現在、意見(パブリックコメント)募集中の、厚労省の新型インフルエンザワクチンの接種の方向性(素案)をご紹介します。
新型インフルエンザについて、理解が深まるご参考になればと思います。
ちなみに、意見募集締め切りは、9/13です。
下線、太字、赤字は、小坂による。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=495090157&OBJ
*****以下、厚労省素案****
新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について
(素案)
平成21年9月4日
厚 生 労 働 省
1.新型インフルエンザ対策における予防接種の位置づけ
(1)新型インフルエンザワクチン接種の目的
・ 新型インフルエンザ(A/H1N1)については、国民の大多数に免疫がないことから、今後秋冬に向けて、季節性のインフルエンザを大きく上回る感染者が発生し、医療をはじめ、我が国の社会経済に深刻な影響を与えるおそれがある。
・ このため、今回のウイルスの特徴等も踏まえ、新型インフルエンザ対策の目標を①国民生活や経済への影響を最小限に抑えつつ、感染拡大を防ぐとともに、②基礎疾患を有する者等を守る、とし、様々な対策を講じている。この「基礎疾患を有する者等を守る」、とは、すなわち直接的、間接的に死亡や重症化を防ぐことを意味する。
・ インフルエンザワクチンは、一般的には、重症化予防、死亡数減少を主な目的として使用されており、今回の新型インフルエンザに対する予防接種も、死亡者や重症者の発生をできる限り減らすこと及びそのために必要な医療を確保することをその目的とする。
(2)予防接種の限界
・ 現在、国内で使用されている季節性インフルエンザワクチンは、重症化や死亡の防止について一定の効果はあるが、感染防止、流行の阻止等に対しては、効果が保証されるものではない。また、極めて稀ではあるが、重篤な副反応も起こりうるものである。
・ 新型インフルエンザワクチンも基本的に同様と考えられるが、今回の新型インフルエンザは、新しい感染症であり、現時点では、有効性や安全性、今後の製造見通しなどについて、一部不確実な面がある。
・ そのため、新型インフルエンザワクチンに係る対策は、当初は季節性インフルエンザワクチンに係る知見に基づき構築するが、新たな知見が得られた段階で、これを適宜見直していくものとする。
・ 新型インフルエンザ対策は、予防接種のみに特化したものとするのではなく、学校の休業などの公衆衛生対策や抗インフルエンザウイルス薬の投与などの複数の対策を総合的・効果的に組み合わせて、バランスのとれた戦略を構築すべきであり、予防接種は、他の戦略と補完しながら進める。
2.ワクチンの接種について
(1)優先接種の必要性について
・ ワクチンの接種については、確保できるワクチンの量が限られており、一定量が順次供給されることから、死亡者や重症者の発生をできる限り減らすこと及びそのために必要な医療を確保すること、という目標に即し、優先的に接種する対象者を決めるべきである。
(2)優先接種対象者についての考え方
・ 直接、インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者(救急隊員を含む。以下同じ。)については、インフルエンザ患者から感染を受けるリスクが高く、その結果、新型インフルエンザの重症患者や重症化するリスクが高い者の他、その他一般の患者に対する医療に支障を来すおそれがある。そこで、流行のピーク時であっても、医療体制を維持する必要があることから、インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者については、第一優先とする。なお、WHOの勧告によると、必要な医療体制を維持するため、第一優先として医療従事者に接種すべきである、とされている。
・ 国内外の事例においては、妊婦及び基礎疾患を有する者(※)について入院数や重症化率、死亡率が高いことが確認されており、新型インフルエンザのリスクが高いことが示唆されていることから、これらの者については、優先接種の対象とする。 なお、基礎疾患を有する者の中でも、1歳~就学前の小児の接種を優先する。
※ 基礎疾患:呼吸器疾患(喘息を含む。)、心疾患(高血圧を除く。)、腎疾患、肝疾患、神経疾患、神経筋疾患、血液疾患、代謝性疾患(糖尿病を含む。)、免疫抑制状態(HIV、悪性腫瘍を含む。)
