かいぶつのまち | |
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原書房 |
水生大海の「かいぶつのまち」(原書房)。島田荘司選による、「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」で第1回優秀賞に輝いた、「少女たちの羅針盤」の続編に当たる作品だ。
タイトルの「かいぶつのまち」とは、主人公の楠田瑠美が、自分が所属する劇団の若手公演のために脚本を書いた演劇の題名である。彼女がかって所属していた橘学院高等部演劇部は、その脚本を使って、見事全国大会への出場を果たした。瑠美は、高校時代にいっしょに女子高生演劇集団「羅針盤」を立ち上げた仲間である、光石要(旧名:北畠梨里子)、御蔵欄(旧姓:江嶋)共に後輩たちの晴れ舞台を見に来たのだが、上演の前日に事件が起きる。顧問教師や、生徒の一部が、急に体調を崩したのだ。
そのうえ、主役を演じる女生徒には、カッターナイフが送り続けられていたという。元羅針盤のメンバーの3人は、かって、人の悪意により、大切な仲間を失っていた。瑠美は、もう何も出来なかったことを後悔したくないと、他の2人と事件の解明を始める。明らかになるのは、演劇部内に溢れる不協和音。そして驚くべき「かいぶつ」の正体。さらには、いま一人の「かいぶつ」の存在も・・。
この作品では、前作のように、過去と現在が交互に入れ替わりながら進んでいくという技巧的な構成にはなっておらず、時間の流れとしては過去から未来へ一直線に進む。しかし、時折、「かいぶつ」のモノローグが挿入されることにより、不穏な雰囲気を演出している。
この作品を単独で読んでも、十分面白いとは思うが、前作の知識があった方が、その面白さは倍増するだろう。できれば、先に前作を読んでおくことをお勧めしたい。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ、「風竜胆の書評」に掲載したものです。