ネットでの表現行為で、名誉棄損罪が成立した事案(最高裁平成22.3.15)があります。
名誉棄損となるおそれのある表現行為では、
〇公共の利害に関する事実の公表であること
〇公益目的であること
〇事実が真実であること
なら、名誉棄損罪は成立しません。
あるいは、
〇公共の利害に関する事実の好評であること
〇公益目的であること
〇事実が真実でなくとも、事実が真実と信ずべき相当の理由がある場合、
その表現行為には、故意過失がなく、違法性がないとして、名誉棄損罪が成立しません。
ただ、個人であっても、特に容赦なく、ネット上の名誉棄損罪はありうることを忘れてはなりません。
ネットは、便利だけれど、その便利さゆえに、容易に深刻な名誉棄損の危害を加えうる道具です。
*****刑法*****
第三十四章 名誉に対する罪
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。
************
以下、名誉棄損罪が成立した事案(最高裁平成22.3.15)を見て行きます。
<事案の概要>
被告人は,フランチャイズによる飲食店「ラーメン甲」の加盟店等の募集及び経
営指導等を業とする乙株式会社(平成14年7月1日に「株式会社甲食品」から商
号変更)の名誉を毀損しようと企て,平成14年10月18日ころから同年11月
12日ころまでの間,東京都大田区内の被告人方において,パーソナルコンピュー
タを使用し,インターネットを介して,プロバイダーから提供されたサーバーのデ
ィスクスペースを用いて開設した「丙観察会逝き逝きて丙」と題するホームペー
ジ内のトップページにおいて,
「インチキFC甲粉砕!」,
「貴方が『甲』で食事をすると,飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」
などと,
同社がカルト集団である旨の虚偽の内容を記載した文章を掲載し,
また,
同ホームページの同社の会社説明会の広告を引用したページにおいて,その下段に
「おいおい,まと
もな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよ
くあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人の
ブローカーをやっていた右翼系カルト『丙』が母体だということも,FC店を開く
ときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれ
ず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」
と,
同社が虚偽の広告をしているがごとき内容を記載した文章等を掲載し続け,
これらを不特定多数の者の閲覧可能な状態に置き,もって,公然と事実を摘示して乙株式会社の名誉を
毀損した(以下,被告人の上記行為を「本件表現行為」という。)。
<最高裁の判断>
個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手
段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。
そして,
インターネット上に載せた情報は,
不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,
これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,
一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,
インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,
インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,
他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,
より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和
41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975
頁参照)。
これを本件についてみると,
原判決の認定によれば,被告人は,
商業登記簿謄本,
市販の雑誌記事,
インターネット上の書き込み,
加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,
摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,
このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,
フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,
被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。
以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,
確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である。
******最高裁ホームページより***********************
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100317094900.pdf
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人紀藤正樹ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は
単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらな
い。
なお,所論にかんがみ,インターネットの個人利用者による表現行為と名誉毀損
罪の成否について,職権で判断する。
1 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。
被告人は,フランチャイズによる飲食店「ラーメン甲」の加盟店等の募集及び経
営指導等を業とする乙株式会社(平成14年7月1日に「株式会社甲食品」から商
号変更)の名誉を毀損しようと企て,平成14年10月18日ころから同年11月
12日ころまでの間,東京都大田区内の被告人方において,パーソナルコンピュー
タを使用し,インターネットを介して,プロバイダーから提供されたサーバーのデ
ィスクスペースを用いて開設した「丙観察会逝き逝きて丙」と題するホームペー
ジ内のトップページにおいて,「インチキFC甲粉砕!」,「貴方が『甲』で食事
をすると,飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」などと,同社がカ
ルト集団である旨の虚偽の内容を記載した文章を掲載し,また,同ホームページの
同社の会社説明会の広告を引用したページにおいて,その下段に「おいおい,まと
もな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよ
くあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人の
ブローカーをやっていた右翼系カルト『丙』が母体だということも,FC店を開く
- 2 -
ときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれ
ず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」と,同社が虚偽の
広告をしているがごとき内容を記載した文章等を掲載し続け,これらを不特定多数
の者の閲覧可能な状態に置き,もって,公然と事実を摘示して乙株式会社の名誉を
毀損した(以下,被告人の上記行為を「本件表現行為」という。)。
原判決は,被告人は,公共の利害に関する事実について,主として公益を図る目
的で本件表現行為を行ったものではあるが,摘示した事実の重要部分である,乙株
式会社と丙とが一体性を有すること,そして,加盟店から乙株式会社へ,同社から
丙へと資金が流れていることについては,真実であることの証明がなく,被告人が
真実と信じたことについて相当の理由も認められないとして,被告人を有罪とした
ものである。
2 所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要
求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネ
ットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被
告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきで
あって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。
しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといっ
て,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないの
であって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手
段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に
載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これ
による名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉
- 3 -
の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図ら
れる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者
による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真
実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由がある
と認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であっ
て,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和
41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975
頁参照)。これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登
記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった
者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して
本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成
されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資
料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事
実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのであ
る。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信し
たことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないか
ら,これと同旨の原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官横田尤孝)
