「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

感染を制御しつつ、子ども達の学び・育ちの環境づくりをして行きましょう!病児保育も鋭意実施中。子ども達に健康への気づきを。

憲法学5 人権と公共の福祉による制限(一元的内在的制約説)、比較衡量論・二重の基準論の考え方

2012-08-15 17:59:00 | シチズンシップ教育
 憲法学5として続けます。

 芦部『憲法』第6章 一 人権と公共の福祉 に関連しています。


*********************
Q君
 人権が制約される局面として、どんな場合がありますか。


A先生
 次の3つの場合に想定されます。
1)権利行使が他者に害を与える場合。
2)権利行使が他者の正当な権利ないしは利益と衝突する場合。
3)権利行使が社会全体の利益にとってマイナスになる場合。

 それぞれの場合を具体例を挙げてみます。

1)権利行使が他者に害を与える場合。
 政治団体の街宣車がフルボリュームで、音楽を流すことは、彼らの表現の自由の行使ではあるが、市街地の平穏を乱し、市民に不快感を与えていることから、他者に害を与えている。人権は、まず、他者に迷惑をかけてはならない、という制約がある。

2)権利行使が他者の正当な権利ないしは利益と衝突する場合。
 マスコミが、有名人のプライバシーや名誉を傷つける報道を行う場合は、マスコミの表現の自由(報道の自由)と有名人のプライバシーが衝突する。表現の自由もプライバシーもともに、極めて重要な人権である。

3)権利行使が社会全体の利益にとってマイナスになる場合。
 空港や高速道路を建設する際には、その用地を買収しなければならないところ、地権者が用地買収に協力してくれない場合は、建設が遅れ、社会全体に大きな不利益を与える場合がある。


Q君
 憲法で、公共の福祉の制限がついている条文とは。


A先生
12条・13条・22条・29条

第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
○2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


Q君
 一元的外在的制約説とは何ですか。

A先生
 人権に内在する制約ではなく、公共の福祉という、「社会全体の利益や要請」を理由にして人権の制約を正当化する説です。

 いわば、人権を制約する側の公権力が、国民に有無を言わせずに、公共の福祉を人権制約の「ジョーカー(切り札)」として用いることを可能にする説であります。
 切り札としての人権の逆であると考えるとわかりやすいです。
 この考え方をとると、容易に人権制約が正当化される恐れがあります。

Q君
 一元的外在的制約説をとった場合、「ひいては、明治憲法における「法律の留保」のついた人権保障と同じことになってしまわないか」とはどういう意味ですか。

A先生
 法律の留保は、法律に根拠がある限り人権をかなりの程度、制約することができますが、この一元的外在的制約説でも、公共の福祉という言葉を根拠にすれば、人権を制約することができることを意味します。



Q君
 内在・外在二元的制約説とは何ですか。


A先生
 以下、三つの考え方です。
1)12・13条は訓示的規定で裁判規範にならない。
2)22・29条と社会権は公共の福祉による制限(外在的制約)を受ける。
3)上記以外の人権は、内在的制約のみを受ける。



Q君
 一元的内在的制約説とは何ですか。

A先生
 以下の考え方です。
 1)公共の福祉とは、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理である。
   注 社会権でさえも、それを厚く保障すると他者の経済的自由と衝突する。
     税率のアップは、財産権の行使を制約するからである。
 2)公共の福祉は、すべての人権に内在する。
 3)自由権を各人に公平に保障するために人権制約を根拠づけるときは、必要最小限の規制を認める。
 4)社会権を保障するために、自由権を規制するときは、必要な限度の規制を認める。


Q君
 比較衡量論と公共の福祉はどういう関係にあるのですか。

A先生

 比較衡量論は、人権相互の矛盾衝突の調節という公共の福祉原理を具体化し、人権の限界を明確にするために存在します。(芦部憲法�P208)


Q君
 比較衡量論における、A「それ(ある自由)を制限されることによって得られる利益」とB「それを制限しない場合に維持される利益」を、判例ではどのように認定していますか。


A先生
 博多駅事件(判例集�-4-33)を具体的に考えてみます。

 Aの「制限されることによって得られる利益」は、公正な刑事裁判の実現です。

 一方、Bのそれを制限しない場合に維持される利益は、「報道の自由」であり、ひいては、「将来の取材の自由が妨げられるおそれ」であります。

 なお、判例は、報道の自由そのもの妨げられるとは述べていません。


Q君
 比較衡量論の問題点とは、


A先生
 比較の基準が明確ではなく、また、何を利益として拾い上げるかが、裁判所の裁量にゆだねられていることです。

 たとえば、上述の博多駅事件で、Bの利益を判例は、将来の取材活動が妨げられるおそれとしているが、報道の自由そのものとか、取材活動ができなくなるという不利益というように重くとることもできるはずであるが、判決では、狭くとっています。

 さらに、国の利益が重く認定される可能性があることです。
 そうすると、結局は、法律の留保論=一元的外在制約説と、実質的に変わらない論理構成になってしまいます。



Q君
 二重の基準論とは?


