新潮社の佐藤隆信社長が、「売れるべき本が売れない要因の一つは図書館の貸し出しにある」と、図書館関係者が多く集まる席で発言したことに対して、朝日新聞社デジタル本部の林智彦さんが、各種データにより検証を行ったものだ。
林さんの結論は、「少なくともマクロで見て、公共図書館の貸出数が書籍の売り上げに影響を与えている証拠は、筆者の分析の範囲では見つかりませんでした。」ということであった。このことが、各種データで説明されているわけだが、私もこの結論は納得できるものだと思う。
そもそも、出版不況は、本を読む人間が減ったということにあるのは明らかだ。林さんは、その主な原因を「もっとも本を読む世代であるはずの、15~64歳までの「生産年齢人口」の減少」と見ている。確かにそれは、重要なファクターだろう。しかし、それ以外にもいろいろな要因があると思う。
本を読む人として、まず頭に浮かぶのは学生だろう。昔の学生なら、本を読むか、麻雀をするくらいしか楽しみがなかった。しかし、今は、色々な遊びやゲームに精を出し、本を読むことの優先順位はかなり低くなっている。よく新聞などで目にするが、我が国の最高学府の学生でも、本を読まないのは良く知られた通りだ。要するに、本と競合するものが多くなってきたので、それに反比例して、売れなくなっているのではないか。例えば、電車やバスの中で周りを見回してみると良い。昔は、本を読んでいる人はかなりいたのものだが、今は、殆どの人が、スマホの画面とにらめっこしている。スマホで電子書籍を読んでいるのなら大したものだが、そういう気配もない。
そして、本は高くなった。売れないから価格を上げるという理屈だろうが、これでは、ますます負のスパイラルに落ち込むだけである。金のないはずの学生時代には、理工系の専門書を気楽に買っていた。しかし、今、専門書を買おうと思うと、その値段の高さに躊躇せざるを得ない。
更に、図書館との関係を言えば、元々図書館に来る人は、本好きな人だ。図書館で借りるばかりではなく、自分でもかなり購入していると考えるのが自然だろう。図書館の貸し出しが減ったとしても、その人たちの予算は決まっているのだから、本の売り上げが増えるということは考えにくい。誰にも読まれない本が増えていくだけの話だ。そして、本を読まない人はにとっては、図書館があろうがなかろうが、本の売り上げとはまったく関係がないのである。
図書館で、本と出合うことにより、もっと読書人口が増えれば、本の売り上げも増えるはずだ。林さんは次のように述べている。「 「図書館悪玉論」をぶつ前に、考えるべきことは無数にあると筆者には思えてなりません。少なくとも単なる「印象論」で、本来「味方」である存在を切って捨てるのはやめてほしいと思います。」私もこの意見に賛成だ。