ニュートリノ天体物理学入門―知られざる宇宙の姿を透視する (ブルーバックス) | |
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講談社 |
ノーベル賞受章者の小柴昌俊さんが語るニュートリノ天体物理学の入門書、「ニュートリノ天体物理学入門」(講談社ブルーバックス)。本書には、小柴さんが物理学を志すことになった経緯から始まり、自らの研究の歩み、素粒子と宇宙のこと、ニュートリノ天体物理学の誕生から今後の展望といったことが述べられている。
小柴さんが物理学を志すきっかけというのが面白い。旧制一高時代に、物理の教授と1学年上の先輩が、自分のこ進路について(成績が悪いので)「物理に行かないことだけは確かだろうな」と話しているのを聞き、悔しくなって猛勉強したそうだ。
しかし、アルバイトで生活費を稼がなければいけなかったこともあり、小柴さんの大学の卒業成績はビリだったそうだ。その証拠にと、学部時代の成績表が載っている。大学の成績の悪いことを、芸能人の名前に引っかけて、よく可山優三と言うが、小柴さんの場合は良が半分以上もある。決して良い成績とは言えないだろうが、それほど無茶苦茶に悪くもない気がするのだが。それにしても、物理学実験の2科目が優というのはさすがと言うべきか。驚いたのは、大学の科目数が少ないということ。数えてみると、わずかに16科目である。このあたりは、時代の流れを感じさせてくれる。
ところで、小柴さんと言えば、なんといっても「カミオカンデ」だ。その原理は次のようなものである。屈折率が1より大きい媒質のなかでは、光の速度は、真空中より(、1/屈折率)に落ちる。このとき、粒子の速度が、光の速度を越えるとチェレンコフ光というものを出す。「カミオカンデ」は、この原理を利用している。
ニュートリノは、他の物質との相互作用が非常に弱いため非常に検出しにくい。「カミオカンデ」は、ニュートリノが、純水中の電子と衝突することにより、加速された電子が発するチェレンコフ光を光電増倍管により検出して、間接的にニュートリノを観測するものである。超新星爆発や太陽からのニュートリノなどを観測することにより、宇宙の秘密を解明していこうとする、天体物理学の分野が、「ニュートリノ天体物理学」なのである。
小柴さんは、実験屋のためか、理論的なことについては、あまり細かいことは書かれておらず、ざっくりと基礎的な素粒子物理学や宇宙物理学の概略を知ることができる。ただ、弘法も筆の誤りだろうか。「宇宙の9割くらいが暗黒物質」(P122)といったことが書かれている(正しくは暗黒エネルギーと暗黒物質)のがちょっと気になるが、私の持っているのは第1刷なので、この後訂正されているかどうかは分からない。
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