「月島三丁目南地区第一種市街地再開発事業」について、再開発の施行区域要件が都市再開発法3条の4要件を満たさない等法的問題点があるため、その事業にかかる予算執行の差止めるべきことの判断を、月島の住民の皆様が東京地方裁判所に求めています。
H30.3.13の第一回口頭弁論期日において、東京地裁第419号法廷で意見陳述が行われ、私も住民のひとりとして意見陳述を行いました。
以下、その内容を掲載致します。
***********意見陳述 要旨*******************
1、自己紹介と月島とのかかわりについて
地上50階高さ190m750戸の超高層分譲マンションを計画する『月島三丁目南地区第一種市街地再開発事業再開発事業(以下、本事業)』の施行区域内で、風邪などの病気で保育園に行けない子を預かる病児保育室とあすなろの木と言う子育て広場を併設する医療法人理事長、小児科医師の小坂和輝と申します。公職として、地元中央区の区議会議員の負託を受けています。政党には属したことのない完全に無所属の議員です。
そして、月島3丁目30番3号にある7階建てビルの2階~4階と隣の30番4号にある3階建てビルの1階を借りる借家人です。
この場所で2001年10月に開業して丸16年になります。
大学を1994年に卒業して上京して以来、一時離れたことがありますが、隅田川の河口で水辺に囲まれ、3年に一度の住吉神社のお神輿行事と月島西仲通り商店街、通称もんじゃストリートがあり路地でできた月島という街が肌にあって好きで、20年以上月島に住んでいます。初めて飼った愛犬の名前は、月島の月をとって“ツキ”と名付けました。二人目の子どもの名は、美しい月と書いて美月といい、月は、月島の月からいただき私が命名致しました。クリニックは、2年前に他界した父親から開業資金を一部借りて建てたものであり、父親の形見と思って日々診療を致しております。
2、本事業の規模が妥当でないという疑問について
なぜ、190mもの超高層の計画が必要であるのか。
この地上50階高さ190m750戸の超高層分譲マンションを計画に対する街をゆくかたがたのご意見です。陳述人である石川福治さん、大山隆三さんが共同代表をされている月島の再開発問題とその再生を考える「愛する月島を守る会」と命名された勉強会に参加して聞かれる一番の声は、街の防災性の向上など課題はあるとしても、規模の妥当性について疑問があるということです。
現地を是非ごらんいただきたいのですが、航空写真(パネル、甲24)で見ると、路地が入り組んでいるのではなく、まっすぐに、通っており、人や自転車が余裕で通過できます。そして周辺には、大きな都道と区道が囲み、歩行空間や緊急車両空間はあります。近接する高齢者施設敷地に公開空地があり清澄通り向かいには、月島第一小学校も有り、防災時の避難場所はすでに確保されている状態です。
本事業に係わる都市計画原案説明会、都市計画案説明会で中央区にお伺いをしても、現地の分析をきちんとなされているとは言い難く、ただ、東京都による『地震に関する地域危険度測定調査』において「災害時活動困難度を考慮した総合危険度」が月島三丁目“全体”の災害危険度の数値が、周辺地域と比較し髙い(H25.9月調査 第7回でランク4)ことを理由にして、月島三丁目“27番一部と28番~30番”の再開発を急ぐ理由としています。今年2月に出された最新(第8回)の総合危険度では、「災害時活動困難度」はもっとも困難ではないランク1、「総合危険度」は、ランク4→ランク2と安全側へ大きくシフトして来ています。
なにを持って、第一種市街地再開発事業の施行区域要件である都市再開発法3条3号や4号に合致するといえるのか、現地の実情を十分に反映してご判断頂きたく存じます。
3、手続きの重大な瑕疵について
では、なぜ、超高層計画が都市計画案として提案されてしまったのか。
第一種市街地再開発事業という公共事業であるのに、借家人や近隣住民が排除され、一部の地権者だけで立案がなされたその過程に問題があると考えます。街の皆様の多様な声を反映させることができれば、このような超高層計画が都市計画手続きに入るべき計画案にはならなかったと考えます。