名誉棄損となるおそれのある表現行為では、
〇公共の利害に関する事実の公表であること
〇公益目的であること
〇事実が真実であること
なら、名誉棄損罪は成立しません。
あるいは、
〇公共の利害に関する事実の好評であること
〇公益目的であること
〇事実が真実でなくとも、事実が真実と信ずべき相当の理由がある場合、
その表現行為には、故意過失がなく、違法性がないとして、名誉棄損罪が成立しません。
ただ、個人であっても、特に容赦なく、ネット上の名誉棄損罪はありうることを忘れてはなりません。
ネットは、便利だけれど、その便利さゆえに、容易に深刻な名誉棄損の危害を加えうる道具です。
*****刑法*****
第三十四章 名誉に対する罪
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。
************
以下、名誉棄損罪が成立した事案(最高裁平成22.3.15)を見て行きます。
<事案の概要>
被告人は,フランチャイズによる飲食店「ラーメン甲」の加盟店等の募集及び経
営指導等を業とする乙株式会社(平成14年7月1日に「株式会社甲食品」から商
号変更)の名誉を毀損しようと企て,平成14年10月18日ころから同年11月
12日ころまでの間,東京都大田区内の被告人方において,パーソナルコンピュー
タを使用し,インターネットを介して,プロバイダーから提供されたサーバーのデ
ィスクスペースを用いて開設した「丙観察会逝き逝きて丙」と題するホームペー
ジ内のトップページにおいて,
「インチキFC甲粉砕!」,
「貴方が『甲』で食事をすると,飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」
などと,
同社がカルト集団である旨の虚偽の内容を記載した文章を掲載し,
また,
同ホームページの同社の会社説明会の広告を引用したページにおいて,その下段に
「おいおい,まと
もな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよ
くあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人の
ブローカーをやっていた右翼系カルト『丙』が母体だということも,FC店を開く
ときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれ
ず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」
と,
同社が虚偽の広告をしているがごとき内容を記載した文章等を掲載し続け,
これらを不特定多数の者の閲覧可能な状態に置き,もって,公然と事実を摘示して乙株式会社の名誉を
毀損した(以下,被告人の上記行為を「本件表現行為」という。)。
<最高裁の判断>
個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手
段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。
そして,
インターネット上に載せた情報は,
不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,
これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,
一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,
インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,
インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,
他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,
より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和
41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975
頁参照)。
これを本件についてみると,
原判決の認定によれば,被告人は,
商業登記簿謄本,
市販の雑誌記事,
インターネット上の書き込み,
加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,
摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,
このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,
フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,
被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。
以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,
確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である。
******最高裁ホームページより***********************
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100317094900.pdf
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人紀藤正樹ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は
単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらな
い。
なお,所論にかんがみ,インターネットの個人利用者による表現行為と名誉毀損
罪の成否について,職権で判断する。
1 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。
被告人は,フランチャイズによる飲食店「ラーメン甲」の加盟店等の募集及び経
営指導等を業とする乙株式会社(平成14年7月1日に「株式会社甲食品」から商
号変更)の名誉を毀損しようと企て,平成14年10月18日ころから同年11月
12日ころまでの間,東京都大田区内の被告人方において,パーソナルコンピュー
タを使用し,インターネットを介して,プロバイダーから提供されたサーバーのデ
ィスクスペースを用いて開設した「丙観察会逝き逝きて丙」と題するホームペー
ジ内のトップページにおいて,「インチキFC甲粉砕!」,「貴方が『甲』で食事
をすると,飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」などと,同社がカ
ルト集団である旨の虚偽の内容を記載した文章を掲載し,また,同ホームページの
同社の会社説明会の広告を引用したページにおいて,その下段に「おいおい,まと
もな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよ
くあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人の
ブローカーをやっていた右翼系カルト『丙』が母体だということも,FC店を開く
- 2 -
ときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれ
ず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」と,同社が虚偽の
広告をしているがごとき内容を記載した文章等を掲載し続け,これらを不特定多数
の者の閲覧可能な状態に置き,もって,公然と事実を摘示して乙株式会社の名誉を
毀損した(以下,被告人の上記行為を「本件表現行為」という。)。
原判決は,被告人は,公共の利害に関する事実について,主として公益を図る目
的で本件表現行為を行ったものではあるが,摘示した事実の重要部分である,乙株
式会社と丙とが一体性を有すること,そして,加盟店から乙株式会社へ,同社から
丙へと資金が流れていることについては,真実であることの証明がなく,被告人が
真実と信じたことについて相当の理由も認められないとして,被告人を有罪とした
ものである。
2 所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要
求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネ
ットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被
告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきで
あって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。
しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといっ
て,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないの
であって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手
段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に
載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これ
による名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉
- 3 -
の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図ら
れる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者
による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真
実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由がある
と認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であっ
て,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和
41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975
頁参照)。これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登
記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった
者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して
本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成
されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資
料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事
実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのであ
る。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信し
たことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないか
ら,これと同旨の原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官横田尤孝)