A先生
 「裁判所が議会の制定した法律の合憲性を審査する場合には、表現の自由を制約する立法と経済的自由を制約する立法では、異なる態度で挑むべきである」という理論です。


Q君
 二重の基準論を用いた場合、表現の自由以外の一般的な自由は、合憲性の推定を受けると言われています。
 「合憲性推定」とは?


A先生
 合憲性の推定とは、立法府の下した判断に合理性があるということから来ています。
 これは、選挙を経て、民意が反映され、国会という公開された場所で十分な討論を経て成立した立法には、おそらく、関与する行政の立法作業も含めて、ある程度の合理性が存在するであろうと、推定できるという姿勢です。
 逆に言えば、裁判所は高度な経済問題などには、審査能力や判断能力が十分でないことが指摘できます。


Q君
 では、表現の自由には、合憲性の推定が働かず、裁判所は違憲が疑われる立法については、厳しく審査すべきであるとされています。
 なぜですか。

A先生
 表現の自由は、傷つきやすく、かつ、いったん傷つくと自己回復が困難であることからきています。

 傷ついた表現の自由は、萎縮し収縮する方向に進んでいきます。

 治安維持法ができる前は、治安維持法についての批判をすることが可能であるが、いったん同法制定されると、表現の自由を収縮・萎縮させる同法に対する批判をすることが禁じられることから、表現活動がさらに、収縮する方向に進んでいきました。


Q君
 二重の基準論の考え方に関連して、裁判所の役割を考え直すと。


A先生

 裁判所は、以下の三点について基本的な役割を担うものであると考えられます。

 �選挙権・政治的表現の自由のような民主主義の基盤を維持するために必要な自由を保障する。
 �マイノリティーの権利を保障する。マイノリティーは、票も政治資金もなく、政治過程において発言力がないから。
 �信教の自由・思想良心の自由のような、人格的生存に係る権利を保障する。


以上


*****小坂メモ*****
 

�テキストP101~P102の�の記述の意味を説明しなさい。
 表現の自由中では、政治的表現の自由・集会結社の自由が最も厳しい基準(厳格審査)で審査すべきものであり、表現内容中立規制がこれに続く(中間審査)。しかし、わいせつ表現・プライバシーを侵害する表現・差別的言論・商業的言論(CMや広告など)などに対する規制立法は、厳格な審査はなされない。一方、経済的自由のうち、消極的規制については、表現の自由の表現内容中立規制と同程度の審査基準が適用する。テキストの意味は、この部分は、表現の自由と経済的自由の審査基準は重なっていることを指す。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「終戦の詔勅」、いわゆる“玉音放送”を読む。67年目の敗戦の日に。

2012-08-15 15:38:51 | 戦争と平和

 ブログ Chikirinの日記 2008-08-15 終戦の詔勅(ちきりん語訳とともに)というところで、『終戦の詔勅』(玉音放送)が掲載されていました。

 玉音放送は知っていても、その内容をすべて知る人はなかなかいらっしゃらないのではないでしょうか。

 とても貴重な内容だと思います。
 玉音放送を再生すると熱いものが込み上げてきます。

 ちきりんさんに感謝するとともに、こちらでも掲載します。
 ちきりんさんの訳を青字で入れています。


 東日本大震災を経験して、改めて、私達日本人が、賢明になったことのひとつ。政府や政治家、人任せであっては、決してならないということ。
 平和を築くことにもあてはまると思います。
 
 
 戦争を絶対に繰り返さない。
 67年目の敗戦の日に、誓いをあらたにするとともに、
 戦争で亡くなられた方々、犠牲になられた方々すべての方に心より哀悼の意を捧げます。
 

-------------------------
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080815


