夫の入院が思ってもいなかった長さになってしまうと、これはやはり一度くらいは顔出そうと横浜で独立して暮らすラッタさんが病院にやって来ました。
と言いましても、着いた時間を見計らって駅まで迎えに行くと言う至れり尽くせりな待遇です。
お昼近くだったので、先にラッタとルートの二人の息子と一緒にランチに行く事にしました。
当初、予定していたステーキ屋さんが満杯で、車も止める所がなかったので予定を変更してララポート内の和食ブッフェに行きました。そこで夕食なんかいらないんじゃないかしらと思えるくらい、三人でたくさんいただきました。
食事後に夫の病院に向かったのですが、お腹がいっぱいになりすぎて眠ーい。
私は車の後ろの席で、何度も意識を失ってしまいました。運転していたルート君も助手席に座っていたラッタさんもかなりきつかったみたいで、病院の駐車場で仮眠してからやって来ました。
先に病室に着いた私は、ふと
「子供たちは後から来るわ。」とわざと言ってみました。
「ふーん、そう。」と夫。
私は何も言いませんでしたが、怪しい~と思いました。
と言うのは、私は今日、ラッタさんが来ることをずっと夫には黙っていたのです。
驚く顔がそして喜ぶ顔が見たくて、内緒にしてあったのです。
だけど朝、姑から電話があった時に病院に行く時間の予定を言うために、その事を言ってしまいました。
だから「内緒にしてね。」と念を押しておきました。
でも、危ない人がもうひとりいたのです。それは夫の兄。
この人って・・・・・
いやいや、連れ合いの家族の悪口は言わないのが鉄則ですよね。
遅れて息子たちが病室に入ってきました。
先にルート君だけがやって来ると、夫は
「あれっ、ラッタは?」と当たり前のように言い、その時にラッタさんが遅れて入ってきました。
期待していたサプライズはなしです。
「どうして知ってたの。」
「いや、おふくろは言わなかったけれど兄貴がね。」
「やっぱしね。」
あいつ・・・・
いやいや連れ合いの家族の悪口は言わな・・・・
ううん。
一回だけ言う。
― お前, バカ~~!!!
いやっもう一回言う。
― お前、本当に性格悪いよ。
ああ、ほんのちょっぴりスッキリしました。
私、本当にがっかりしたんです。だってずっと何日も黙っていたんですよ。その一瞬が見たかったから。
でも帰る時に、先に息子たちが行ってしまった後、ゆっくりコートを着ながら
「嬉しかった?」と聞くと、夫は短く
「まあね。」と言いました。そして、思いついたように
「送っていこう。」とエレベーターの所まで来てくれました。
扉が閉まる向うで手を振る夫。
家族が4人揃う。ただそれだけなのに、なんだかとっても嬉しいのです。
病院を後にした私たちは、今度は姑の家に行きました。
もちろん恨み言を言うためではあらず。
ラッタさんを姑に会わせる為です。お正月にも会いましたが、会える時には会せた方が喜ぶはずだからです。
短い楽しい時間を過ごし、彼の姿は送って行った駅の中に消えていきました。
1月の最後の日、そして、私の今の年齢の最後の日。
そんな今日と言う日、私はちょっぴり幸せだったのです。