そして、私も、計画立案段階において、よりよい計画となるように提案をして行こうとする努力を致しましたが、借家人や近隣住民には平成25年度以降、昨年4月27日開催の「中央区まちづくり基本条例に基づく説明会」まで本事業に係わるまちづくりの情報を一切出さずに進められました。区が関与しながら、一部地権者でまちづくりが進められ、借家人や近隣住民はいわば、まちづくりから排除されたと言えると考えます。
具体的に述べますと、
①中央区議会議員の立場もあり、昨年3月の予算特別委員会において、本事業に1億5千8百万円の予算が付けられたことは知りましたが、予算審議に向けて、本事業が、どのような再開発案であるかを予算特別委員会の場で公式に中央区に問うても、存在しているにもかかわらず再開発案を「ない」と吉田不曇副区長が虚偽の答弁され(甲21)、隠され続けられたことをご推察していただけると思います。議会に対してそのような対応であったのですから、一般の区民は、この再開発についてほとんど知る余地がなく、まちづくりが進められました。
②平成25年度以降は、借家人含めた地域住民には、知らされていないことは、中央区の公文書(甲25)からもわかります。
現在の「月島三丁目南地区市街地再開発準備組合(以下、準備組合)」の前身の組織は、中央区が関与しつつ開催された「月島三丁目28・29・30番地再開発協議会(以下、協議会)」です。多額の費用が、中央区から協議会のために支出されています(甲26)。ところが、中央区が関与をしながら、借家人など区民には、まちづくりに参加する権利を平等に与えられませんでした。前述の中央区の公文書(甲25)からは、「協議会の開催に際し市街地再開発等のまちづくりは、借家人にも影響を及ぼすことから協議会規約を改正し、借家人からも意見を聞く機会を設けながら進めていくこととしておりました。」との記載ですが、実態はその真逆で、借家人の議決権が規約変更(甲27)で奪われました。そして、平成25年度には、参加したり傍聴したりすることはおろか、開催日程や会議記録を一切隠したままで、協議会がすすめられ、協議会から、平成25年度末に準備組合が作られたとのことです。
平成24年度に、協議会のありかたに疑問を持って、私は、協議会規約を取り寄せようといたしましたが、区が持っているはずの協議会規約を「ない」と回答を受ける不誠実な対応をなされました(甲28)。
③これら事実があるにも関わらず、平成30年2月1日に開催された本事業に関わる都市計画審議会では、都市計画決定をするべきとの答申を出すことを妥当とするかどうかの採決前に、副区長は、「不幸な出来事が、この再開発にはあった。借家人が理事になりたいと言い出した。」などとまた虚偽の発言をし、都市計画審議会委員の投票行動に影響を与えたと考えられる行動をまでされました(甲29)。
4、まちづくり基本条例で守られるべきであった区の責務と地域住民の「まちづくりに参加する権利」について
(1)「まちづくりに参加する権利」について
中央区には、誰もがまちづくりに参加する権利があります。
平成30年3月1日の中央区議会本会議の一般質問で、私が、「平等に「まちづくりに参加する権利」と同権利の不当な排除への措置についてです。まちは、多様な構成員からできています。①住み働く街のまちづくりに参加する権利は、だれもが平等に有していると考えます。誰もが、等しく、区道がどうあるべきか、防災対策がどうあるべきか、公園や児童遊園がどうあるべきかを考え協議する、「まちづくりに参加する権利」があると考えますが、いかがでしょうか。
