情報公開に関する裁判では、裁判所は、情報公開されるべき書類を見ずして、開示を認めるべきか認めないべきかを判断しています。
普通に考えても無理なことをしています。
文書を見ずして、わかるものでしょうか?
「インカメラ審理」といいますが、裁判所だけでも、情報公開請求されている情報を実際に見て、開示の是非を判断すべきです。
当然、請求している側が、裁判の証拠としてその書類を見てしまうと、それで、裁判の目的を達成するため、そのようなことはできませんが。
今ある民事訴訟法上のテクニックを最大限用いて、インカメラ審理に近い内容(証拠の検証を裁判所に請求しながら、請求した側が検証手続きに出席することを放棄し、裁判所だけが検証する。)が争われた有名判例が以下です。
補足意見(最後に掲載)では、インカメラ審理の必要性が、述べられています。
************最高裁ホームページより***************
平成20(行フ)5 検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
平成21年01月15日 最高裁判所第一小法廷 決定 破棄自判 福岡高等裁判所
判決文全文→ http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090304091645.pdf
事件番号
平成20(行フ)5
事件名
検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
裁判年月日
平成21年01月15日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
決定
結果
破棄自判
判例集等巻・号・頁
民集 第63巻1号46頁
原審裁判所名
福岡高等裁判所
原審事件番号
平成20(行タ)3
原審裁判年月日
平成20年05月12日
判示事項
情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることの許否
裁判要旨
情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されない。
(補足意見がある。)
参照法条
民訴法223条1項,民訴法232条1項,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)5条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)9条2項
*******上述判決文中のインカメラ審理の整備をすべきことを求める補足意見**************
裁判官泉徳治の補足意見は,次のとおりである。
1 原決定は,インカメラ審理によって,裁判所のみが本件不開示文書を見分
し,本件不開示文書に情報公開法5条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」とい
う。)が記録されているか否かを判断しようとするものである。
民事(行政)訴訟においては,当事者は,証拠調べに立ち会って,自ら取調べに
当たり,証拠に関する見解を述べ,更には証拠に基づいた主張を展開する権利を有
する。当事者に弁論の機会を与えなかった証拠調べの結果は,判決における証拠資
料とすることができない。インカメラ審理においては,行政文書の開示請求者は,
当該行政文書を見分することができず,その具体的内容について弁論を行うことが
できないのであるから,裁判所がそのような行政文書を判決の証拠資料とすること
は,上記のような民事訴訟の基本原則に抵触するといわざるを得ない。
開示請求者が証拠調べにおいて当該行政文書を見分する権利を放棄した場合であ
っても,インカメラ審理が民事訴訟の基本原則に抵触することに変わりはない。不
開示決定をした行政機関の長の側においても,裁判所がインカメラ審理による証拠
調べの結果に基づき本案の判断をするにもかかわらず,自らは,当該行政文書の具
体的内容を援用しながら当該証拠調べの結果につき弁論を行ったり,あるいは訴訟
上の主張を展開することができない。そして,インカメラ審理により裁判所が見分
した行政文書の具体的内容は調書に記録されないから,上級審裁判所も,当該行政
文書を見分しないまま原審判決の審査をしなければならないことになる。このよう
なことは,民事訴訟の基本原則に抵触するから,独り開示請求者が見分の権利を放
棄すれば済むということにはならない。
- 7 -
したがって,上記のような民事訴訟の基本原則に例外を設ける明文の規定を欠い
たままで,インカメラ審理を行うことは許されないと考える。
2 ところで,新たな立法によって情報公開訴訟にインカメラ審理を導入するこ
とは,以下に述べるように,裁判の公開を保障する憲法82条に違反するものでは
なく,訴訟制度構築に係る立法裁量の範囲に属すると考える。
情報公開訴訟は,開示請求に係る行政文書を開示しない旨の行政機関の長の決定