朕深く世界の大勢と帝國の現状とに鑑み

非常の措置を以て時局を収拾せむと欲し

茲(ここ)に忠良なる爾(なんぢ)臣民に告

世界の情勢と日本の現状をよくよく検討した結果、

ありえないと思われる方法をあえてとることにより、この状況を収拾したい。

常に私に忠実であるあなたがた日本臣民の皆さんに、今から私の決断を伝えよう。




朕は帝國政府をして

米英支蘇四國に対し

其の共同宣言を受諾する旨通告せしめたり

私は日本政府担当者に

米、英、中国、ソビエト連邦の4カ国に対して、

日本が(ポツダム)共同宣言を受け入れると、伝えるよう指示した。





抑々帝國臣民の康寧を図り

万邦共榮の楽を偕にするは

皇祖皇宗の遺範にして

朕の拳々(けんけん)措(お)かさる所

そもそも私たち日本国民が穏やかで安心な暮らしができ、

世界全体と繁栄の喜びを共有することは、

歴代の天皇が代々受け継いで守ってきた教えであり、

私自身もその教えを非常に大事なことと考えてきた。




曩(さき)に米英二國に宣戰せる所以も

亦実に帝國の自存と東亞の安定とを庶幾するに出て

他國の主權を排し領土を侵すか如きは固(もと)より朕か志にあらす

最初に米英二カ国に宣戦を布告した理由も

日本国の自立とアジアの安定を願う気持ちからであり、

他の国の主権を侵したり、その領土を侵したりすることが、私の目指すところであったわけではない。




然るに交戰已に四歳を閲し

朕か陸海將兵の勇戰

朕か百僚有司の励精

朕か一億衆庶の奉公

各々最善を尽せるに拘らす

戰局必すしも好轉せす

世界の大勢亦我に利あらす

けれども戦争は既に4年も続いており、

我らが陸海軍人たちの勇敢な戦いぶりや

行政府の役人らの一心不乱の働きぶり、

そして一億の庶民の奉公

それぞれが最善を尽くしたにも関わらず

戦況は必ずしも好転せず、

世界情勢を見るに、日本に有利とはとてもいえない状況である。




加之敵は新に残虐なる爆彈を使用して

頻(しきり)に無辜を殺傷し惨害の及ふ所眞に測るへからさるに至る

而(しか)も尚交戰を継続せむか

終に我か民族の滅亡を招來するのみならす

延て人類の文明をも破却すへし

その上、敵は、より残虐な新型爆弾を使用して多くの罪のない者達を殺傷し、その被害の及ぶ範囲は、はかることもできないほどに広がっている。

もしもこれ以上戦争を続ければ、最後には我が日本民族の滅亡にもつながりかねない状況であり、 ひいては人類の文明すべてを破壊してしまいかねない。



斯の如くは

朕何を以てか億兆の赤子を保し

皇祖皇宗の神霊に謝せむや

是れ朕か帝國政府をして共同宣言に応せしむるに至れる所以なり

そのようなことになれば、

私はどのようにして一億の民を守り、

歴代天皇の霊に顔向けすることができようか。

これが私が政府担当者に対し、共同宣言に応じよと指示した理由である。




朕は帝國と共に終始東亞の解放に協力せる諸盟邦に対し

遺憾の意を表せさるを得す

帝國臣民にして戰陣に死し職域に殉し非命に斃れたる者及其の遺族に想を致せは五内爲に裂く

且戰傷を負ひ災禍を蒙り家業を失ひたる者の厚生に至りては

朕の深く軫念(しんねん)する所なり

私は、アジアを(西欧列強から)開放するために日本に協力してくれた友好国にたいして大変申し訳なく思う。

また日本国民であって、戦地で命を失った者、 職場で命を落とし、悔しくも天命を全うできなかった者、そしてその遺族のことを考えると、 心も体も引き裂かれんばかりの思いがする。

