2024年度上期を目途で発行される新紙幣の1万円札の肖像に使われる渋沢栄一。名前くらいは知っていても、どんな人かと言われると意外に知らないものだ。本書は、彼の生涯と主要な著書「論語と算盤」を紹介したものである。ここで、「論語」と言えば孔子の教えを期したものだが、「算盤」というのは経済という意味らしい。
渋沢栄一は、1840年(天保11)、武蔵国の血洗島村(現在の埼玉県深谷市地洗島)の豪農の子として生まれた。家は藍玉の製造販売で財を成し、栄一も小さなころから英才教育を受けた。
しかし、江戸時代といえば「士農工商」の時代。一方的に代官に御用金を申し付けられ、「能力のない人間が身分だけで上から物を言う」理不尽さにバカバカしくなり、倒幕を目指す。
クーデターを計画したものの、その計画が頓挫し、御三卿の一つ一ツ橋家の家老並だった平岡平四郎のつてで、一ツ橋慶喜の家臣となる。ところがその慶喜が15代将軍になってしまう。
彼がフランス万博に行っている間に、大政奉還が行われ時代は明治に。ところが大隈重信により、明治新政府に誘われ、大蔵省に勤めることになる。しかし政府高官と対立し、民間に転じた。
倒幕を目指していた人間が、いつの間にか幕臣になり、そして明治新政府に仕え、民間に転じて色々な分野で活躍する。そういったところに、運命の面白さを感じてしまう。
その栄一が、指針としたのが論語だ。私など論語と言うと古臭くて読む気がしないものだが、当時の教養人には必読の書だったのだろう。もっとも、論語を解釈したのは栄一であり、彼の思想が大分入っているのではと思う。要するに、ある書から何を学べるかは、読み手次第だ。別に論語でなくても仏典でもよかったのかもしれないが、栄一は僧侶でないので、論語を学ぶ方が一般的だったのだろう。
新一万円札の顔となる渋沢栄一に興味がある人に勧めたい一冊である。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。