今、考えておくべき最重要な課題:人工呼吸器が足りなくなった時の、優先順位をどうすべきか。医療者だけでなく、社会全体で考えておくべき。
参考:COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言(生命・倫理研究会2020.3.30) http://square.umin.ac.jp/biomedicalethics/activities/ventilator_allocation.html
まずは、専門会議の提言を理解するために、記者会見を共有します。
「3月19日の提言」から2週間を経て、2週間の間の反省をもとにあらたな提言が出されました。各地域の感染状況を把握するための指標の明示など、3/19より不明確な点が具体的に提示下さっています。
軽症者の自宅以外の待機場所も、東京都も急ぎ、準備すべきです。提言が強く述べています。
4月1日専門家会議 提言の解説と質疑応答の録画映像 : https://www.youtube.com/watch?v=50-sux3BdDo
4/1提言 : https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf
同提言の重要部分の抜粋:提言全12ページ中、11~12ページの部分
「(3)医療崩壊に備えた市民との認識共有
〇 我が国は、幸い今のところ諸外国のようないわゆる「医療崩壊」は生じていない。
今後とも、こうした事態を回避するために、政府や市民が最善の努力を図っていくこ
とが重要である。一方で、諸外国の医療現場で起きている厳しい事態を踏まえれば、
様々な将来の可能性も想定し、人工呼吸器など限られた医療資源の活用のあり方につ
いて、市民にも認識を共有して行くことが必要と考える。
4.政府等に求められる対応について
〇 政府においては、上記1~3の取組が確保されるようにするため、休業等を余儀なく
された店舗等の事業継続支援や従業員等の生活支援など経済的支援策をはじめ、医療提
供体制の崩壊を防ぐための病床の確保、医療機器導入の支援など医療提供体制の整備、
重症者増加に備えた人材確保等に万全を期すべきである。
〇 併せて、3 月 9 日、3 月 19 日の専門家会の提言及び 3 月 28 日の新型コロナウイルス基
本的対処方針で述べられている、保健所及びクラスター班への強化が、未だ極めて不十
分なので、クラスターの発見が遅れてしまう例が出ている。国及び都道府県には迅速な
対応を求めたい。
〇 さらに、既存の治療薬等の治療効果及び安全性の検討などの支援を行うとともに、新
たな国内発ワクチンの開発をさらに加速するべきである。
Ⅴ.終わりに
〇 世界各国で、「ロックダウン」が講じられる中、市民の行動変容とクラスターの早期発
見・早期対応に力点を置いた日本の取組(「日本モデル」)に世界の注目が集まってい
る。実際に、中国湖北省を発端とした第1波に対する対応としては、適切に対応してき
たと考える。
〇 一方で、世界的なパンデミックが拡大する中で、我が国でも都市部を中心にクラスタ
ー感染が次々と発生し急速に感染の拡大がみられている。このため、政府・各自治体・
には今まで以上強い対応を求めたい。
〇 これまでも、多くの市民の皆様が、自発的な行動自粛に取り組んでいただいている
が、法律で義務化されていなくとも、3つの密が重なる場を徹底して避けるなど、社会
を構成する一員として自分、そして社会を守るために、それぞれが役割を果たしていこ
う。」
私たちが共有し解決に向け行動すべき声明です。
医療崩壊をさせない。最悪でも、集中治療の現場を崩壊をさせない。
大胆な発想の転換が求められています。
軽症者を、開業医が守る。専門医療現場の負担を、極力減らしていく。
<本件に関する関連記事>
日本の集中治療の崩壊「非常に早く訪れる」 学会が声明 https://digital.asahi.com/articles/ASN426TLYN42ULBJ00G.html
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https://www.jsicm.org/news/statement200401.html
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する理事長声明
また、新年度になり新しい仲間が増えた職場も多いかと思います。
さて、COVID-19拡大は留まる気配を見せません。
