付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「彷徨える艦隊5~戦艦リレントレス」 ジャック・キャンベル

2010-01-11 | ミリタリーSF・未来戦記
 ロミュランのねーちゃんがいるぞ!?というのが、表紙を見た第一印象だったのは内緒。

「殺しは、ときには必要だ。自分の故郷や家族や大切なものを守るためには、必要になる。だが、憎悪は心をむしばむだけだ」
 ギアリー大佐の母の言葉。

 ギアリー大佐指揮する艦隊は行く手を阻む敵を打ち破りながらも祖国アライアンス宙域をめざすが、艦艇は次第に数を減らし、弾薬も燃料も食糧も枯渇寸前という刀折れ矢尽きるのも間近という惨状。
 けれども、反ギアリー派もしくは異星人によるテロ工作は沈静化せず、大佐の心に迷いが生じ始めていた……。

 加速度的にテンポが早くなり、本当に6巻で完結するかも知れないと思わせる5巻めです。破壊工作あり、宙兵隊の強襲作戦あり、そして艦隊戦ももりだくさん。文化ギャップと責任の重さに潰れそうな大佐が艦隊を率いて故郷めざして転戦していくエピソードの繰り返しのようでありながら、次第次第にテンポが速く、大きく、勇壮になっていくあたりが、ボレロのような小説だと思いました。
 そして、まさに戦争SF。艦隊戦ではぶどう弾が飛びかい、敵発見から交戦開始まで何時間という、まるで帆船の戦いですが、それでもストーリーはきちんとSFであり、舞台を16世紀のカリブ海あたりに移し替えただけでは成立しないSF的な面白さが堪能できます。そこが魅力なんでしょうね。

【彷徨える艦隊5】【戦艦リレントレス】【ジャック・キャンベル】【寺田克也】【捕虜収容所】【宙兵隊】【自由政府】【人事課】
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「サラエボ旅行案内」 FAMA

2010-01-11 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「事態が悪くなればなるほどユーモアの生産量は増す」
 これが人間の叡智であり文化の底力であるという池澤夏樹の解説。

 ユーゴスラビアから独立したボスニア・ヘルツェゴビナで発生した内戦は1992年から1995年まで続き、死者だけでも20万人を超えたとされています。その間、セルビア人勢力によって包囲され続けた都市サラエボの状況を、ミシュラン形式のガイドブックとして紹介したものが本書。日本版の刊行は1994年1月です。
 こういう本を第三者が作ると悪趣味と非難されるかも知れませんが、サラエボを拠点とする編集グループによるものなので一種のブラック・ユーモアを利用したアピール活動といえるでしょう。
 包囲下の都市に出入りできるのは、外交官・報道関係者・人権援助活動グループ。救急車や赤十字の腕章は狙撃のターゲットにしかすぎず、街の真ん中には国連治安維持部隊が抑えた空港があるけれど、外へのキップを手に入れるのは至難の業。その優先順位やワイロの相場から、市内の交通事情、食事や観光についてもあれこれフォーマット通りに記述されています。
 市電・バス・バン・トロリーバス・ケーブル鉄道は動いておらず、タクシーは存在していません。車は壊れるか没収されるかで、ガソリンも不足しているので主な交通手段は徒歩、そして自転車。ショッピング用カートもレンタルできたようです。ちょっと外出するにも瓦礫を乗りこえ、裏口を通り抜けと片道が精一杯。たまたま電気が通じていて飲み物が手に入った家でパーティーが開かれるというと2日がかりとなります。昼間に移動して辿り着き、徹夜で騒ぎ、また次の日1日かけて自宅にたどり着く……というもの。
 葬式は日常茶飯事だけれど、身内以外は出席しないし花も贈らないのが通例。贈りたくても花など売っていない。そんなセルビアの街を見て歩くためのガイドブックです。

【サラエボ旅行案内】【史上初の戦場都市ガイド】【FAMA】【戦闘糧食】【墓地】【病院】【国連軍】【劇場】
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