特別な支援を必要とする教育を考える場合の基本として、おさえておくべき内容として、サマランカ声明があります。
こちらにも、掲載いたします。
大事な部分に下線を引きました。
*****以下、国立特殊教育総合研究所ホームページより*****
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/horei/html/b1_h060600_01.html
サラマンカ声明
「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」 (ユネスコ・スペイン政府共催、1994年)に於いて採択
前書き
1994年6月7日から10日にかけ、スペインのサラマンカに92か国の政府および25の国際組織を代表する300名以上の参加者が、インクルーシブ教育(inclusive education)のアプローチを促進するために必要な基本的政策の転換を検討することによって、「万人のための教育(Education for All)」の目的をさらに前進させるために、すなわち、学校がすべての子どもたち、とりわけ特別な教育的ニーズをもつ子どもたちに役立つことを可能にさせるため、ユネスコと協力しスペイン政府によって組織された会議には、国連および専門機関、他の国際的な政府組織、非政府組織、寄金提供機関の代表と同じく、ハイレベルの教育行政担当者、行政家、政策立案者や専門家が出席した。会議は、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明ならびに行動の枠組み(Salamanca Statement on principles, Policy and Practice in Special Needs Education and a Framework for Action)」を採択した。これらの文書は、インクルージョン(inclusion)の原則、「万人のための学校」-すべての人を含み、個人主義を尊重し、学習を支援し、個別のニーズに対応する施設に向けた活動の必要性の認識を表明している。こうして、これら文書は、万人のための教育を達成するための、また、学校を教育的により効果的なものとするための課題にとって重要な貢献をおこなっている。
特別なニーズ教育-北および南の諸国にとって等しく関心のある問題-は孤立しては進展させられない。それは、全体的な教育方略(ストラテジー)の一部を形成するものであり、実際、新しい社会的・経済的政策の一部を形成するものである。それは、通常の学校の重要な改革を要求するものである。
これらの文書は、特別なニーズ教育に対する将来の方向性に関する世界的な合意を示している。ユネスコは、この会議およびその重要な結論に関わったことを誇りに思っている。いまや、関係するすべての者が、万人のための教育が実際にすべての人とりわけ、もっとも傷つきやすく(vulnerable)、もっとも必要としている人びとに対するものであることを保障することへの挑戦と活動に立ち上がらなければならない。未来というものは宿命的なものなどではなく、われわれの価値観、思考、行動によって形づくられるものである。
この文書を読むすべての人びとが、それぞれ責任をもつ分野内で、サラマンカ会議の勧告内容を実践に移すことに努力することによって、勧告を実効あるものに助力してくださることを希望する。
フェデリコ・マヨール
(Federico Mayor)
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特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明
1948年の世界人権宣言に示された、あらゆる個人の教育を受ける権利を再確認し、また、個人差に関わりなく、万人のための教育を受ける権利を保障するための、1990年の「万人のための教育に関する世界会議(World Conference on Education for All)」で世界の地域社会によってなされた誓約を繰り返し、障害をもつ人びとの教育が、教育組織全体の不可欠な一部であることを保障するよう加盟各国に求めた、国連による1993年の「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則(Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Presons with Disabilities)」にその到達点が示されたいくつかの国連諸宣言を想起し、特別なニーズをもつ人びとの大多数にとって、いまだ到達していない教育へのアクセス改善を追求することへの各国政府、擁護グループ、地域社会や両親グループ、とりわけ障害をもつ人びとの団体の関与の増大を満足の念をもって留意し、また、この世界会議において数多くの政府、専門機関、政府間組織の高レベルの代表たちの積極的参加を、この関与の証拠として認識し、1.92か国の政府と25の国際組織を代表し、1994年6月7日から10日にかけ、ここスペインのサラマンカに集まった「特別なニーズ教育に関する世界会議」の代表者であるわれわれは、特別な教育的ニーズをもつ児童・青年・成人に対し通常の教育システム内での教育を提供する必要性と緊急性を認識し、さらに、各国政府や組織がその規定や勧告の精神によって導かれるであろう、「特別なニーズ教育に関する行動の枠組み」を承認し、万人のための教育へのわれわれのコミットメントを再確認する。
