新聞に意見広告で名誉が棄損されたとして、その新聞社に反論意見広告を無料掲載を求めることができるかどうか。
最高裁は、表現の自由を守るために、成文法で制度化されていない反論権は認められないと判事しています。
ある意味、道理が通っていると思います。
反論権が安易に認められると、新聞社が意見を載せることに、委縮効果が働いてしまう。
その委縮効果こそ、表現の自由にとって大きなマイナスです。
以下、理由の該当部分。
***********************************
サンケイ新聞意見広告事件
最高裁昭和62年4月24日
新聞の記事に取り上げられた者が、その記事の掲載に
よつて名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、自己が記事に取り上
げられたというだけの理由によつて、新聞を発行・販売する者に対し、当該記事に
対する自己の反論文を無修正で、しかも無料で掲載することを求めることができる
ものとするいわゆる反論権の制度は、記事により自己の名誉を傷つけられあるいは
そのプライバシーに属する事項等について誤つた報道をされたとする者にとつては、
機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これによつ
て原記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになるのであつて、
かかる制度により名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定
し難いところである。しかしながら、この制度が認められるときは、新聞を発行・
販売する者にとつては、原記事が正しく、反論文は誤りであると確信している場合
でも、あるいは反論文の内容がその編集方針によれば掲載すべきでないものであつ
ても、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用で
きたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであつて、こ
れらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゆうち
よさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に
存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要
な意味をもつ新聞等の表現の自由(前掲昭和六一年六月一一日大法廷判決参照)に
対し重大な影響を及ぼすものであつて、たとえ被上告人の発行するD新聞などの日
刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の
者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為
が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具
体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載
請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。
なお、放送
法四条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免
許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり(同法四四条三項ないし五
項、五一条等参照)、その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放
送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事
業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとして
いるにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし上
告人主張の反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法四条の規定も、
所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。
***********************************
事件番号
昭和55(オ)1188
事件名
反論文掲載
裁判年月日
昭和62年04月24日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
判決
結果
棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第41巻3号490頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
昭和52(ネ)1852
原審裁判年月日
昭和55年09月30日
判示事項
一 人格権又は条理を根拠とするいわゆる反論文掲載請求権の成否
二 新聞紙上における政党間の批判・論評の意見広告につき名誉毀損の不法行為の成立が否定された事例
裁判要旨
一 新聞記事に取り上げられた者は、当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権又は条理を根拠として、右記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で掲載することを求めることはできない。
二 新聞社が新聞紙上に掲載した甲政党の意見広告が、乙政党の社会的評価の低下を狙つたものであるが乙政党を批判・論評する内容のものであり、かつ、その記事中乙政党の綱領等の要約等が一部必ずしも妥当又は正確とはいえないとしても、右要約のための綱領等の引用文言自体は原文のままであり、要点を外したものといえないなど原判示の事実関係のもとでは、右広告の掲載は、その広告が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、主要な点において真実の証明があつたものとして、名誉毀損の不法行為となるものではない。
参照法条
憲法21条,民法1条,民法709条,民法710条,民法723条,刑法230条ノ2
判決文全文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122540616306.pdf
最高裁は、表現の自由を守るために、成文法で制度化されていない反論権は認められないと判事しています。
ある意味、道理が通っていると思います。
反論権が安易に認められると、新聞社が意見を載せることに、委縮効果が働いてしまう。
その委縮効果こそ、表現の自由にとって大きなマイナスです。
以下、理由の該当部分。
***********************************
サンケイ新聞意見広告事件
最高裁昭和62年4月24日
新聞の記事に取り上げられた者が、その記事の掲載に
よつて名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、自己が記事に取り上
げられたというだけの理由によつて、新聞を発行・販売する者に対し、当該記事に
対する自己の反論文を無修正で、しかも無料で掲載することを求めることができる
ものとするいわゆる反論権の制度は、記事により自己の名誉を傷つけられあるいは
そのプライバシーに属する事項等について誤つた報道をされたとする者にとつては、
機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これによつ
て原記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになるのであつて、
かかる制度により名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定
し難いところである。しかしながら、この制度が認められるときは、新聞を発行・
販売する者にとつては、原記事が正しく、反論文は誤りであると確信している場合
でも、あるいは反論文の内容がその編集方針によれば掲載すべきでないものであつ
ても、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用で
きたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであつて、こ
れらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゆうち
よさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に
存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要
な意味をもつ新聞等の表現の自由(前掲昭和六一年六月一一日大法廷判決参照)に
対し重大な影響を及ぼすものであつて、たとえ被上告人の発行するD新聞などの日
刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の
者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為
が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具
体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載
請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。
なお、放送
法四条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免
許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり(同法四四条三項ないし五
項、五一条等参照)、その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放
送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事
業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとして
いるにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし上
告人主張の反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法四条の規定も、
所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。
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事件番号
昭和55(オ)1188
事件名
反論文掲載
裁判年月日
昭和62年04月24日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
判決
結果
棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第41巻3号490頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
昭和52(ネ)1852
原審裁判年月日
昭和55年09月30日
判示事項
一 人格権又は条理を根拠とするいわゆる反論文掲載請求権の成否
二 新聞紙上における政党間の批判・論評の意見広告につき名誉毀損の不法行為の成立が否定された事例
裁判要旨
一 新聞記事に取り上げられた者は、当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権又は条理を根拠として、右記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で掲載することを求めることはできない。
二 新聞社が新聞紙上に掲載した甲政党の意見広告が、乙政党の社会的評価の低下を狙つたものであるが乙政党を批判・論評する内容のものであり、かつ、その記事中乙政党の綱領等の要約等が一部必ずしも妥当又は正確とはいえないとしても、右要約のための綱領等の引用文言自体は原文のままであり、要点を外したものといえないなど原判示の事実関係のもとでは、右広告の掲載は、その広告が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、主要な点において真実の証明があつたものとして、名誉毀損の不法行為となるものではない。
参照法条
憲法21条,民法1条,民法709条,民法710条,民法723条,刑法230条ノ2
判決文全文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122540616306.pdf