鳥類学者が、ユーモア溢れる筆致で描いた、鳥に対するエッセイ。芸風は違うのだが、読んでいて、お茶の水大名誉教授のツチヤさんを連想してしまった。ツチヤさんのネタは、周りの女性陣に虐げられているようなものが多いのだが、川上さんは、自虐ネタが多い。そして、おじさんが喜びそうな小ネタをあちこちに散りばめている。若すぎても、歳を取りすぎても分からないかもしれないが、川上さんと同年代なら、ああ元ネタはあれかと膝をたたくのではないか。
面白かったところをいくつか紹介しよう。沖縄にはズアカアオバトといういかにも頭が赤そうな鳥がいる。しかし、この鳥の頭は赤くない。台湾にも同じ種類の鳥がいるのだが、その集団の頭は、名の通り頭が赤いのである。実は台湾には、類似のアオバトという種類の鳥がいる。沖縄にはいない。川上さんは、台湾のズアカアオバトの頭が赤いのは、同種かどうかを識別するためだと言っている。そして、それをガンダムに出てくるシャア・アズナブルの搭乗するモビル・スーツが赤く塗られているのに例えて説明している。この辺りは、ちょっと怪しさが漂うが、読んでいて結構面白い。
もうひとつ、ウグイスの話がある。日本で見られるウグイスは、6つの亜種に分けられるが、実は学名上の基亜種となるのは、本土にいる普通のウグイスではない。小笠原にいるハシナガウグイスなのである。基亜種というのは、分類学の基準となる亜種である。もちろん和名では普通にみられるウグイスが中心だ。つまり、ウグイスでは学名と和名の地位が逆転しているのである。これにはヒトの歴史が関わっているのだが、このあたりは、興味があれば本書を読んで確認されたい。
なお、各章の初めには鳥のイラストが描かれている。130ページのリアル・キョロちゃんには思わず吹き出してしまった。キョロちゃんとは森〇チョコボールのパッケージに描かれたマスコット・キャラクターだ。これがパッケージに印刷されていたら、子供たちは泣き出してしまうだろう(笑)。
タイトルは「鳥が好きだと思うなよ」となっている。川上さんが鳥類研究の道に入ったのは、最初こそ受動的なのかもしれないが、本書を読んでいると川上さんの鳥に対する愛情が感じられるような気がするのは気のせいか?
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※初出は、「風竜胆の書評」です。