戦争で傷つき、戦災被害にあって家や仕事を失った者たちの暮らしについても、 非常に心配に思っている。



惟ふに今後帝國の受くへき苦難は固より尋常にあらす

爾臣民の衷情も朕善く之を知る

然れとも朕は時運の趨く所

堪へ難きを堪へ忍ひ難きを忍ひ

以て万世の爲に太平を開かむと欲す

この後、日本が受けるであろう苦難は言うまでもなく尋常なものではないであろう。

皆さん臣民の悔しい思いも、私はよくよくそれをわかっている。

けれども私は時代の運命の導きにそって、

耐え難きを耐え

忍び難きを忍び

これからもずっと続いていく未来のために、平和への扉を開きたい。



朕は茲に國體を護持し得て

忠良なる爾臣民の赤誠に信倚し

常に爾臣民と共に在り

私はこうやって日本の国の形を守ることができたのだから

忠誠心が高く善良な臣民の真心を信頼し、

常にあなたがた臣民とともにある。




若し夫れ情の激する所濫に事端を滋(しげ)くし

或は同胞排擠(はいせい)互に時局を亂り

爲に大道を誤り信義を世界に失ふか如きは

朕最も之を戒む

感情の激するがままに事件を起こしたり、

もしくは仲間同士が争って世の中を乱し、

そのために道を誤って世界からの信頼を失うようなことは、

もっとも戒めたいことである。




宜しく挙國一家子孫相傳へ確く神州の不滅を信し

任重くして道遠きを念(おも)ひ総力を將來の建設に傾け

道義を篤くし志操を鞏(かた)くし

誓て國體の精華を発揚し世界の進運に後れさらむことを期すへし

爾臣民其れ克く朕か意を體せよ

なんとか国全体が一つとなり、子孫にまでその思いを伝え、神国日本の不滅を信じ

責任はとても重く、行く道は非常に遠いことを覚悟して、将来の建設に向けて総力を結集し

道義を守り志と規律を強くもって、 日本国の力を最大に発揮することを誓い、

世界の先進国に遅れをとらずに進むのだという決意をもとうではないか。




私の臣民達よ、是非ともこの私の意思をよくよく理解してもらいたい。




御名御璽

昭和二十年八月十四日

内閣総理大臣 男爵 鈴木貫太郎
海軍大臣 米内光政
司法大臣 松阪広政
陸軍大臣 阿南惟幾
軍需大臣 豊田貞次郎
厚生大臣 岡田忠彦
国務大臣 桜井兵五郎
国務大臣 左近司政三
国務大臣 下村宏
大蔵大臣 広瀬豊作
文部大臣 太田耕造
農商大臣 石黒忠篤
内務大臣 安倍源基
外務大臣兼大東亜大臣 東郷茂徳
国務大臣 安井藤治
運輸大臣 小日山直登
-------------------------


また、昭和天皇の玉音放送音声はこちらから聞くことができます。

NHKのサイト→ 
http://cgi2.nhk.or.jp/shogenarchives/sp/movie.cgi?das_id=D0001410387_00000


バックアップ (http://www2.tokai.or.jp/isya/souko/gyokuon.html


************ご参考 開戦の詔勅******
http://www.geocities.jp/taizoota/Essay/gyokuon/kaisenn.htm

太平洋戦争 開戦の詔勅  (米英両国ニ対スル宣戦ノ詔書)

<原文>

天佑ヲ保有シ萬世一系ノ皇祚ヲ踐メル大日本帝國天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有衆ニ示ス

朕茲ニ米國及英國ニ対シテ戰ヲ宣ス朕カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ朕カ百僚有司ハ

勵職務ヲ奉行シ朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ

達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ抑々東亞ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄與スルハ丕顕ナル

皇祖考丕承ナル皇考ノ作述セル遠猷ニシテ朕カ拳々措カサル所而シテ列國トノ交誼ヲ篤クシ萬邦共榮ノ

樂ヲ偕ニスルハ之亦帝國カ常ニ國交ノ要義ト爲ス所ナリ今ヤ不幸ニシテ米英両國ト釁端ヲ開クニ至ル

洵ニ已ムヲ得サルモノアリ豈朕カ志ナラムヤ中華民國政府曩ニ帝國ノ眞意ヲ解セス濫ニ事ヲ構ヘテ

東亞ノ平和ヲ攪亂シ遂ニ帝國ヲシテ干戈ヲ執ルニ至ラシメ茲ニ四年有餘ヲ經タリ幸ニ國民政府更新スルアリ

帝國ハ之ト善隣ノ誼ヲ結ヒ相提携スルニ至レルモ重慶ニ殘存スル政權ハ米英ノ庇蔭ヲ恃ミテ兄弟尚未タ牆ニ

相鬩クヲ悛メス米英両國ハ殘存政權ヲ支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ平和ノ美名ニ匿レテ東洋制覇ノ非望ヲ

逞ウセムトス剰ヘ與國ヲ誘ヒ帝國ノ周邊ニ於テ武備ヲ強シテ我ニ挑戰シ更ニ帝國ノ平和的通商ニ有ラユル

妨害ヲ與ヘ遂ニ經濟斷交ヲ敢テシ帝國ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ朕ハ政府ヲシテ事態ヲ平和ノ裡ニ囘復