が違法であるか否かを判断するためのものであって,その訴訟手続の途中で当該行
政文書の内容を法廷で公開するということは,もともと予定されていないことであ
る。ただ,現在の情報公開訴訟においては,裁判所は,当該行政文書を見分するこ
となく,周辺資料から当該行政文書に不開示情報が記録されているか否かを間接的
に推認するほかないため,裁判所が請求を棄却した場合に,開示請求者の納得を得
にくい面があることは否定できない。
インカメラ審理は,裁判所が当該行政文書を直接見分し,自ら内容を確認して実
体判断をするための手続であるから,国民の知る権利の具体化として認められた行
政文書開示請求権の司法上の保護を強化し,裁判の信頼性を高め,憲法32条の裁
判を受ける権利をより充実させるものということができる。
裁判を受ける権利をより充実させるものである以上,情報公開訴訟におけるイン
カメラ審理は,憲法82条に違反するものではないと解すべきである。
裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
1 本件は,平成16年8月,沖縄県宜野湾市において米軍海兵隊のヘリコプタ
ーが墜落した事故をめぐる日米両政府の協議等の関連文書の開示請求に対し,外務
大臣がした不開示決定等の取消しを求める訴訟である。原決定によると,本件は,
- 8 -
①原々審では,相手方は当初ヴォーン・インデックスの方法による審理を提唱した
が採用されなかった,②原審では,本件不開示文書のうち,文書の体裁及び文書の
中身を推測させる文言のみを明らかにした書類を抗告人において作成し,これを裁
判所にのみ開示することが検討されたが,抗告人は受け入れなかった,③これとは
別に,相手方から行政事件訴訟法23条の2第1項に基づく釈明処分としてインカ
メラ審理を経ている情報公開・個人情報保護審査会の当該審理に関する「調書」資
料を入手することの申し出がなされたが,そうした文書は存在しない旨抗告人から
報告がなされて見送られたという経緯をたどっている。原決定は,情報公開法5条
3号又は5号に該当するかどうかを判断するには,本件では「インカメラ審理に代
わり得る有効適切な手段は見当たらないものというほかない」としている。
原決定は,法解釈の枠を超えた判断を行ったものであり,破棄を免れないが,原
決定が「当該文書を所持する国又は公共団体等の任意の協力が得られない以上,お
よそ裁判所がこれを直接見分する術はないというのでは,裁判所は,事実上,一方
当事者である国又は公共団体,あるいはその諮問機関である情報公開・個人情報審
査会等の意見のみに依拠してその是非を判断せざるを得ないということにもなりか
ねず,これでは,行政文書の開示・不開示に関する最終的な判断権を裁判所に委ね
た制度趣旨にもとること甚だしいものがある。」と述べているところは理解でき
る。本件は,情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することを考えさせる事例とみ
ることができる。
2 情報公開訴訟においては,裁判所が当該文書を見ないで不開示事由の該当性
について適正な判断をすることができるかについては著しく困難な場合があり,ま
た,周辺資料から判断するという迂遠な方途によらざるを得ないため,審理は迅速
- 9 -
には行われ難い場合がある。こうしたことから,情報開示の申立てを行う当事者の
側には,インカメラ審理を導入して少なくとも裁判所には当該文書を直接見分して
適正に判断してもらいたいという要望がある。また,インカメラ審理の存在は,行
政機関の適切な対応を担保する機能を果たすとも考えられる。
情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することが憲法82条(裁判の公開)に違
反しないことは泉裁判官の補足意見のとおりであるが,適正な裁判を実施するため
に対審を公開しないで行うということは,既に人事訴訟法22条,不正競争防止法
13条,特許法105条の7等にある。開示を求める当事者がインカメラ審理を求
めるのは,それが知る権利を実現するためにより実効的であるという判断があるの
であり,行政機関の側には審理に先立って不開示とした理由等について説明する機
会が与えられるのであれば手続保障の上でも問題はない。そして,情報公開・個人
情報保護審査会設置法9条1項,2項で同審査会の手続にインカメラ審理を導入す
る一方で情報公開訴訟においてこれを欠いていることは,最終的には司法判断によ
ることとした情報公開制度の趣旨にそぐわないとも考えられる。情報公開訴訟への
インカメラ審理の導入に関しては,ヴォーン・インデックス手続(情報公開・個人
情報保護審査会設置法9条3項参照)と組み合わせ,その上でインカメラ審理を行
うことの相当性・必要性の要件について慎重に配慮すべきであるが,情報公開制度
を実効的に機能させるために検討されることが望まれる。
普通に考えても無理なことをしています。
文書を見ずして、わかるものでしょうか?
