彼らは小学生低学年。15~6人いるだろうか。彼らが廊下の両端に立ち、めいめいが画板のようなものを立てかけた。見ると、幕末時代の日本各地の偉人のレポートが書かれてあった。そう彼らは、この佐賀城本丸歴史館の「子どもガイド」なのだった。
客はそれを心得て、めいめいのガイドへ向かい拝聴する。
「私は、しまよしたけのはっぴょうをします」
ある女の子ガイドが言う。彼女は島義勇をレポートしたわけだ。「しまよしたけは、いまのほっかいどう、さっぽろしのまちづくりのきそをきずいた人です」
女の子の発音は明瞭だ。「ほっかいどうのちょうさは2年にもおよび、とてもきびしいものでした」
さらに、合間にクイズがあり、客を飽きさせない。「しまよしたけがさいごにいっしょにたたかったのはだれでしょう?」
歴史に疎い私はまったく分からぬが、そこは3択にしてくれている。そして紙片をめくると、正解が書かれているという按配であった。
次のクイズ。
「むかしのほっかいどうの名まえはなんでしょうか?」
これは私も分かるが、即答してはいけない。「難しい。ヒントをください」とお願いするのが本筋である。
ほかをあたると、齋藤用之助をレポートした子どもガイドも多かった。
「クイズです。さいとうようのすけが、あまりのさむさに、あるものをだきしめてねたこともありました。それはなんでしょう?」
私はこの前のガイド君から学習したが、ここでも即答してはいけない。「ああ分かりません」と悩むのが筋である。
彼らは若いのに、レポートも文字も口調もしっかりしている。しかも貴重な休日を割いてのボランティアは見上げたもので、彼らを見ると、日本の未来は安泰、の思いを強くする。
堕落した生活を送っている私は、彼らの活動に頭が下がるばかりであった。
さて帰り口である。そこには募金箱が設置されていたが、投じる客はいない。私は子どもガイドの誠実な「仕事」に感激し、いくらか入れるつもりだった。が、私はさっきの博物館で小銭300円を投じてしまい、もう硬貨は500円玉しか残っていなかった。
あの時100円でも残していたら……と思うが、もう遅い。さすがに500円は出せないのでコソコソ表に出たのだが、どうも心に引っ掛かる。それで引き返し、近くにいたスタッフに「子どもたちのレポートが良かったので」と強調し、これ見よがしに500円を投じた。
しかし……。幕末維新博覧会の800円をケチって入館を見合わせたのに、募金で800円を投じるとは、カネの遣い方がメチャクチャである。
そろそろ天神に向かわなければならない。高速バスはこの道を通らないので、佐賀駅バスセンターまで戻る必要がある。ちょっと時間が厳しくなってきたので、駅前までバスで戻ることにした。しかし徒歩圏内をバスで行くとは、私もずいぶん偉くなったものである。
市営バスの博物館前から乗り、タイム10数分で、佐賀駅前に着いた。バス代は150円と安く、これなら往路でも利用すべきだった。ただそれだと、羊羹の購入や昼食はなかったことになり、それはそれで別の局面になったが。
駅構内のドラッグストアでは、500mlのペットボトルが90円、「アルフォートミニチョコレート」が69円で売られていた。前者はともかく後者は激安で、どちらも購入した。
天神行きの高速バス「わかくす号」は15時45分発(1,030円)。シートに座って、一安心である。お茶を飲み、チョコを頬張る。これを至福の時間という。佐賀では思いのほか感動に浸ることができ、私はすこぶる満足だった。
天神へは交通渋滞が激しく、定刻を31分遅れの、17時38分に到着した。天神は5月の博多どんたく以来で、懐かしい。
冬のこの時期、辺りはすっかり暗くなっている。雨は断続的に降っていたが、天神は本降りである。昨年の今時分は、福岡城址でプロジェクションマッピングのイベントをやっていが、今年はないようだった。もとよりこの雨では、もう観光どころではない。
とりあえず食事というわけで、私は地下街に潜り、いつぞや入ったことのあるうどん屋を探す。だがこれが見つからない。
私は地上に上がり、市庁舎前に行くと、今年も「TENJIN Christmas Market」をやっていた。毎年ここを覗いて、年末を実感するのが恒例である。
今年も電飾が綺麗だが、今年は降雨なので、エリア内は活気がない。飲食スペースのテーブルも水浸しで、客は座れない。ちょっと寂しかった。
徒歩で博多駅前に行く。こちらも綺麗にライトアップされ、ステージでは誰かがライヴをやっていた。こちらは客席に屋根があるので、客がそのスペースにだけ固まっていた。
私は筑紫口の食堂街に行く。さんざん迷ったが、あるうどん屋に入り、「よくばりセット」(うどん、ミニカツ丼、エビフライ)を注文した(960円)。どうも昼食と毛色が似ているが、私が何を食べようが私の自由だ。
よくばりセットは、どれも美味かった。
時刻は午後7時20分を過ぎたところ。ANAの羽田行きは21時25分発だから、余裕である。ちょっと早いが、私は地下鉄空港線に乗った。早かった1泊2日だが、今年の長崎旅行も楽しかった。
◇
無事帰宅して、私は例のガイドブックを確認した。それはやはり捨てていたが、机の抽斗を開けると、ポラロイド写真がしっかり残されていた。
