![]() | 儲けることばかり考えるな! お客様が涙で感動する仕組み――売上150%アップは当たり前 住宅販売全国1位の秘密は「皆生感動システム」 |
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栃木県全域でリアンコーポレーションという新築とリフォームの会社を経営する五嶋伸一氏が、自社のビジネスモデルについて語った、「儲けることばかり考えるな! お客様が涙で感動する仕組み」(コスモ21)。読んでまず思ったのは、会社としての戦略が非常に明確であるということだ。
リアンコーポレーションは、「皆生感動システム」ということを基本コンセプトとして、CS(顧客満足度)とES(従業員満足度)の両面の向上を図っている。そして、この「皆生感動」を実現するために様々の工夫をしている。なんといっても家は一生の買い物である。多くの顧客は、35年という気の遠くなるような年月のローンを組むことになるが、この会社では、借入可能限度額いっぱいでのプランは提示しない。借入可能限度額=返済可能限度額ではないからだ。だから、ライフプランが決まるまでは家の話はしないという。幸せになる手段として家を建てるのであるから、家を建ててローンに追われ、却って不幸せになってしまっては、元も子もない。しかし、ここまでやってくれる住宅会社が、いったいどのくらいあるだろうか。
価格も、1000万円から建てられるローコスト住宅を基本にして、これに太陽光発電を付加して、ローン金額を抑えるという工夫も取り入れている。一般的には内訳の分からないことが多い諸経費もオープンにされ、ネット上で工事費の積算シミュレーションも行える。透明性が高いので、顧客も事前に色々と検討ができるのだ。だから、顧客は、頭の中にプランが出来上がっているので、完成現場見学会に来ても、細かいことをスタッフに聞く必要もなくなり、実際にどのような住宅が建つのかを確認すればよいということになる。
この完成現場見学会を行うに当たっての工夫もすばらしい。これは実際に立てた家を使って、これから家を建てようとする人に実物を見てもらうものだが、フリーの客は受け付けず、完全予約制なのだ。だからこそ、顧客は上に述べたように、事前に色々とプランを練ってやってこれるのである。申し込むと立派な招待状も発送され、現場に行けばウエルカムボードやフリードリンクもある。子供づれの人のためには、保育士資格を持った社員が子供の相手までしてくれる。まさに至れりつくせりで、訪れた人はこの会社に対してかなり好感度が上がるだろう。
このように、マーケティング戦略という観点からは、すばらしいと思うのだが、本書には、いくつか気になる点がある。それは、数字の使い方だ。
この会社は、社員6名で新築事業をスタートさせたという。そして、ある営業マンは、2年目で61棟を受注したと書かれている。一方売上の方は、25年度は11億円、26年度に17億円で、これは新築とリフォームを合計した会社全体の売り上げのようだ(p32)。この営業マンが、スタート時の6名に入っているのなら、2年目の売り上げは、1棟で1500万円くらいのようだから、一人で、1500万円×61=9.15憶円売り上げたことになる。これは、2年目の売り上げ11億円に極めて近い数字となるので、リフォーム事業の方の売り上げはどうなっているのか、他の営業マンは売り上げがないのか等様々な疑問が湧いてくる。 もし一人だけずばぬけた売上を挙げているのなら、それはビジネスモデルによるものではなく、その人個人の卓越した才能によるものと考えた方がよい。
これは、もしかすると、本書の情報が少ないことにより、私が仮定したことが、どこかで間違っているのかもしれない。だから、こういった数字を使う場合は、営業マンの売り上げの平均値、社員数の推移、年度ごとの新築とリフォームそれぞれの事業ごとの売り上げなど、読者が検証できるような基礎データをきちんと示す必要がある。
もうひとつ、この会社は、ローン軽減のため、発電電力量が全量買い取りとなる11.184kWの太陽光発電を設置することを推奨している。本書中に顧客がうちのデータを使ってくれということで、住み始めてから半年で月平均5万3千円の売電という数字が計上されている。これとは別に、シミュレーションでは3万6千円の売電という数字は出ているものの、気の早い人なら、この5万3千円の方に、太陽光発電の実力として飛びつくかもしれない。しかし、計算してみると、この数字は、買い取り価格を32円/kWhとすると、太陽光発電設備の設備利用率が20%くらいになってしまうのだ。太陽光発電は、季節や天候に大きく左右されるので、その利用率は通常は十数%程度しかなく、20%というのは、たまたまものすごくいい条件の場所に設置したということだろう。季節についてもいつからいつまでなのかが気になるところだ。あまり知識のない人には、このあたりの条件をきちんと書いておかないと、数字が独り歩きしてしまう危険がある。また、太陽光発電が増えると、配電線の容量による制約が発生したり、電圧抑制という現象で、期待通りに発電できないことがある。こういったことについてもきちんと書いておくべきではないだろうか。
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