いまさらだが、第68期王座戦で、当時44歳の久保利明九段が挑戦を決めたのは快挙だった。だが相手は20代最強の永瀬拓矢王座。久保九段には悪いが、番勝負では勝てないと思った。
第1局は激戦のすえ永瀬王座が先勝。第2局は久保九段が返し、1勝1敗。しかし第3局は永瀬王座が勝ち、これは永瀬王座がそのまま防衛すると思った。
第4局は先手久保九段の四間飛車。対して永瀬王座が△5五角と出たのが趣向だが、まあよくある展開になった。以下二枚飛車対二枚角の戦いになったが、と金を作って駒得が約束された永瀬王座を持ちたいように思えた。
そこで▲8九竜(第1図)と引っ張ったのが、久保流の粘りである。

久保九段には「捌きのアーティスト」の異名があるが、不利な局面での粘りにも定評がある。実はこれこそが久保九段の持ち味であって、私にはこちらが真の顔に思える。私には華麗な捌きはできないが、不屈の粘りは参考になる。こうした局面を集めた実戦集を編んでもらいたいくらいだ。
以降も久保九段は耐えるが、117手目▲4九同銀(第2図)の局面は金香交換の駒損で、美濃囲いも崩れている。相手が永瀬王座であることも思えば、とても勝てる気がしない。

だが久保九段は頑張った。△1七歩▲同香と吊り上げられたが、そこから玉を潜って穴熊を急造すると、1筋から逆襲して逆転勝ちを収めたのだった。
これで決着は、14日の最終局に持ち越された。永瀬王座は叡王と王座のタイトルを持ち、棋聖戦と王位戦では挑戦者決定戦まで進んだ。四冠王になるんじゃないか、という勢いだった。
だが棋聖戦と王位戦は、いずれも藤井聡太七段に敗れた。叡王戦は豊島将之竜王を3勝2敗2持将棋1千日手とカド番に追い込んだが、逆転奪取を許した。かなり勝っているのに結果が伴わないわけで、この王座戦で敗れたら、夢の四冠王から無冠に転落してしまう。よってこの最終局は、絶対に負けられない一戦だった。
最終局は久保九段の先手。ここまで「●○●○」だから、すべて先手番が勝っている。しかもこの星の並びは過去3回あるが、いずれも追いついた側が最後に勝っている。「流れは自分に来ている」と思ったのではないだろうか。

久保九段は中飛車に振り、第1図の▲7五歩が大胆な手だった。ここでは▲7八金とか▲3八玉とか、いくらでも優先手がある。そこを▲7五歩は、久保九段にしか指せない手だ。だがいかにも危険すぎた。
というのも永瀬王座の△5四歩が機敏だったからで、以下▲同歩△8八角成▲同銀△4五角▲3八玉△6七角成(第2図)となっては、後手が一本取った形である。

以下飛車馬交換になり久保九段が二枚角を据えたが、第3図では持駒が歩2枚。金銀も前線に繰り出しておらず、とりわけ▲8八銀の存在が中途半端すぎる。さすがの久保九段といえども、ここから捌くのは難儀に思われた。

いまさらだが、なんで久保九段は第1図の▲7五歩を突いてしまったのだろう。この手はあとからでも指せたのではないか?
第3図以下は永瀬王座が手堅く指し回し、完勝。王座戦では初の「○●○●○」で、うれしい初防衛となった。また永瀬王座はタイトル3期につき、九段に昇段した。
久保九段は残念だったが、現在振り飛車党のトップランナーは、久保九段と菅井竜也八段のふたりしかいない。多くのアマ振り飛車党からすれば教祖のような存在で、まだまだ活躍してもらわないと困る。久保九段は7月よりツイッターを開設し、日々の反響の大きさに驚いたというが、そのくらい、久保九段の振り飛車と人となりは注目されているのだ。
あのヒゲは似合わないと思うがそれはともかく、またのタイトル戦登場を期待しております。
第1局は激戦のすえ永瀬王座が先勝。第2局は久保九段が返し、1勝1敗。しかし第3局は永瀬王座が勝ち、これは永瀬王座がそのまま防衛すると思った。
第4局は先手久保九段の四間飛車。対して永瀬王座が△5五角と出たのが趣向だが、まあよくある展開になった。以下二枚飛車対二枚角の戦いになったが、と金を作って駒得が約束された永瀬王座を持ちたいように思えた。
そこで▲8九竜(第1図)と引っ張ったのが、久保流の粘りである。

久保九段には「捌きのアーティスト」の異名があるが、不利な局面での粘りにも定評がある。実はこれこそが久保九段の持ち味であって、私にはこちらが真の顔に思える。私には華麗な捌きはできないが、不屈の粘りは参考になる。こうした局面を集めた実戦集を編んでもらいたいくらいだ。
以降も久保九段は耐えるが、117手目▲4九同銀(第2図)の局面は金香交換の駒損で、美濃囲いも崩れている。相手が永瀬王座であることも思えば、とても勝てる気がしない。

だが久保九段は頑張った。△1七歩▲同香と吊り上げられたが、そこから玉を潜って穴熊を急造すると、1筋から逆襲して逆転勝ちを収めたのだった。
これで決着は、14日の最終局に持ち越された。永瀬王座は叡王と王座のタイトルを持ち、棋聖戦と王位戦では挑戦者決定戦まで進んだ。四冠王になるんじゃないか、という勢いだった。
だが棋聖戦と王位戦は、いずれも藤井聡太七段に敗れた。叡王戦は豊島将之竜王を3勝2敗2持将棋1千日手とカド番に追い込んだが、逆転奪取を許した。かなり勝っているのに結果が伴わないわけで、この王座戦で敗れたら、夢の四冠王から無冠に転落してしまう。よってこの最終局は、絶対に負けられない一戦だった。
最終局は久保九段の先手。ここまで「●○●○」だから、すべて先手番が勝っている。しかもこの星の並びは過去3回あるが、いずれも追いついた側が最後に勝っている。「流れは自分に来ている」と思ったのではないだろうか。

久保九段は中飛車に振り、第1図の▲7五歩が大胆な手だった。ここでは▲7八金とか▲3八玉とか、いくらでも優先手がある。そこを▲7五歩は、久保九段にしか指せない手だ。だがいかにも危険すぎた。
というのも永瀬王座の△5四歩が機敏だったからで、以下▲同歩△8八角成▲同銀△4五角▲3八玉△6七角成(第2図)となっては、後手が一本取った形である。

以下飛車馬交換になり久保九段が二枚角を据えたが、第3図では持駒が歩2枚。金銀も前線に繰り出しておらず、とりわけ▲8八銀の存在が中途半端すぎる。さすがの久保九段といえども、ここから捌くのは難儀に思われた。

いまさらだが、なんで久保九段は第1図の▲7五歩を突いてしまったのだろう。この手はあとからでも指せたのではないか?
第3図以下は永瀬王座が手堅く指し回し、完勝。王座戦では初の「○●○●○」で、うれしい初防衛となった。また永瀬王座はタイトル3期につき、九段に昇段した。
久保九段は残念だったが、現在振り飛車党のトップランナーは、久保九段と菅井竜也八段のふたりしかいない。多くのアマ振り飛車党からすれば教祖のような存在で、まだまだ活躍してもらわないと困る。久保九段は7月よりツイッターを開設し、日々の反響の大きさに驚いたというが、そのくらい、久保九段の振り飛車と人となりは注目されているのだ。
あのヒゲは似合わないと思うがそれはともかく、またのタイトル戦登場を期待しております。