セシメムトシ隠忍久シキニ彌リタルモ彼ハ毫モ交讓ノナク徒ニ時局ノ解決ヲ遷延セシメテ此ノ間却ツテ

々經濟上軍事上ノ脅威ヲ大シ以テ我ヲ屈從セシメムトス斯ノ如クニシテ推移セムカ東亞安定ニ關スル

帝國積年ノ努力ハ悉ク水泡ニ帰シ帝國ノ存立亦正ニ危殆ニ瀕セリ事既ニ此ニ至ル帝國ハ今ヤ自存自衞ノ爲

蹶然起ツテ一切ノ障礙ヲ破碎スルノ外ナキナリ皇祖皇宗ノ靈上ニ在リ朕ハ汝有衆ノ忠誠勇武ニ信倚シ祖宗ノ

遺業ヲ恢弘シ速ニ禍根ヲ芟除シテ東亞永遠ノ平和ヲ確立シ以テ帝國ノ光榮ヲ保全セムコトヲ期ス

  御 名 御 璽

   平成十六年十二月八日

 

<現代語訳文>

神々のご加護を保有し、万世一系の皇位を継ぐ大日本帝国天皇は、忠実で勇敢な汝ら臣民にはっきりと示す。

私はここに、米国及び英国に対して宣戦を布告する。私の陸海軍将兵は、全力を奮って交戦に従事し、

私のすべての政府関係者はつとめに励んで職務に身をささげ、私の国民はおのおのその本分をつくし、

一億の心をひとつにして国家の総力を挙げこの戦争の目的を達成するために手ちがいのないようにせよ。

そもそも、東アジアの安定を確保して、世界の平和に寄与する事は、大いなる明治天皇と、

その偉大さを受け継がれた大正天皇が構想されたことで、遠大なはかりごととして、

私が常に心がけている事である。そして、各国との交流を篤くし、万国の共栄の喜びをともにすることは、

帝国の外交の要としているところである。今や、不幸にして、米英両国と争いを開始するにいたった。

まことにやむをえない事態となった。このような事態は、私の本意ではない。 中華民国政府は、

以前より我が帝国の真意を理解せず、みだりに闘争を起こし、東アジアの平和を乱し、ついに帝国に

武器をとらせる事態にいたらしめ、もう四年以上経過している。

さいわいに国民政府は南京政府に新たに変わった。帝国はこの政府と、善隣の誼(よしみ)を結び、

ともに提携するようになったが、重慶に残存する蒋介石の政権は、米英の庇護を当てにし、兄弟である

南京政府と、いまだに相互のせめぎあう姿勢を改めない。米英両国は、残存する蒋介石政権を支援し、

東アジアの混乱を助長し、平和の美名にかくれて、東洋を征服する非道な野望をたくましくしている。

あまつさえ、くみする国々を誘い、帝国の周辺において、軍備を増強し、わが国に挑戦し、更に帝国の

平和的通商にあらゆる妨害を与へ、ついには意図的に経済断行をして、帝国の生存に重大なる脅威を

加えている。

私は政府に事態を平和の裡(うち)に解決させようとさせようとし、長い間、忍耐してきたが、

米英は、少しも互いに譲り合う精神がなく、むやみに事態の解決を遅らせようとし、その間にもますます、

経済上・軍事上の脅威を増大し続け、それによって我が国を屈服させようとしている。

このような事態がこのまま続けば、東アジアの安定に関して我が帝国がはらってきた積年の努力は、

ことごとく水の泡となり、帝国の存立も、まさに危機に瀕することになる。ことここに至っては、

我が帝国は今や、自存と自衛の為に、決然と立上がり、一切の障害を破砕する以外にない。

 皇祖皇宗の神霊をいただき、私は、汝ら国民の忠誠と武勇を信頼し、祖先の遺業を押し広め、

すみやかに禍根をとり除き、東アジアに永遠の平和を確立し、それによって帝国の光栄の保全を期すものである。

 

