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この書の著者も80歳近い前田耕作さん。1960年代に初めてバーミヤンを訪れ、タリバンの蛮行の後も、すぐ訪れたという。筋がね入りの、シルクロード研究者だ。
玄奘三蔵の歩んだ道を振り返る本は、たくさんあるが、簡潔で、かつ学術的な本では、本書が一番ではないか。4月に発行されたばかりの本だ。三蔵法師が、シルクロードの旅から、長安に帰ったのが、645年だから、そのHOTな仏教の教えが、遣唐使によって、超スピードで日本にもたらされたと言っても過言ではない。
インドに行くまでのルートを克明に振り帰っている。長安から、ガンダーラまでだが、その後のインドの旅については、触れられていない。乞うご期待ということなのかもしれない。
いろいろな西洋の学者の名前が出てくるが、今まで読んだ中央亜細亜探検では出てこなかった名前もある。アルフレッド・フーシェさんの名は、初めて知った。いわゆるシルクロードと、三蔵法師の歩んだ道は、異なる部分も多い。
驚くべきことに、(本書によれば)ヒンドゥクシュを越えてバーミヤンに至る道は、まだ未踏査なのだそうだ。元々難易度が高いルートである上に、政治的にも今は、足を踏み入れるのが困難になっている。
バーミヤンの部分についての記載は、特に気合が入っている。三蔵法師の旅の中でも、ハイライトと言ってもいいかもしれない。大唐西域記には、大きな涅槃像があったということが、克明に記されているとのことだが、その場所すらまったくわからないという。
私も、崩壊しかけた仏像を多くみたが、一度仏像でなくなったら、あっという間に跡かたもなくなってしまうだろう。
現代人から見れば、三蔵法師の旅は、歴史の旅でもあり、ロマンの旅でもある。
この本になるべく忠実に(大唐西域記に記載の通り)、全ルート踏破できる日は、来るのだろうか。