これも半七捕物帳の一話。半七捕物帳は、前半ホラー風味で、実は不思議なことは何もなかったというようなストーリーのものが多いが、この話は、不思議なことが起こり、不思議は不思議として謎解きのようなものは特にない。
今回の話の中心となるのはあやつり人形芝居一座の若竹紋作と吉田冠蔵の二人。この二人、最初は仲が良かったが、ある事件を境に犬猿の仲となった。この原因と言うのが不思議なことである。二人が使っている人形が夜中に斬りあっているのを紋作が目撃したのである。自分の人形が斬られる寸前、紋作は我を忘れて、相手の人形を煙管で殴った。それが原因で冠蔵の人形に大きな疵ができ、二人の仲が悪くなったのである。
この紋作と冠蔵の二人が、死体で発見された。ここからが、半七親分の出番というわけである。ああじゃない、こうじゃないと、半七親分、結構この事件にはてこずったようだが、最後はなんとか解決している。その謎解きは意外なものだった。ただ、人形の斬りあいについての謎解きはなく、もしかすると紋作が夢でもみたのではないのだろうか。ただ、このあとにも不思議なことが紹介されており、ホラー的な余韻を残している。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。