その「まちづくりに参加する権利」が、不当に侵害されているのが、月島三丁目南地区のまちづくりです。都計審で、「借家人が理事になりたい」という事実があったと副区長は答弁されましたが、中央区が主催している「同地区再開発協議会」において、「借家人が、構成メンバーであることをお願いしたが聞き入れられず、オブザーバー参加さえ認められなかった」のが、事実です。そのまちの構成員に知らせることなく、逆に、いわば、排除した形で再開発の計画が作成されてきました。「築地再開発検討会議」でいうなら、区民には内密に、中央区のオブザーバー参加も許されずに進められる状況に例えられます。②作成過程において、一時期は中央区も主催しておきながら、計画に影響を受けることとなる借家人・賃借人を、まちづくりの話し合いの場に参加させないどころか話し合いの内容の情報を一切知らせない等により不当に排除して作成がなされてきた都市計画案は、本来、「都市計画手続きに入るべき案」として受け付けるべきではないと考えますが、いかがでしょうか。」と質問したところ、前半部①の問いに対し区長は明確に「まちづくりに参加する権利」が中央区にはあることを認められています(甲30)。(ちなみに、後半部分②は、この裁判の訴訟中ゆえの理由から、答弁をいただけませんでした(甲31))。
(2)まちづくり基本条例での区の責務について
中央区には、平成22年に施行されたまちづくり基本条例(以下、条例)があります。
条例は、まちづくりを、中央区基本構想が示す区の将来像の実現に寄与するものとすることを目的として、①都心区としての魅力の創出、②定住の促進及び③地域環境の改善というまちづくりの基本理念と、まちづくりの民主的な手続きなど基本的な事項を定めています。第4条には、区民の理解と協力を得るためにまちづくりに関する必要な情報を区民に提供する義務(4条2項)など区の責務を、第5条には、まちづくりが積極的に地域貢献を果たすようなものにする(5条1項)など準備組合や建物所有者など含めた開発事業者の責務を、そして、第6条には、条例の目的を達成するために区の実施するまちづくりに関する施策に協力する区民の責務をそれぞれ定め、さらに、まちづくりには三者の相互理解や協調が欠かせないことから、第8条に、区と区民(8条2項)、区と開発事業者(8条3項)そして三者(8条4項)が協議をすることを定めています。
第6条の区民の責務は、まちづくりに不可欠な三者の相互理解や協調を有効なものとするためには、協力するべき義務が区民にも生じると考えます。逆に、区民に協力する義務が生じるからこそ、区民は、協力する義務が生じるまちづくりのあり方について、開発事業者や区に対して、①協議に応じることや②その説明責任などの責務を果たすことをさらに一層強く主張し、義務付けることができる権利を有していると考えます。
しかし、平成25年度以降、まちづくりの情報を区民に出すことなく、本事業が進められました。区民にまちづくりに協力する責務を課しているにも関わらず、区側のまちづくりの情報を区民に提供する責務を怠っており、まちづくり基本条例に反していると考えます。
(3)「まちづくりに参加する権利」が保障されなかったことについて
「まちづくりに参加する権利」を認める一方で、区側の論理の根底には、例えば、ビルのオーナーが自分の所有するビルの建て替えをすることを決めて、借家人を追い出せる考え方をもとにした発想から、「まず、地権者が決めなければ、まちづくりは進まない。」類のことを述べて、まちづくりに応用しているように思います。借家人や近隣住民は、都市計画法上の都市計画原案の公告縦覧、都市計画案の公告縦覧などの際に説明会に参加し意見書を提出することができれば、そのことをもってして、「まちづくりに参加する権利」を与えたと考えているかのようです。都市計画の手続きにのったあとに、一個人が、短い期間において、計画を変えることなど到底無理な話であり、実質的な意味としては、「まちづくりに参加する権利」は与えられなかったのと同じことになってしまっています。
本事業では、再開発案が、昨年4月に近隣住民、借家人らに明らかになったのち、9月に都市計画原案の公告縦覧がなされ、11月に都市計画案の公告縦覧がなされ、2月に都市計画審議会の答申が出され、2月28日に都市計画決定告示に至りました。わずか10ヶ月の間には、たとえ、超高層計画案に、規模の妥当性がなかったとしても、その代替案を提示するなどの手法の提示など何らかの手立てを取ることは無理です。私も都市計画原案への意見書や都市計画案への意見書(甲32、添付資料を除く)を届けましたが、どのように都市計画案に反映されたのか、不明です。