本学会では、COVID-19に関して様々な取り組みを行い迅速な対応と活動を行って参りました。集中治療の専門家集団として医師のみならず様々な職種の方々がそれぞれの専門性を発揮して、COVID-19と立ち向かっていただいていることに心より敬意を表します。
さて、新型コロナウイルス感染症がオーバーシュートした場合の医療体制で最も重要なことは、如何に死者を少なくするかということであり、集中治療体制の崩壊を阻止することが重要ですが、本邦の集中治療の体制は、パンデミックには大変脆弱と言わざるを得ません。
イタリアでは3月31日の時点で感染者105,792人に対して死者約12,428人であり死亡率は実に11.7%と急増しております。一方でドイツでは、感染者約71.808人に対して死者は775人に留まり、死亡率は1.1%です。この違いの主なものは、集中治療の体制の違いであると考えます。ICUのベッド数は、ドイツでは人口10万人あたり29~30床であるのに対し、イタリアは12床程度です。ドイツでは新型コロナウイルス感染症による死亡者のほとんどはICUで亡くなるのに対し、イタリアでは集中治療を受けることなく多くの人々が亡くなっているのが現状です。イタリアは高齢者が多いことも死亡者が多いことの原因と考えられますが、日本ではイタリアよりも高齢化が進んでいるにもかかわらず、人口10万人あたりのICUのベッド数は5床程度です。これはイタリアの半分以下であり、死者数から見たオーバーシュートは非常に早く訪れることが予想されます。
さらに、重要なことは、本邦のICUは2対1看護でありますが、重症化した新型コロナウイルス感染症患者の治療をICUで行うには、感染防御の観点からも1名の患者に対して2名の看護師が必要であるということです。これは、8床のICUでは、新型コロナウイルス感染症の患者2名を収容した時点でマンパワー的に手一杯となり、通常の手術後の患者や救急患者の受け入れさえもできなくなる事を意味致します。集中治療は非常に専門性が高く、不適切な人工呼吸管理はかえって肺を障害しますが、日本では重症肺炎に対して人工呼吸器を扱える医師が少ないことも問題です。ECMOでの管理ともなればより一層のマンパワーが必要です。
現在、本邦には約6,500床ほどのICUベッドがあると推定致しますが、約4倍のマンパワーが必要であること、他の重症患者の受け入れも必要であることを考えると、このままでは、実際に新型コロナウイルス感染症の重症患者を収容できるベッド数は1,000床にも満たない可能性があります。無理に収容すると感染防御の破綻による院内感染、医療従事者の感染、集中治療に従事する医療スタッフの肉体的・精神的ストレスが極限に達します。イタリアでは医療従事者が60名以上死亡しているとも聞きます。この状態を避けるためのあらゆる手段を講じる必要がありますが、これは、単に人工呼吸器の台数などの問題ではなく、マンパワーのリソースが大きな問題であることは明白です。
先日、お伝えした
「新型コロナウイルス感染症から国民の命を守るために 会員の皆様へお願い」
https://www.jsicm.org/news/news200331.html
でもお伝えした通り、重症患者管理経験のある医療職のリストアップやマンパワーから見た、集中治療体制の維持のためのあらゆる方策と選択肢についてのシミュレーションを開始して頂くことをお願い致します。
生物学的オーバーシュートではなく、死者数から見たオーバーシュート(=集中治療体制の崩壊)をどの局面で迎えるかの臨界点は地域によって異なると考えられ、広域搬送を含む広い視野での対応が必要となります。本学会では、日本救急医学会、日本呼吸療法医学会と共同で重症患者に特化した全国的なネットワークとレジストリーシステム(CRISIS)を構築し運用を開始しております。また、日本 COVID-19 対策 ECMOnetを3学会で構築し、重症呼吸不全の症例が適切にECMO管理を受けられるための広域支援活動を行い素晴らしい成績を収めています。
今回の一連の状況を通し、改めて危機管理のあり方を学ぶとともに、本学会員の皆様の人間愛に支えられた献身的な活動は感動的ですらあります。改めて、心より感謝申し上げるとともに大変誇りに思います。
COVID-19の感染拡大が収まることを切に祈りつつ、どのような局面になろうとも、医療崩壊を来すことなく、会員の皆様の力を合わせて、国民の命を守っていきたいと思います。
末筆ではございますが、皆様ご自身の体調管理には十分にご留意頂きますようお願い申し上げます。
2020年4月1日
一般社団法人 日本集中治療医学会
理事長 西田 修