂△2一玉▲1一金△同銀▲同馬までと、▲1二成銀△同玉▲2四桂△2三玉(△1三玉は▲1二金△2三玉▲2二金△同金▲同馬以下詰み)▲1二銀△1三玉▲1四馬△同玉▲2五金△1三玉▲1四香(参考B図)までの2つの詰めろがかかっている。

これらの詰み筋が解きにくく、どうも△1二香は最善手でない気がする。
よって問題図で、△1二銀か△1三金を考えてみる。
△1二銀には、とりあえず▲同成銀と取ってみる。以下△同玉に王手を続けるには▲2三銀しかない。これに△2三同玉は玉が露出するので、△2三同銀。以下▲1三歩△同玉(△同桂は▲1一金まで)▲2四銀△同銀▲同馬△同玉▲2五歩△3四玉(参考C図)となる。

これは△4一香の利きが強く、後手玉は詰まない。さりとてここから受けに回るにも先手は駒を渡しすぎており、これは後手勝ちだと思う。
念のため△1三金の変化もやると、▲同成銀△同桂▲1二歩△同玉▲2三銀△同玉▲2四金△1二玉▲1四馬(参考D図)となる。これは一応、▲2三金△同銀▲1一金までの詰めろだ。

対して後手には△2一玉、△3三歩、△4四歩などの受けが考えられるが、仮に△4四歩としてみよう。以下▲2三金打△2一玉▲1三金上△同銀▲同馬が進行の一例だが、そこで△1五香▲1六歩△1八金▲同玉△1六香▲1七歩△2八金(参考E図)で、先手玉が詰んでしまう。

よって私の拙い検討では、問題図でも後手が勝ちとなるのだが、△1二銀・△1三金とも▲2四銀と打って千日手含みに粘る手もあり、変化は多岐に渡る。少なくとも本譜よりははるかに紛れがあるのだ。
ただ羽生棋王のことだから、問題図になれば黙って△1二銀と打ち、簡単に勝ちにするのであろう。
とはいえこのように大山―羽生戦には一手違いの際どい将棋が多い。冒頭の羽生九段の述懐も、大いに頷けるのであった。
6月23日午前1時30分追記:念のため「平成3年版将棋年鑑」を繰ると、この将棋が載っていて、「▲3七同金=逆転の機をのがす、▲2三銀成△3八歩成▲1七玉で勝ちだった。」との解説があった。
なんだい、最初にここを見ておけば良かった……。
でもそれなら、私の出した結論はどうなるのだろう。