「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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取材を受けた人が、自分が思ったように取り上げられ放送される期待や信頼は、法的保護の対象となりうるか。

2014-05-15 23:00:00 | メディア・リテラシー
 番組の取材を受けたひとが、番組の中で自分が思ったように取り上げられて放送される期待や信頼は、法的保護の対象となりうるか。


 原則としては、法的保護の対象にはならないが、法的保護の対象になる場合もあると、最高裁は判事しています。


 その法的保護の対象となる場合とは、

1)取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,

2)取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により番組中で取り上げる旨説明し,

3)その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,

 取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容,方法で当該番組において取り上げられるものと期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。

 そして,そのような場合に,結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には,

 当該番組の種類,性質やその後の事情の変化等の諸般の事情により,当該番組において上記素材が上記説明のとおりに取り上げられなかったこともやむを得ないといえるようなときは別として,

 取材対象者の上記期待,信頼を不当に損なうものとして,放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地があるものというべきである。



 ただし、同判決においては、横尾和子裁判長裁判官が、「事実についての報道及び論評に係る番組」の場合には、法的保護に値するものと認める余地はないと意見しています。
 横尾氏の考え方も、私は、傾聴に値すると考えます。

 以下、抜粋。

「裁判官横尾和子の意見は,次のとおりである。

 私は,多数意見の結論に賛成するものであるが,その理由は,判示第2,2(1)
に関しては,多数意見と異なり,事実についての報道及び論評に係る番組の編集の
自律は取材対象者の期待,信頼によって制限されることは以下の理由により認めら
れないとするものである。

 取材対象者が抱いた内心の期待,信頼は,それが表明されないままに取材担当者
が認識できるものではなく,また,取材の都度,その内容や程度を確認することも
報道取材の実際からして期待できるものでもない。それにもかかわらず,期待,信
頼を確認せずに番組の放送をした場合に,その内容が期待,信頼と異なるとして違
法の評価を受ける可能性があるということであれば,それが取材活動の萎縮を招く
ことは避けられず,ひいては報道の自由の制約にもつながるものというべきであ
る。

 また,期待,信頼を保護することの実質は,放送事業者に対し期待,信頼の内容
に沿った番組の制作及びその放送を行う作為を求めるものであり,放送番組編集へ
の介入を許容するおそれがあるものといわざるを得ない。

 さらに,多数意見も述べるとおり,放送法上の放送事業者の番組の編集は,表現
の自由の保障の下,公共の福祉の適合性に配慮した放送事業者の自律的判断にゆだ
ねられており,また編集過程においては取材された素材の取捨選択を含め番組の内
容が変更されることも当然のことと認識されているものと考えられているのである
から,取材対象者の抱く期待,信頼を法的保護に値するものと認める余地はないと
解される。

 本件番組は,その内容からして上記の報道及び論評に係る番組に当たるといい得
るものであり,上述の理由により,原告の主張するような期待,信頼が侵害された
ことを理由とする主張は理由がない。」





*************************************************

最判平成20年6月12日NHK番組期待権訴訟
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080818143047.pdf
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36444&hanreiKbn=02



事件番号

 平成19(受)808



事件名

 損害賠償請求上告,同附帯上告事件



裁判年月日

 平成20年06月12日



法廷名

 最高裁判所第一小法廷



裁判種別

 判決



結果

 その他



判例集等巻・号・頁

 民集 第62巻6号1656頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成16(ネ)2039



原審裁判年月日

 平成19年01月29日




判示事項

 1 放送事業者等から放送番組のための取材を受けた者において,取材担当者の言動等によって当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,信頼したことが,法的保護の対象となるか
2 放送番組を放送した放送事業者及び同番組の制作,取材に関与した業者が取材を受けた者の期待,信頼を侵害したことを理由とする不法行為責任を負わないとされた事例




裁判要旨

 1 放送事業者又は放送事業者が放送番組の制作に協力を依頼した関係業者から放送番組の素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない。もっとも,当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により放送番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が上記のように期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得る。
2 放送事業者Y1の委託を受けた放送番組の制作等を業とするY2から,いわゆる従軍慰安婦問題を裁く民衆法廷を取り上げたテレビジョン放送番組の制作業務の再委託を受けたY3が,上記民衆法廷を中心となって開催したXに対して上記番組のための取材を行い,その後,Y1によって上記番組が放送された場合において,Y3の担当者が,Xに対して,上記番組が上記民衆法廷の様子をありのままに視聴者に伝える番組になるなどと説明して取材を申し入れ,上記民衆法廷の一部始終を撮影したなどの事実があったとしても,次の(1),(2)の事情の下では,上記民衆法廷をつぶさに紹介する趣旨,内容の放送がされるとのXの期待,信頼が法的保護の対象となるものとすることはできず,実際に放送された上記番組の内容が上記説明とは異なるものであったとしても,Y1~Y3は,上記期待,信頼を侵害したことを理由とする不法行為責任を負わない。
(1) Y3による実際の取材活動は,そのほとんどが取材とは無関係に当初から
予定されていた事柄に対するものであって,Xに格段の負担が生ずるものとはいえないし,Y3による当初の申入れに係る取材の内容も,Xに格段の負担を生じさせるようなものということはできない。
(2) Y3の担当者のXに対する上記説明が,上記番組において上記民衆法廷について必ず一定の内容,方法で取り上げるというものであったことはうかがわれず,Xにおいても,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が上記説明と異なるものになる可能性があることを認識することができたものと解される。
(1,2につき意見がある。)




参照法条

 (1,2につき)民法709条,放送法1条,放送法3条,放送法3条の2第1項,放送法3条の3第1項,憲法21条
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