「まちづくりに参加する権利」の保障することやまちづくりに関する必要な情報を区民に提供する責務(条例4条3項)を果たす上で大切なのは、その時期です。本事業であれば、中央区が主催した「協議会」の平成25年度にこそ、その権利が区民に保障され、区が責務を果たすべきであったと考えます。
もし、区が責務を果たし、まちづくりの情報が住民に与えられていたなら、借家人、地権者、近隣住民が、自らのまちづくりのありかたを真剣に議論し、誰もが住みつづけられるまちの更新ができたと考えます。少なくとも、借家人として、大家に対しまちづくりについてのありかたの意見を述べて欲しいことをお願いできたはずです。
さらに言えば、都市再開発法が、法的に強制代執行の手続きを取るのであるから、第一種市街地再開発事業という公共事業名のもとにそのような強制力に合ってしまう方々には、まちづくりの情報を逐一知らせてほしかったと思います。中央区や今の準備組合事務局やそのコンサルタントは、当時情報を出すことを約束して下さったにも関わらず情報は出されませんでした。再開発により立ち退き等にあう人々に対し、手続き保障がまったく与えられなかった、与えなかったというよりも、副区長の答弁からもわかりますように隠した、まちづくりから排除されたという表現にこの本事業は近いです。
平成29年3月16日に「中央区まちづくり基本条例に基づく大規模開発事業に関する協議」を中央区が開催し、町会長らに説明をしたことが、借家人、近隣住民に対する区民への説明責任を果たしたと区側は主張されるかもしれません。しかし、町会自体の多くが、権利能力なき社団としての任意団体であり、町会長にまちづくりについての街の住民の声を集約する責務がないことが、昨年10月開催の決算特別委員会においても明らかにされています(甲33)。非公開の場で、町会長に説明したことをもって、条例4条3項の責務を果たしたとは言えないことは、平成29年3月16日の開催の手法や町会の役割から明らかです。
なお、手続上の重大な瑕疵は、「密集市街地総合防災事業補助金」を国から得る上でも、形式的な会議ですませているなど他にもあります。
5、おわりに
ここ中央区のまちづくりにおいて、民主的な手続きを踏む上で、大切なところで欠けていると考えています。形式上は、まちの声を聞いたという体裁を整えていますが、熟議のうえですすめられているとは到底言えません。このようなありかたのままでは、真の住民自治とは言えないと考えます。
まちづくりが、自分の住み働くまちはこうあるべきだと住民同士が話し合い、築き上げられて行ってほしいという思いを込め、問題意識を持たれる近隣住民の皆様と力を合わせ、今回の裁判を提起させていただきました。
中央区のまちづくりが、少しでも民主的な手続きを踏む形へと前進するためのひとつの礎になれば幸いです。
最後に、夏の月島の路地の写真(甲34)を提示します。こどもの頃、かかりつけだった子が、芸術大学時代にとったもので、使って下さいと言って下さいました。
夏には、路地は、緑の空間となります。路地の適度な広さが、人と人を近づけ、コミュニケーションを取りやすくさせています。この月島の路地を生かしたまちづくりがなされることを心から願っています。
公正なるご判断をどうかよろしくお願い申し上げます。
甲34:夏の月島の路地の写真
以上
<参照 条文>
*都市再開発法3条3号、4号
三 当該区域内に十分な公共施設がないこと、当該区域内の土地の利用が細分されていること等により、当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること。
四 当該区域内の土地の高度利用を図ることが、当該都市の機能の更新に貢献すること。
*中央区まちづくり基本条例4条3項
3 区長は、区民の理解と協力を得るために、まちづくりに関する必要な情報を区民に提供するものとする。
*中央区まちづくり基本条例8条2項
2 区長は、開発事業が行われる地域に資するよう、当該地域の区民と当該開発事業について協議を行う