「インカメラ審理」といいますが、裁判所だけでも、情報公開請求されている情報を実際に見て、開示の是非を判断すべきです。
当然、請求している側が、裁判の証拠としてその書類を見てしまうと、それで、裁判の目的を達成するため、そのようなことはできませんが。
今ある民事訴訟法上のテクニックを最大限用いて、インカメラ審理に近い内容(証拠の検証を裁判所に請求しながら、請求した側が検証手続きに出席することを放棄し、裁判所だけが検証する。)が争われた有名判例が以下です。
補足意見(最後に掲載)では、インカメラ審理の必要性が、述べられています。
************最高裁ホームページより***************
平成20(行フ)5 検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
平成21年01月15日 最高裁判所第一小法廷 決定 破棄自判 福岡高等裁判所
判決文全文→ http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090304091645.pdf
事件番号
平成20(行フ)5
事件名
検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
裁判年月日
平成21年01月15日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
決定
結果
破棄自判
判例集等巻・号・頁
民集 第63巻1号46頁
原審裁判所名
福岡高等裁判所
原審事件番号
平成20(行タ)3
原審裁判年月日
平成20年05月12日
判示事項
情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることの許否
裁判要旨
情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されない。
(補足意見がある。)
参照法条
民訴法223条1項,民訴法232条1項,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)5条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)9条2項
*******上述判決文中のインカメラ審理の整備をすべきことを求める補足意見**************
裁判官泉徳治の補足意見は,次のとおりである。
1 原決定は,インカメラ審理によって,裁判所のみが本件不開示文書を見分
し,本件不開示文書に情報公開法5条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」とい
う。)が記録されているか否かを判断しようとするものである。
民事(行政)訴訟においては,当事者は,証拠調べに立ち会って,自ら取調べに
当たり,証拠に関する見解を述べ,更には証拠に基づいた主張を展開する権利を有
する。当事者に弁論の機会を与えなかった証拠調べの結果は,判決における証拠資
料とすることができない。インカメラ審理においては,行政文書の開示請求者は,
当該行政文書を見分することができず,その具体的内容について弁論を行うことが
できないのであるから,裁判所がそのような行政文書を判決の証拠資料とすること
は,上記のような民事訴訟の基本原則に抵触するといわざるを得ない。
開示請求者が証拠調べにおいて当該行政文書を見分する権利を放棄した場合であ
っても,インカメラ審理が民事訴訟の基本原則に抵触することに変わりはない。不
開示決定をした行政機関の長の側においても,裁判所がインカメラ審理による証拠
調べの結果に基づき本案の判断をするにもかかわらず,自らは,当該行政文書の具
体的内容を援用しながら当該証拠調べの結果につき弁論を行ったり,あるいは訴訟
上の主張を展開することができない。そして,インカメラ審理により裁判所が見分
した行政文書の具体的内容は調書に記録されないから,上級審裁判所も,当該行政
文書を見分しないまま原審判決の審査をしなければならないことになる。このよう
なことは,民事訴訟の基本原則に抵触するから,独り開示請求者が見分の権利を放
棄すれば済むということにはならない。
- 7 -
したがって,上記のような民事訴訟の基本原則に例外を設ける明文の規定を欠い
たままで,インカメラ審理を行うことは許されないと考える。
2 ところで,新たな立法によって情報公開訴訟にインカメラ審理を導入するこ
とは,以下に述べるように,裁判の公開を保障する憲法82条に違反するものでは
なく,訴訟制度構築に係る立法裁量の範囲に属すると考える。
情報公開訴訟は,開示請求に係る行政文書を開示しない旨の行政機関の長の決定
が違法であるか否かを判断するためのものであって,その訴訟手続の途中で当該行
