最近半七捕物帳づいている気もするが、これもその中の話の一つだ。やはり、聞き手のわたしが半七老人に昔の話を聞くという体裁になっている。
1855年(安政2)江戸城の御金蔵が、藤岡藤十郎、野州無宿の富蔵の二人によって破られ、4千両の小判が盗まれたという事件が起きた。
その年両国橋から女の死骸が上がる。女は風呂敷包みを大事そうに抱えていた。その風呂敷包みから出てきたのが5本の蝋燭。この蝋燭が異様に思いので、変だなと思って人足の一人が一本をそこらの杭にたたきつけると、芯が金の延べ棒だった。これは江戸城の御金蔵破りと何か関係があるのかと緊張した半七だが、調べていくうちに実は全く無関係なことが分かる。
実は、浅草の田町で金貸しをしている宗兵衛の女房の自爆テロだった。宗兵衛にお光という若い女ができたことに嫉妬した女房が、亭主の旧悪を暴くために、証拠の蝋燭を持って、大川に飛び込んだのだ。
それにしても女の執念は怖い。半七は、子分の幸次郎にこう言っている。
「自分はひと思いに死んでしまって、あとに残った亭主を磔刑か獄門にでもしてやろうという料簡だろう。女に怨まれちゃあ助からねえ。お前も用心しろよ」
ところで、宗兵衛の旧悪というのは、中間風の旅の男を殺して持っていた蝋燭を奪ったことだ。芯が金無垢の蝋燭というのは、どうも大名から江戸の役人たちに送る賄賂だったらしい。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。