ツバメ続きでもう一つ、お話させてくださいね。このブログの中に時々登場してくる、以前住んでいた不思議空間M町でのお話です。
私がその町に住んでいたのは、裏が森の一軒家でした。ブロックの門から二歩で玄関と言う狭さでしたが、その狭いポーチの上には引っ越した時からツバメの巣がありました。
「ツバメの巣がある家は、福来る縁起の良い家」って、思い込んでいませんか。なぜか私は思っていました。いったい誰がそんなことを言い出したんでしょうね。でも昔からやってくる動物は拒まない方が良いと言うみたいですよ。
それは、動物も魅かれるような福がある家だと言う意味なのだと思います。 その家に住んでいた時、猫のピーちゃんもやってきたりしましたが、季節になるとツバメもやって来ました。
だけど、ツバメに関して言えば、先に言った縁起の良い家と言うのは、ツバメ妖怪が流した噂じゃないかと思います。・・・、馬鹿なことを書いてしまいました。そんなものは居ません。が、縁起がいいと家の住人が思っていれば、巣を作り始めたツバメを追い払おうとする人は、よっぽどでなければいないのではないでしょうか。
だけど、ツバメの巣の下は糞だらけ・・・。お掃除が大変です。
我が家のだんなは、糞除けなんか作ってくれるタイプの人ではないのです。加えてちょっとその家のポーチはそういうものを設置しづらいような感じでした。さらに言うと、ツバメの巣自体もしっかり張り付いていなくて、なんとなく脆い感じもしていました。
ある日、危うい巣の予感は当たってしまいました。ルート君を幼稚園まで迎えに行って戻ってくると、ツバメの巣は巣ごと下に落ちてしまっていました。巣の中で子ツバメたちはピーピー鳴いていました。親鳥達はなす術もなく飛び回っていました。
こういう場合どうしたらいいのでしょう。そっと巣ごとブロックの門の上に持ち上げてあげました。でも、巣はもうボロボロです。門の上では猫にも烏にも狙われてしまうでしょう。
仕方がないので家の中に入って、適当な箱を探しました。こういう時に限ってちょうど良い箱がありません。その時閃きました。ああ、そうだ。あの箱を使ってしまおう。そう思って出してきたのは、抹茶用の茶碗が入っている箱です。別に名のある茶碗でもないので、箱は譲ってもらうことにしました。
その箱の側面に穴を開けて新聞やテッシュで上げ底にし、私に襲われていると思って恐怖の悲鳴をあげている子ツバメと、敵意の視線を向けている親ツバメを無視して、その箱の中に巣をそっと入れてあげました。 その時の家の前の住人は、玄関のところにウェルカムボードを掛けるためにフックを付けておいてくれました。私はそこにその巣を入れた箱を掛けてあげました。
酷い巣箱です。でも不器用な私には精一杯です。出来ることしか出来ません。
親ツバメもその変な巣箱を怪しんで近寄らずほとんど一日、子ツバメが放置されていたことが気になりましたが、翌日辺りからまた親鳥が餌を運ぶようになり安心しました。 そこに巣箱を置いたことによって、我が家は天然ドアチャイムが付いたようになりました。ドアを開けるたびに、子ツバメがピーピーと鳴くのです。
「燕」と言う記事に載せた写真のようにです。
余談ですが、あの燕の写真を「可愛い。」と書きましたが、そう思わない人もたくさん居るかも知れませんね。彼らがハンサムに成るにはもう少し時間が掛かるのです。でも、あのとぼけた感じの顔も近くで見ていると、かわいいものなんですが、客観的に見ると不細工かも知れませんね。
そして最初は小さな子ツバメも、あっという間に大きくなり巣箱はギュウギュウになってしまいます。この時の巣箱を見るのも好きです。押し合いへし合い、ツバメがそのまま落ちてきそうになるんですよ。
だけどある日の夕方、外は雨が降っているのかしらとドアを開けた私は、いつものように子ツバメたちが鳴かないことに気がつきました。 パッと横を見ると、子ツバメが一羽クイっと首をこちらに向けて私を見ました。私はそのツバメの真っ直ぐなまなざしにドキリとしました。見ると、他のツバメは居ません。そのツバメは最後の一羽。パッと視線を前の空に移すと、親鳥が上空の電線に止まって、その子ツバメを見守っていました。
思わず私は「ごめん。」と言ってドアを閉めました。そして玄関の内側で息を潜め、しばらくの間じっとしていました。そして間をかなり空けてから、そっとドアを開けてみました。 巣箱の中は空っぽです。全てのツバメが飛び立っていったのです。私は、ツバメは良く晴れた午後飛び立っていくのかと思いこんでいました。こんな夕暮れ時に、しかももうすぐ雨も降りそうだと言うのに飛び立っていくなんてことは思っても見なかったことでした。
空気はひんやりしていました。大気は水分を含みすぎて視力の良い目には、既に雨が降り始めている様にも見えました。
私は道に立ち、空っぽの巣箱を眺めてみました。そして雨が降ったら戻ってくるツバメも居るかもしれないなと思い、巣箱はしばらくは外すのは止めようかななんて、そんな事を思っていました。でもそんな心配は無用でした。ハッと気がつくと今飛び立ったばかりのツバメが私の前や後ろを飛び回っていました。夕闇迫る薄暗さの中で、ツバメの色は保護色になり最初は気がつかなかったのです。そして、電線の上にはやはり親ツバメがそれを見守っていました。
そうして一瞬の薄紫色の時を過ぎ本当の夜が近づいてきた頃、親ツバメも子ツバメも何処かへ飛んでいってしまいました。
湿った空気が私の体を包みます。でも心がスゥッと澄んでいくのは、そのせいばかりではないと私は感じていました。ハンサムだった子ツバメの澄んだ眼差しを忘れられません。
翌日ドアを開けても、シーンとしている巣箱が悲しくて、早々に外すことにしました。ふと見上げると、電線の上に親ツバメがその様子をじっと見ていました。
今の私なら
「ツバメが『ありがとう。』と言いにきました。」なんて思ってしまいそうですが、その時の私は違うことを考えて感心していました。
親ツバメはきっと、巣箱に戻ってきてしまったツバメが居ないかどうかを確認をしにきたのだと思ったのです。巣箱を外す私を見届けて、そうして親ツバメも去っていきました。
不思議空間M町での、そんなツバメと私の思い出です。
後、何分かで7月も終わりですね。私はどうも夏バテ気味ですよ。
皆様はいかがですか。8月こそが夏本番。何か素敵な夏からのプレゼントはないものかしら。