やはり私は写真を保存していたのだ! 私は1年前の自分を、褒めてやりたかった。
客はそれを心得て、めいめいのガイドへ向かい拝聴する。
「私は、しまよしたけのはっぴょうをします」
ある女の子ガイドが言う。彼女は島義勇をレポートしたわけだ。「しまよしたけは、いまのほっかいどう、さっぽろしのまちづくりのきそをきずいた人です」
女の子の発音は明瞭だ。「ほっかいどうのちょうさは2年にもおよび、とてもきびしいものでした」
さらに、合間にクイズがあり、客を飽きさせない。「しまよしたけがさいごにいっしょにたたかったのはだれでしょう?」
歴史に疎い私はまったく分からぬが、そこは3択にしてくれている。そして紙片をめくると、正解が書かれているという按配であった。
次のクイズ。
「むかしのほっかいどうの名まえはなんでしょうか?」
これは私も分かるが、即答してはいけない。「難しい。ヒントをください」とお願いするのが本筋である。
ほかをあたると、齋藤用之助をレポートした子どもガイドも多かった。
「クイズです。さいとうようのすけが、あまりのさむさに、あるものをだきしめてねたこともありました。それはなんでしょう?」
私はこの前のガイド君から学習したが、ここでも即答してはいけない。「ああ分かりません」と悩むのが筋である。
彼らは若いのに、レポートも文字も口調もしっかりしている。しかも貴重な休日を割いてのボランティアは見上げたもので、彼らを見ると、日本の未来は安泰、の思いを強くする。
堕落した生活を送っている私は、彼らの活動に頭が下がるばかりであった。
さて帰り口である。そこには募金箱が設置されていたが、投じる客はいない。私は子どもガイドの誠実な「仕事」に感激し、いくらか入れるつもりだった。が、私はさっきの博物館で小銭300円を投じてしまい、もう硬貨は500円玉しか残っていなかった。
あの時100円でも残していたら……と思うが、もう遅い。さすがに500円は出せないのでコソコソ表に出たのだが、どうも心に引っ掛かる。それで引き返し、近くにいたスタッフに「子どもたちのレポートが良かったので」と強調し、これ見よがしに500円を投じた。
しかし……。幕末維新博覧会の800円をケチって入館を見合わせたのに、募金で800円を投じるとは、カネの遣い方がメチャクチャである。
そろそろ天神に向かわなければならない。高速バスはこの道を通らないので、佐賀駅バスセンターまで戻る必要がある。ちょっと時間が厳しくなってきたので、駅前までバスで戻ることにした。しかし徒歩圏内をバスで行くとは、私もずいぶん偉くなったものである。
市営バスの博物館前から乗り、タイム10数分で、佐賀駅前に着いた。バス代は150円と安く、これなら往路でも利用すべきだった。ただそれだと、羊羹の購入や昼食はなかったことになり、それはそれで別の局面になったが。
駅構内のドラッグストアでは、500mlのペットボトルが90円、「アルフォートミニチョコレート」が69円で売られていた。前者はともかく後者は激安で、どちらも購入した。
天神行きの高速バス「わかくす号」は15時45分発(1,030円)。シートに座って、一安心である。お茶を飲み、チョコを頬張る。これを至福の時間という。佐賀では思いのほか感動に浸ることができ、私はすこぶる満足だった。
天神へは交通渋滞が激しく、定刻を31分遅れの、17時38分に到着した。天神は5月の博多どんたく以来で、懐かしい。
冬のこの時期、辺りはすっかり暗くなっている。雨は断続的に降っていたが、天神は本降りである。昨年の今時分は、福岡城址でプロジェクションマッピングのイベントをやっていが、今年はないようだった。もとよりこの雨では、もう観光どころではない。
とりあえず食事というわけで、私は地下街に潜り、いつぞや入ったことのあるうどん屋を探す。だがこれが見つからない。
私は地上に上がり、市庁舎前に行くと、今年も「TENJIN Christmas Market」をやっていた。毎年ここを覗いて、年末を実感するのが恒例である。
今年も電飾が綺麗だが、今年は降雨なので、エリア内は活気がない。飲食スペースのテーブルも水浸しで、客は座れない。ちょっと寂しかった。
徒歩で博多駅前に行く。こちらも綺麗にライトアップされ、ステージでは誰かがライヴをやっていた。こちらは客席に屋根があるので、客がそのスペースにだけ固まっていた。
私は筑紫口の食堂街に行く。さんざん迷ったが、あるうどん屋に入り、「よくばりセット」(うどん、ミニカツ丼、エビフライ)を注文した(960円)。どうも昼食と毛色が似ているが、私が何を食べようが私の自由だ。
よくばりセットは、どれも美味かった。
時刻は午後7時20分を過ぎたところ。ANAの羽田行きは21時25分発だから、余裕である。ちょっと早いが、私は地下鉄空港線に乗った。早かった1泊2日だが、今年の長崎旅行も楽しかった。
◇
無事帰宅して、私は例のガイドブックを確認した。それはやはり捨てていたが、机の抽斗を開けると、ポラロイド写真がしっかり残されていた。
やはり私は写真を保存していたのだ! 私は1年前の自分を、褒めてやりたかった。