われわれは以下を信じ、かつ宣言する。
・ すべての子どもは誰であれ、教育を受ける基本的権利をもち、また、受容できる学習レベルに到達し、かつ維持する機会が与えられなければならず、
・ すべての子どもは、ユニークな特性、関心、能力および学習のニーズをもっており、
・ 教育システムはきわめて多様なこうした特性やニーズを考慮にいれて計画・立案され、教育計画が実施されなければならず、
・ 特別な教育的ニーズをもつ子どもたちは、彼らのニーズに合致できる児童中心の教育学の枠内で調整する、通常の学校にアクセスしなければならず、
・ このインクルーシブ志向をもつ通常の学校こそ、差別的態度と戦い、すべての人を喜んで受け入れる地域社会をつくり上げ、インクルーシブ社会を築き上げ、万人のための教育を達成する最も効果的な手段であり、さらにそれらは、大多数の子どもたちに効果的な教育を提供し、全教育システムの効率を高め、ついには費用対効果の高いものとする。
われわれはすべての政府に以下を要求し、勧告する。
・ 個人差もしくは個別の困難さがあろうと、すべての子どもたちを含めることを可能にするよう教育システムを改善することに、高度の政治的・予算的優先性を与えること、
・ 別のようにおこなうといった競合する理由がないかぎり、通常の学校内にすべての子どもたちを受け入れるという、インクルーシブ教育の原則を法的問題もしくは政治的問題として取り上げること、
・ デモンストレーション・ プロジェクトを開発し、また、インクルーシブ教育に関して経験をもっている国々との情報交換を奨励すること、
・ 特別な教育的ニーズをもつ児童・ 成人に対する教育設備を計画・ 立案し、モニターし、評価するための地方分権化された参加型の機構を確立すること、
・ 特別な教育的ニーズに対する準備に関する計画・ 立案や決定過程に、障害をもつ人びとの両親、地域社会、団体の参加を奨励し、促進すること、
・ インクルーシブ教育の職業的側面におけると同じく、早期認定や教育的働きかけの方略に、より大きな努力を傾注すること、
・ システムを変えるさい、就任前や就任後の研修を含め教師教育計画は、インクルーシブ校内における特別なニーズ教育の準備を取り扱うことを保障すること。
われわれはまた、国際社会にとりわけ以下のことを要求する。
・ 各国政府は、国際協力計画や国際的基金機関とりわけ万人のための教育に関する世界会議のスポンサーたちであるユネスコ、ユニセフ、国連開発計画ならびに世界銀行と共に、
-インクルーシブ教育のアプローチを承認し、すべての教育計画の不可欠な一部として特別なニーズ教育の開発を支援すること、
-国連およびその専門機関とりわけILO、WHO、ユネスコおよびユニセフは、
-特別なニーズ教育の拡大され、統合された準備への、より効果的な支援のための協力とネットワークを強化するのと同じく、技術協力のための入力を強化すること、
・ 国の計画立案とサービス提供に関与する非政府組織は、
-公的国家機関との提携を強化することおよび、特別な教育的ニーズに対するインクルーシブ準備の立案・実施・評価への増大しつつある関与を強めること、
・ 国連の教育のための機関であるユネスコは、
-さまざまなフォーラムにおいて、特別なニーズ教育が万人のための教育を扱うあらゆる討議の一部となるよう保障すること、
-特別な教育的ニーズに対する準備に関し、教師教育を高めることに関連する問題に、教員組織の支持を取りつけること、
-研究とネットワークを強化し、情報や報告の地域センター-これはまた、こうした活動やこの声明の履行にあたり国家レベルで達成された特定の結果や進歩を普及させるための情報センターとして役立つ-を確立するため、学術界を刺激すること、
-中間プラン第2段階(1996-2002年)の内に、情報普及のための新しいアプローチを示す試行プロジェクトの着手を可能にする、インクルーシブ校に対する拡大された計画および地域支援計画の創造を通しての基金の動員を図ること、ならびに、特別なニーズ教育の準備必要性に関する指標を開発すること。
最後にわれわれは、この会議を組織したことに対しスペイン政府とユネスコに心からの感謝の念を表明し、また、この声明と付随する行動のための枠組みを世界的に、とりわけ世界社会開発サミット(World Summit for Social Development)(コペンハーゲン、1995年)および世界女性会議(World Conference on Woman)(北京、1995年)のような重要なフォーラムで関心を払われるようにするあらゆる努力をおこなうことを要請する。
1994年6月10日、スペイン、サラマンカ市で喝采による採決で採択された。
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特別なニーズに関する行動のための枠組み
はじめに
