1 名誉とは
名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用などの人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まない(最判昭和45年12月18日民集24巻13号2151頁)。
2 死者の名誉毀損
刑法230条2項は刑事上死者に対する名誉毀損罪が成立することを前提としている。
東京地判昭和52年7月19日LEX/DB27422973、東京高判昭和54年3月14日LEX/DB27423242(落日燃ゆ事件)は、民事上死者の名誉が毀損された場合、遺族はどのような請求ができるとしているか。
→遺族自身の名誉棄損や、精神的苦痛として請求する。
3 免責の法理
(1) 公共の利害に関する事実
最判昭和56年4月16日刑集35巻3号84頁LEX/DB27761143(月刊ペン事件)を読んで以下の点を検討して下さい。
① 私人の私生活上の行状であっても、「公共の利害に関する事実」にあたる場合とはどのような場合か。
→社会的影響が大きい場合。
② 「公共の利害に関する事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるとはどういう意味か。
→事実自体の内容・性質から、それが、自己統治、自己実現に資するものであるかどうかで判断。
「公共の利害に関する事実」にあたるものとして、①政府や公職者に関する報道②犯罪、裁判に関する報道③それ以外の社会的な関心事がある。③については、個別具体的に判断されることになるが、名門ボクシングジムの会長、大学の理事、貸金業者、プロ野球選手などに関する報道が公共の利害に関する事実に該当するとした判例がある。
東京高判平成13年7月5日LEX/DB28062405は、どのような理由で「公共の利害に関する事実」にあたらないとしているのか。
→プライバシーを侵害している。
(2) 公益を図る目的
主観的要件。判例は公共性を肯定する場合、ほとんどの場合目的の公益性も肯定している。
なお前記東京高判平成13年7月5日は公益を図る目的も否定している。
(3) 真実性・真実と信じる相当の理由
① 重要な部分、主要な部分において、真実であれば足りる。
最判昭和58年10月20日LEX/DB27490415参照
② 伝聞と真実証明の対象
最判昭和43年1月18日刑集22巻1号7頁LEX/DB24004744が真実証明の対象を風評の存在ではなく、風評の内容としている実質的な理由は何か。
→風評の内容をなすところの事実が指摘されたものである。
「犯罪の疑いがある」と表現した場合、真実証明の対象は「犯罪」自体か「疑い」か。
東京地判平成5年12月20日LEX/DB27818866参照
(4) 公正な論評の法理
最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁LEX/DB28021760を読んで以下の点を検討して下さい。
① 事実の摘示と意見ないし論評の表明を区別する基準
② 意見ないし論評の表明による名誉毀損の免責要件
4 救済手段
(1) 損害賠償
高額の損害賠償を認めた例として前記東京高判平成13年7月5日、東京高判平成13年12月26日LEX/DB28071037。
「名誉毀損による慰謝料算定の定型化及び定額化の試論」参照
(2) 謝罪広告
① 謝罪広告の合憲性
最判昭和31年7月4日民集10巻7号785頁LEX/DB27002906が、謝罪広告が憲法19条に違反しないとする理由は何か。
昭和31年事件は、加害者が自然人で「代替作為として民訴733条(注 現民執法171条)の手続によることを得る」としている。加害者が報道機関の場合謝罪広告を自発的に掲載しなければならず、昭和31年判決と同じ理由で合憲といえるか。
最判平成16年7月15日LEX/DB28092064、添付ファイルメディア判例百選「メディア自身への謝罪広告命令」参照
② 反論文掲載
最判昭和62年4月24日民集41巻3号490頁LEX/DB27100066(サンケイ新聞事件)
(3) 差止請求
最判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁LEX/DB27100045(北方ジャーナル事件)
以上
(情報学 平成26年5月2日)