政文書の内容を法廷で公開するということは,もともと予定されていないことであ
る。ただ,現在の情報公開訴訟においては,裁判所は,当該行政文書を見分するこ
となく,周辺資料から当該行政文書に不開示情報が記録されているか否かを間接的
に推認するほかないため,裁判所が請求を棄却した場合に,開示請求者の納得を得
にくい面があることは否定できない。
インカメラ審理は,裁判所が当該行政文書を直接見分し,自ら内容を確認して実
体判断をするための手続であるから,国民の知る権利の具体化として認められた行
政文書開示請求権の司法上の保護を強化し,裁判の信頼性を高め,憲法32条の裁
判を受ける権利をより充実させるものということができる。
裁判を受ける権利をより充実させるものである以上,情報公開訴訟におけるイン
カメラ審理は,憲法82条に違反するものではないと解すべきである。
裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
1 本件は,平成16年8月,沖縄県宜野湾市において米軍海兵隊のヘリコプタ
ーが墜落した事故をめぐる日米両政府の協議等の関連文書の開示請求に対し,外務
大臣がした不開示決定等の取消しを求める訴訟である。原決定によると,本件は,
- 8 -
①原々審では,相手方は当初ヴォーン・インデックスの方法による審理を提唱した
が採用されなかった,②原審では,本件不開示文書のうち,文書の体裁及び文書の
中身を推測させる文言のみを明らかにした書類を抗告人において作成し,これを裁
判所にのみ開示することが検討されたが,抗告人は受け入れなかった,③これとは
別に,相手方から行政事件訴訟法23条の2第1項に基づく釈明処分としてインカ
メラ審理を経ている情報公開・個人情報保護審査会の当該審理に関する「調書」資
料を入手することの申し出がなされたが,そうした文書は存在しない旨抗告人から
報告がなされて見送られたという経緯をたどっている。原決定は,情報公開法5条
3号又は5号に該当するかどうかを判断するには,本件では「インカメラ審理に代
わり得る有効適切な手段は見当たらないものというほかない」としている。
原決定は,法解釈の枠を超えた判断を行ったものであり,破棄を免れないが,原
決定が「当該文書を所持する国又は公共団体等の任意の協力が得られない以上,お
よそ裁判所がこれを直接見分する術はないというのでは,裁判所は,事実上,一方
当事者である国又は公共団体,あるいはその諮問機関である情報公開・個人情報審
査会等の意見のみに依拠してその是非を判断せざるを得ないということにもなりか
ねず,これでは,行政文書の開示・不開示に関する最終的な判断権を裁判所に委ね
た制度趣旨にもとること甚だしいものがある。」と述べているところは理解でき
る。本件は,情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することを考えさせる事例とみ
ることができる。
2 情報公開訴訟においては,裁判所が当該文書を見ないで不開示事由の該当性
について適正な判断をすることができるかについては著しく困難な場合があり,ま
た,周辺資料から判断するという迂遠な方途によらざるを得ないため,審理は迅速
- 9 -
には行われ難い場合がある。こうしたことから,情報開示の申立てを行う当事者の
側には,インカメラ審理を導入して少なくとも裁判所には当該文書を直接見分して
適正に判断してもらいたいという要望がある。また,インカメラ審理の存在は,行
政機関の適切な対応を担保する機能を果たすとも考えられる。
情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することが憲法82条(裁判の公開)に違
反しないことは泉裁判官の補足意見のとおりであるが,適正な裁判を実施するため
に対審を公開しないで行うということは,既に人事訴訟法22条,不正競争防止法
13条,特許法105条の7等にある。開示を求める当事者がインカメラ審理を求
めるのは,それが知る権利を実現するためにより実効的であるという判断があるの
であり,行政機関の側には審理に先立って不開示とした理由等について説明する機
会が与えられるのであれば手続保障の上でも問題はない。そして,情報公開・個人
情報保護審査会設置法9条1項,2項で同審査会の手続にインカメラ審理を導入す
る一方で情報公開訴訟においてこれを欠いていることは,最終的には司法判断によ
ることとした情報公開制度の趣旨にそぐわないとも考えられる。情報公開訴訟への
インカメラ審理の導入に関しては,ヴォーン・インデックス手続(情報公開・個人
情報保護審査会設置法9条3項参照)と組み合わせ,その上でインカメラ審理を行
うことの相当性・必要性の要件について慎重に配慮すべきであるが,情報公開制度
を実効的に機能させるために検討されることが望まれる。