この「特別なニーズ教育に関する行動のための枠組み」は、ユネスコと協力したスペイン政府によって組織され、1994年6月7日から10日にかけてサラマンカで開催された、特別なニーズ教育に関する世界会議によって採択された。その目的は、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明」を実施するにさいし、各国政府、国際組織、国内援助機関、非政府組織、他の団体による政策を知らせ、行動を導くことである。この「枠組み」は、広く国連システムや他の政府間諸組織の決議、勧告、出版物とりわけ「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則(Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)」(原注:United Nations Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities, A/RES/48/96. 1993年12月20日、第48回国連総会によって採択された決議)と同じく、参加諸国の国内経験に基づいている。それはまた、世界会議を準備するにあたって開かれた5つの地域セミナーからもたらされた提案、指針、勧告を考慮にいれている。
教育を受けることへのすべての子どもの権利は、「世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)」に宣言されているし、またそれは、「万人のための教育に関する世界宣言(World Declaration on Education for All)」によって力強く再確認された。障害をもつすべての人は、確かめうるかぎり、彼らの教育に関する願望を表明する権利をもっている。両親は、彼らの子どもたちのニーズ、状況、熱望に最適の教育形態について相談を受ける固有の権利をもっている。
この「枠組み」を広く知らせるさいの指針となる原則は、学校というところは、子どもたちの身体的・知的・社会的・情緒的・言語的もしくは他の状態と関係なく、「すべての子どもたち」を対象とすべきであるということである。これは当然ながら、障害児や英才児、ストリート・チルドレンや労働している子どもたち、人里離れた地域の子どもたちや遊牧民の子どもたち、言語的・民族的・文化的マイノリティーの子どもたち、他の恵まれていないもしくは辺境で生活している子どもたちも含まれることになる。これらの状態は、学校システムに多様な挑戦をもたらすことになる。この枠組みの文脈において、「特別な教育的ニーズ(Special educational needs)」という用語は、そのニーズが障害もしくは学習上の困難からもたらされるすべてのこうした児童・青年に関連している。多くの子どもたちが学習上の困難さを経験しており、そのため、彼らは学校生活の間にある期間にわたって特別な教育的ニーズをもっている。学校は、まったく恵まれていない子どもたちや障害をもつ子どもたちを含め、すべての子どもたちを首尾よく教育する方法を見出さなければならない。特別な教育的ニーズをもつ児童・青年は、大多数の子どもたちのためになされる教育計画の中に含められるべきである。このことが、インクルーシブ校の概念へと導くことになる。インクルーシブ校が遭遇する挑戦は、まったく恵まれていない子どもたちや障害をもつ子どもたちを含む、すべての子どもたちを首尾よく教育することができる児童中心の教育学を開発することである。こうした学校の長所は、すべての子どもたちに質の高い教育を提供することが可能であるだけでなく、こうした学校の設置が差別的態度を変えることを助ける上で、すべての人を歓迎する地域社会を創造する上で、インクルーシブな社会を発展させる上でもきわめて重要なステップなのである。社会の見方の変化は緊急の課題である。あまりにも長期にわたり、障害をもつ人びとの諸問題は、彼らの潜在的可能性に対してよりも、むしろ彼らのインペアメントに焦点を向けるという問題をはらんだ社会によって作りあげられてきたのである。
特別なニーズ教育は、すべての子どもたちが利益をうるであろう、確固とした教育学の立証された原則を取り入れている。それは、人間に相違がみられるのは当然のことであり、したがって学習は、学習過程の速度や性質に関して予定された仮定に子どもを合わせるよりも、むしろ子どものニーズに応じて調整されなければならないことを想定している。児童中心の教育学は、すべての子どもたちに有益なものであり、その結果、全体としての社会にとっても有益なものなのである。経験から、それは、平均学力水準は高くとも多くの教育システムにみられる落第や留年を実質的に減少させられることがわかっている。児童中心の教育学は、あまりにもしばしば質の低い指導をしたり、教育に対し、「一つの寸法に全部を合わせる」式の考え方をする結果としての、希望を粉みじんに打ち砕いたり、資源を浪費することを避けさせることに助力できる。さらに児童中心の学校は、すべての人びとの相違と尊厳とを尊重する人びと中心の社会を築き上げるための訓練場といえよう。
この「行動のための枠組み」は、以下の部分から構成される。
I.特別なニーズ教育における新しい考え方
II.国家レベルでの行動指針
A.政策と組織
B.学校という要因
C.教職員の任用と養成・研修
D.外部からの支援サービス
E.優先度の高い分野
F.地域社会からの展望
G.資源の必要性
III.地域レベルと国際的レベルでの行動指針
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