《風のように人生を過ぎていく。番外編2》
《番外編1〈通夜の夜〉》の続きです。
「こんなに早くなんか寝られないや。」と言っていた夫は9時半頃にはグーグー。
前日に、引越しをしていた超ハードスケジュールの妹たち夫婦はスヤスヤ。
いろいろ気疲れの姉夫婦もムニャムニャ。
いつもの睡眠時間の母はとっくに夢の中。
帰ってきたラッタくんさえ5分待たずにぐっすり。
とにかく時間外の人はみんなが寝てる・・・・・。
なんで私だけがお目目、バッチリなの。
体操したりトイレに行ったり・・・・。
トイレを出てきたら母の叔母が、つまり私の大叔母と遭遇しました。
「眠れないのか?緊張してるんだなあ。」と彼女が言いました。
緊張―そうかも。私はちっちゃい心の女なの。 いやいや、「狭い」と言っているのではなく「ちっちゃい」。そこの所大事です。
こんなに眠れないなら、時間外で行くかなと思ったけれど、あれはやっぱり時間を決めておいて良かったのだと変なところで気が付きました。だって通夜の場所に泊まりこみなら何の心配もないことだけれど、家から行くのでは鍵の数が足りないじゃない。
と言うことは好き勝手には行けないということでもあったのですよね。
とにかくお目目ランランのまま午前2時の丑三つ時がやって来ました。
私、嫌な予感がして来ました。
私の事だからきっとやっちまうなと・・・。
私と姉は2時から5時までの寝ずの番です。時間をずらして2時から3時までは姉妹4人の時間を持ちました。
この1時間で父の最期の時の様子をまたゆっくり話したり、私の携帯に残っている父の留守電を聞いたりして、皆でハラハラと泣きました。
父は本当は11月13日の自分の誕生日に死にたかったのです。4月の終わりには移動する時には苦しかったものの、後は普通に暮らしていた父。あっという間のまさかの1ヶ月だったかも知れません。ただ医師の話を聞いていた姉と私だけはそう思ってはいなかったのです。父の願いは知っていたので、その11月13日は何かをしようと思っていました。そのことを妹達に告げたり、来年のお正月は「お正月」という名前ではなくても、やっぱりみんなで同じ様に集まろうなどとお話したりしました。
そんなこんなで1時間の時間が過ぎ3時に妹達が帰って行くと、やっぱり思っていたことが起きたのです。
ネ・ム・イ
ネムネムネムイ・・・・。
待っていた眠さがやってきたのです。この眠さを逃したくない私は、姉に正直に言いました。
「寝ても良いかな~?」
―なんで今寝るのよ、ガミガミガミ
なんてことは絶対に姉からは言われないのです。
「いいよ、いいよ。じゃあ、私は下に行ってお線香をあげたりして祭壇の所に行ってるね。」
すでに半分寝ぼけちゃってる私は、それでもムニャムニャ言いました。
「もしかしたら、これって怖くない?」
「・・・・・」
もう私は夢の中。なんたってカウント5で寝られちゃう人なので。
バサッと倒れこむように寝てしばらく立つと、体がゆさゆさ揺れました。
―うわっ、地震なの。こんな日に。下では火も使ってるし。
と飛び起きて周りを見回すと電気のスイッチの紐も揺れてない・・・。
あれっ?
う~む!
私はちらりと二階にも飾ってある父の写真を見て
「もしかしたら、起こした?」と聞きました。
―そうだよ。みんなちゃんとそれなりにやってるのに、なんでお前だけがここに来て寝てるんだ。
と、心の中で声が聞こえましたが、それは自分の声であって父の声でなかったのは逆に残念でした。
階下に降りて行くと、姉が一人静かに手を合わせていました。
その後ろに座って同じように祈りはじめたのですが、なんたって眠くて体がモニャモニャ動きます。
すると姉がイキナリすごい笑顔で
「ああ、ありがとう。早めに来てくれたんだね。」と振り向いたのでビックリしました。
振り向いても、まだ誰も来ていません。
「何をおっしゃってるの。誰も居ませんよ。」
「えっ、だって、誰か人の気配がしたじゃん。」
「えーっ、やっだー。しないよ。そんなの。 あっ、これかな。」と体をモニャモニャ動かすと、椅子がキシキシ音を立て
「ああ、それだね。その音だね、きっと。」と姉は言いました。
なんでそのような怖い演出をするのだと思いながら、眠い目をこすりつつ、姉の後ろで手を合わせて祈っていました。
と、その直ぐ直後、突然ガタッと音がしたので、私はまたビックリして漫画のように
「うわっ!!」とピョンと飛び上がってしまいました。
だけどそこには私と妹の夫たちが立っていたのでした。
「ああ。本当に早く来てくれたんだ。」
驚いたので満面の笑顔ではない私がそう言っても、何が「本当に」なのかわからない彼らでしたが、 とにかく早く来てくれたので助かりました。
しかも早く来たので、鍵を持っている義兄を置いてきてしまったとのことで、家は鍵が開いている状態。急いで帰る口実も出来、びゅううと帰った私は布団に倒れこみ、ぐっすり2時間ぐらい寝た頃、下の子供〈ルート君〉が起きました。
彼は前日までの仕事がハードすぎていとこ同盟から離脱していたのです。
「起きたけれど、どうしよう。」と言うので
「まだパパがいるから、今から行けばいいと思うよ。やっぱりチョットでも参加した方がいいよ。」 と言うと、出かけて行きました。
いつも夜の睡眠時間が短く朝も早いので、私ももう気分もスッキリで朝食の支度のお手伝いに起きました。
この寝ずの番は、朝7時までやったのですが、最後の夫たち+ルート君が帰って来ると、彼らは不思議なことを言いました。
「30分ぐらい前なんだけれどさあ、ルートが来て義兄さんが先に帰った頃、俺達二階で話していたんだよ。そしたら階下で『バッターン』っていう大きた音がして、『やばい、何かが倒れたんだ。』って三人で下に駆け下りたんだけれど、なんにも倒れてなんかいなかったんだよ。その音は三人とも聞いたんだよ。」
それを聞いて、私が
「実はお父さん、私達と一緒に側に居たね。それでふと気がついたらすっかり夜なんて明けちゃっていて『マズイ! すっかり朝じゃないか』って慌てて帰った音だと思うな。」と言うと、妙にみんな納得したのでした。
「そう言えば、私も真夜中に体がゆらゆら揺れて・・・」と言うと、
「それは、あなたが勝手に寝ぼけただけでしょ。」と誰も聞いてくれない・・・・
ショボーン・・・・・・。
※ ※ ※
「デル」という噂で怖いからと言って、そこには泊まらなかったのに、真夜中にひとりでその広い部屋に寝ちゃって、もう片方ははやっぱりひとりで祭壇前に座っていました。
「いつもなら、昼間だってひとりでここに座っててって言われても、怖くて出来ないわ、私。」と姉は言いました。
そんなことが出来た通夜の夜。
あの時「もしかして、これって怖くない?」と私が寝ぼけながら言うと
「大丈夫。お父さんが一緒だもん。全然怖くないよ。」と姉は言ったのでした。