・ また、海外事例において乳児の入院率が高いこと、国内事例において幼児の重症例がみられていること、小児の感染率が高いことなどが示唆されている。更に、WHOのガイドラインにおいても、5歳未満の小児については、新型インフルエンザ(A/H1N1)のハイリスク者とされている。そのため、就学前の小児については、優先接種の対象とする。
・ ただし、1歳未満の小児については、予防接種によって免疫をつけることが難しいため、次善の策としてその親に接種し、感染を防ぐことが必要となる。そのため、1歳未満の小児の親については、優先接種の対象とする。
・ 以上より、インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者、妊婦及び基礎疾患を有する者(この中でも、1歳~就学前の小児の接種を優先)、1歳~就学前の小児、1歳未満の小児の両親の順に、優先的に接種を開始する。なお、一つのカテゴリーの接種が終了してから、次のカテゴリーの接種を開始するものではなく、出荷の状況に応じて、各カテゴリーの接種を開始する。
(3) その他の者についての考え方
・ 今回の新型インフルエンザについては、現在の国内の事例において、発症者の約70%、入院患者の約80%が10代以下の若年層となっており、その多くは普段健康な若年者である。今後もこうした世代で感染者が急激に増加し、その中から、重症者が一定程度生じる可能性が高い。
・ また、高齢者については、季節性インフルエンザにおいて重症化リスクが高い集団である。現時点では、新型インフルエンザの感染者数が相対的に少ないため、基礎疾患を持たない高齢者の重症化事例が多く報告されているわけではないが、今般の新型インフルエンザが、季節性インフルエンザと類似した性質を多く持っていることに鑑みると、基礎疾患を持たない高齢者も、重症化のリスクが高い可能性がある。
・ こうした観点から、小学生、中学生、高校生、高齢者についても、優先的に接種することが望ましい。また、現在10歳未満で重症化する例が見られるので、特に10歳未満の小学生(低学年)については、可能であれば、優先接種対象者と同様に対処する(なお、基礎疾患を有する小・中・高校生及び高齢者は、優先接種対象者に含まれている)。あわせて、高齢者に対しては、季節性インフルエンザワクチンの接種を促進する必要がある。
3.ワクチンの確保について
(1)国内産ワクチンの確保
・ 国内産ワクチンについては、優先接種対象者に対して、できる限り早期に接種機会を提供するためには、早急に必要量を確保する。
・ 日本国内におけるワクチンの製造については、7月中旬以降、各メーカーにおいて順次製造を開始し、現時点の見通しとしては、10月下旬以降順次出荷され、1mlバイアルの場合には、平成22年3月までに、約1,800万人分(※)が出荷可能と考えられている。また、できる限り多くの者が国内産ワクチンを接種できるようにするため、ワクチンの効率的な確保と接種の際の利便性とのバランスを図りながら、可能な限り10mlバイアルによる効率的な接種を行う計画を策定し、それに応じた10mlバイアルと1mlバイアルの生産割合を決定する。
※ 現在のワクチン製造株の増殖率に基づく、年度内の製造推定量は、約2,200万人分(1mlバイアルで製造した場合)から約3,000万人分(10mlバイアルで製造した場合)。今後、製造株の増殖率が減少する可能性を考慮し(2割程度減少との見込み、1mlバイアルで製造した場合)、約1,800万人分としている。
(2)輸入ワクチンの確保
・ 今後の感染の拡大やウイルスの変異等のおそれを踏まえると、重症者の発生などの健康被害を防止するためには、国内での製造ワクチンだけでは十分な供給量とは言い難いので、健康危機管理の観点から海外企業から緊急に輸入し、一定量のワクチンを確保する。
・ 輸入ワクチンについては、早ければ12月下旬以降に使用可能と考えられているため、2(3)に掲げた者への接種に用いることを想定する。
・ ただし、輸入ワクチンを実際に使用するために、事前に安全性等について更なる確認を行う必要がある。
・ 輸入ワクチンについては、国際的なワクチン需給についても配慮し、発展途上国への供与なども検討する。
4.留意事項
今回、接種に用いようとするワクチンについては、今回の新型インフルエンザに対して初めて使用されるものであり、未知の要素があることから、十分に安全性の確保に努めるとともに、医療関係者、国民等に幅広く情報提供を行う。
(1) 安全性の確認について
ア.国内製造ワクチンについて
今回使用される国内製造の新型インフルエンザワクチンは、季節性インフルエンザワクチン(HAワクチン)と同様の方法で製造されるものである。従って、安全性については、季節性インフルエンザワクチンとほぼ同程度であると考えられる。なお、有効性についても、ある程度期待されると判断される。
イ.輸入ワクチンの承認時の安全性、有効性の確保について
輸入ワクチンについては、
① 現時点では国内外での使用経験・実績(臨床試験を除く。)がないこと
② 国内では使用経験のないアジュバント(免疫補助剤)(※)が使用されていること
③ 国内では使用経験のない細胞株を用いた細胞培養(※)による製造法が用いられているものがあること
④ 投与経路が筋肉内であること
⑤ 小児に対しては用量が異なること
など、国内ワクチンとは異なる。有効性については、ある程度期待されると判断される。一方、我が国で大規模に接種した場合の安全性に関しては、国内製品よりも未知の要素が大きく、その使用等に当たっては、より慎重を期すべきとの懸念も専門家から示されている。
※アジュバント(免疫補助剤):ワクチンと混合して投与することにより、目的とする免疫応答を増強する物質。これにより、同じワクチン量でもより多くの者への接種が可能となる。一般的に、副反応の発生する確率が高いことが指摘されている。
※細胞培養:ワクチンの製造方法の一種。鶏卵による培養よりも、生産効率は高いとされるが、インフルエンザワクチンではこれまで世界で広く使用されるには至っていない。また、一部の海外のワクチンについては、製造に使用される細胞に、がん原性は認められないものの、腫瘍原性があるとされており、使用等にあたっては、特に慎重を期すべきとの懸念も専門家から示されている。
したがって、健康危機管理の目的から、特例的に、通常の承認の要件を緩和して、緊急に承認を与える場合であっても、薬事食品衛生審議会において、
① 承認申請の際に添付される海外臨床試験成績等の資料により、その安全性について確認するとともに、
② 国内での臨床試験中に、中間的に安全性について確認する
などの対応を講じる。
また、特例的な承認後も、国内及び海外で実施されている臨床試験における安全性を引き続き確認していく。万が一、安全性に問題があるおそれがある場合には、使用しないこと、使用中止もあり得る。
ウ.安全性情報の収集、評価等について
国内製造ワクチンを含め、ワクチンについては、短期間に多数の接種が行われることとなるため、
① 薬事法に規定する製造販売業者及び医薬関係者による副作用報告
② 接種事業による医療機関等から国への副反応報告
③欧米等の規制当局、WHOからの安全性情報の入手
等により安全性情報の速やかな収集に努める。
また、その評価については、いわゆる紛れ込み事故(※)に留意し、ワクチン接種との関連性や接種規模を踏まえた発生状況などについて専門家による評価を行い、迅速な安全対策を講ずることとする。副反応を科学的に評価するための基礎的データを収集するシステムについて、専門家の意見を聞きながら検討する。
※ 紛れ込み事故:予防接種後に身体に異常反応を疑う症状がみられた場合、ワクチンの副反応が疑われるが、ワクチン接種によるもののほか、多数の接種を行った場合、偶発的に感染した疾病により引き起こされる等のワクチン接種と関連ない場合も考えられ、そのようなものを指して紛れ込み事故と呼ぶことがある。
エ.健康被害の救済
以上の措置を講じたとしても、万が一、副反応による健康被害が生じた場合には、適切な救済措置を講ずる。
(2)積極的な情報開示、情報提供
・ 新型インフルエンザワクチンについては、有効性や安全性に関する知見について、不明確な面があるため、現時点の知見を明確にするとともに、ワクチンの優先順位、接種実施方法などに関する政府の方針などについて、国民の理解が得られるよう、積極的に情報開示や説明を行う。特に輸入ワクチンについては、性状、安全性および有効性に関する情報を国民に対して開示、説明する。
・ ワクチン接種はあくまでも個人の意思を尊重し、ワクチンの効果や限界、リスクについて十分に説明・理解を得た上で実施することとし、個人の意思を軽視し、強制的に接種することなどがないよう、留意する。
(参考)
(優先接種対象者)
・インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者(救急隊員を含む)
約100万人
・妊婦 約100万人
・基礎疾患を有する者 約900万人
・小児(1歳~就学前) 約600万人
・1歳未満の小児の両親 約200万人
(その他の者)
・小中高校生 約1,400万人
・高齢者(65歳以上) 約2,100万人(重複除く)
合計 約5,400万人
※対象者数については、精査の段階で変更があり得る。
以上、