第42回 感染・免疫懇話会 講演会
宮崎県で今年の4月20日に口蹄疫感染の疑いがある牛が見つかり、その農家で飼育されていた全16頭を殺処分したのですが、その後被害が拡大し、5月15日には和牛ブランド「宮崎牛」の種雄牛49頭も殺処分対象になってしまいました。5月18日、東国原宮崎県知事は、口蹄疫問題で非常事態宣言を宮崎県内に発令。これまでに殺処分対象となった牛豚などの累計頭数は、6月27日時点で199,284頭。ワクチン接種を終了した分を含めると276,055頭となり、口蹄疫は単に酪農家だけの問題ではなく、我々遠隔地の一般市民の生活にも影響が影に日向に出てきているように感じられます。
口蹄疫のウイルスは、ピコルナウイルスの一種とのこと。とすれば、今はやりの夏風邪の原因のエンテロウイルスはじめポリオ、ライノ、A型肝炎もその仲間。僕らの体に多少なりとも影響を与えるのではと、考えるのが人の情ではないでしょうか?僕らは罹らないのか?かかっても軽症といってもどの程度軽症なのか?口蹄疫の牛や豚の肉を食べたとして僕らの体に与える影響は無いのか?宮崎県庁には消毒マットが敷かれたようだが、宮崎に旅行したらウイルスを葛飾に持ち込まないだろうか?また、家で飼っている動物に影響を与えることはないのだろうか?ちょっと考えただけでもこんなに疑問が出てきます。
今、話題の口蹄疫について、この3月まで、動物衛生研究所で口蹄疫の研究をされ、現在は帝京科学大学で教鞭を執っておられる村上洋介先生を、遠く山梨県上野原市よりお招きしてお話を伺いたいと思います。入場無料。どなたでも参加できます。恒例の講演会後の食事会(会費制)も行います。今回は、講師の先生が遠方より来られるため、土曜開催とし、開始時間も午後5時と繰り上げますのでお間違えの無いようにお願い申し上げます。
葛飾区医師会 感染・免疫懇話集談会 連絡先 電話3604-2101 FAX3604-2103
「口蹄疫」は人畜共通感染症か?
-口蹄疫の基礎の基礎と、我々の日常生活における問題点-
帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科教授
前、(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 所長
村上 洋介
平成22年7月31日 土曜 午後5時~
会場 葛飾区医師会館 3階 講堂
東京都葛飾区立石5-15-12 電話 3691-8536
口蹄疫はピコルナウイルス科アフトウイルス属の口蹄疫ウイルスの感染による急性の熱性伝染病で,ウシやブタなどの家畜をはじめ,野生動物を含む偶蹄類が罹患します.
口蹄疫ウイルスの特徴は,感染伝播が速く汚染が広い範囲に及びやすいことです.致死率は幼獣を除けば低いといえますが,発病後は発育障害,運動障害及び泌乳障害などが群れ全体に及びますので,家畜は経済的価値を失い産業上大変大きな損失が生じます.
さらに,世界貿易機関の枠組みの中で定められている国際的な動物衛生のルールに基づき,発生地域の家畜や畜産物は口蹄疫の清浄な地域への輸出が規制されますので,畜産物の国際流通にも多大の影響を与えます.
これまで口蹄疫がなかった畜産物輸出国に発生すれば輸出停止による経済的な被害は甚大なものとなりますし,同様輸入国に発生すれば常在的な発生地域の畜産物の輸入を断る理由を失います.
また,口蹄疫のワクチンは発病を防ぎますが感染は阻止できませんので,予防的にワクチンを使用すると却って症例を見失うことになって本病の根絶を難しくします.このため,口蹄疫の清浄な国に本病が発生した場合には,その防疫には上記の国際ルールに従い殺処分による根絶をめざした対策が執られます.
口蹄疫ウイルスとヒトの関係については,少数例ですがヒトの感染事例があります.しかし,古い報告には口蹄疫ウイルスの感染が証明されていないものやヒトの別の感染症と混同されたものがあること,さらに,ウマなど同じ農場で飼育されている奇蹄類と同様に,ヒトは口蹄疫ウイルスに対して感受性が低いと考えられており,実際に近年の大規模な発生でも防疫従事者を含め感染者は認められていません.このため,世界保健機構をはじめとする国際機関は,調査の継続は必要としているものの,現在のところ口蹄疫を”Non-Zoonotic”疾病としています.
口蹄疫は産業動物の疾病ですが,その清浄性を保つことで様々な衛生条件が整っていない地域からの畜産物の輸入が規制されているという面も持っています.口蹄疫は世界の畜産物の需給に影響を与える食料の安全保障上の問題ともいえましょう.
以上