<読み下し文>

 天佑(てんゆう)を保有(ほゆう)し、万世一系(ばんせいいっけい)の皇祚(こうそ)を践(ふ)める大日本帝国天皇は、昭(あきらか)に

忠誠(ちゅうせい)勇武(ぶゆう)なる汝(なんじ)、有衆(ゆうしゅう)に示(しめ)す。

 朕(ちん)、茲(ここ)に米国及(およ)び英国に対して戦(たたかい)を宣(せん)す。朕(ちん)が陸海将兵(りくかいしょうへい)は、全力を奮(ふる)って交戦に従事し、朕(ちん)が百僚有司(ひゃくりょうゆうし)は、励精(れいせい)職務を奉行(ほうこう)し、朕(ちん)が衆庶(しゅうしょ)は、各々(おのおの)其(そ)の本分を尽(つく)し、億兆(おくちょう)一心(いっしん)にして国家の総力を挙げて、征戦(せいせん)の目的を達成するに遺算(いさん)なからんことを期(き)せよ。

 抑々(そもそも)、東亜(とうあ)の安定を確保(かくほ)し、以って世界の平和に寄与(きよ)するは、丕顕(ひけん)なる皇祖考(こうそこう)、丕承(ひしょう)なる皇考(こうこう)の作述(さくじゅつ)せる遠猷(えんゆう)にして、朕(ちん)が拳々(きょきょ)措(お)かざる所(ところ)。

 而(しか)して列国との交誼(こうぎ)を篤(あつ)くし、万邦共栄(ばんぽうきょうえい)の楽(たのしみ)を偕(とも)にするは、之亦(これまた)、帝国が、常に国交の要義(ようぎ)と為(な)す所(ところ)なり。今や、不幸にして米英両国と釁端(きんたん)を開くに至(いた)る。洵(まこと)に已(や)むを得(え)ざるものあり。豈(あに)、朕(ちん)が志(こころざし)ならんや。

 中華民国政府、曩(さき)に帝国の真意を解(かい)せず、濫(みだり)に事を構えて東亜(とうあ)の平和を攪乱(こうらん)し、遂(つい)に帝国をして干戈(かんか)を執(と)るに至(いた)らしめ、茲(ここ)に四年有余を経たり。幸(さいわい)に、国民政府、更新するあり。帝国は之(これ)と善隣(ぜんりん)の誼(よしみ)を結び、相(あい)提携(ていけい)するに至(いた)れるも、重慶(じゅうけい)に残存(ざんぞん)する政権は、米英の庇蔭(ひいん)を恃(たの)みて、兄弟(けいてい)尚(なお)未(いま)だ牆(かき)に相鬩(あいせめ)ぐを悛(あらた)めず。

 米英両国は、残存政権を支援して、東亜(とうあ)の禍乱(からん)を助長(じょちょう)し、平和の美名(びめい)に匿(かく)れて、東洋制覇(とうようせいは)の非望(ひぼう)を逞(たくまし)うせんとす。剰(あまつさ)え与国(よこく)を誘(さそ)い、帝国の周辺に於(おい)て、武備(ぶび)を増強して我に挑戦し、更に帝国の平和的通商に有(あ)らゆる妨害(ぼうがい)を与へ、遂に経済断交を敢(あえ)てし、帝国の生存(せいぞん)に重大なる脅威(きょうい)を加う。

 朕(ちん)は、政府をして事態(じたい)を平和の裡(うち)に回復せしめんとし、隠忍(いんにん)久しきに弥(わた)りたるも、彼は毫(ごう)も交譲(こうじょう)の精神なく、徒(いたづら)に時局の解決を遷延(せんえん)せしめて、此(こ)の間、却(かえ)って益々(ますます)経済上、軍事上の脅威(きょうい)を増大し、以って我を屈従(くつじゅう)せしめんとす。

 斯(かく)の如くにして、推移(すいい)せんか。東亜安定(とうああんてい)に関する帝国積年(せきねん)の努力は、悉(ことごと)く水泡(すいほう)に帰し、帝国の存立(そんりつ)、亦(またこ)正に危殆(きたい)に瀕(ひん)せり。事既(ことすで)に此(ここ)に至る帝国は、今や自存自衛(じそんぼうえい)の為、蹶然(けつぜん)起(た)って、一切の障礙(しょうがい)を破砕(はさい)するの外(ほか)なきなり。

 皇祖皇宗(こうそそうそう)の神霊(しんれい)、上(かみ)に在(あ)り、朕(ちん)は、汝(なんじ)、有衆(ゆうしゅう)の忠誠勇武(ちゅうせいぶゆう)に信倚(しんい)し、祖宗(そそう)の遺業を恢弘(かいこう)し、速(すみやか)に禍根(かこん)を芟除(せんじょ)して、東亜(とうあ)永遠の平和を確立し、以って帝国の光栄を保全(ほぜん)せんことを期(き)す。

 

天皇の署名と印

昭和十六年十二月八日

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする