文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:林信行の「今そこにある未来」セミナー(1) 3Dプリンティングによる第3次iT革命

2013-12-08 09:45:59 | 書評:ビジネス
林信行の「今そこにある未来」セミナー(1) 3Dプリンティングによる第3次iT革命 (カドカワ・ミニッツブック)
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3Dプリンタというものをご存じだろうか。映画の3Dのように、赤青のメガネで見れば立体に見えるという画像を印刷するプリンタではない。コンピュータの中に収めた3Dデータに基づいて、断面をミクロン単位で印刷して、それを積み重ねることで、立体物をつくるという機械である。

 印刷というのも正確な言い方ではないかもしれない。紙以外にも、樹脂、石膏、金属なども材料となるのだ。基本は形を積層していくということなのだが、もうこうなると、私たちが想像するプリンタの概念を遥かに超えてしまい、造形機械と言っても良いだろう。この3Dプリンタ技術の現状や将来展望などについて解説したのが、「林信行の「今そこにある未来」セミナー(1) 3Dプリンティングによる第3次iT革命」(カドカワミニッツブック)である。

 この3Dプリンタの大きな特徴は、外部も内部も同時に作ることができるということである。だから、歯車を組み合わせたようなものをつくると、その歯車は本当にくるくる回るし、実際に吹くことのできるフルートの部品なども作れるという。さらには、人間の細胞をつかって、3Dプリンタの技術で臓器を作ってしまうことも研究されているらしい。その人の脂肪細胞から膝の三日月盤をつくって移植したという治験例もあるというから驚きだ。

 本書には、色々と興味深い写真が掲載されているが、中でも凄いと思ったのが、3Dプリンタで印刷された人間の頭部だ。これが美女ならまだしも、おっさんの頭部だけに、リアル過ぎて気味が悪いくらだ。もし、暗い場所にこれが置いてあれば、獄門首に間違えてしまいそうである。

 確かにこの技術は、「ものづくり」のパラダイムを根本的に変えてしまうに違いない。データさえあれば簡単にプロトタイプができてしまう。もう一つ忘れてはならいのが、ものづくりのパーソナライズ化が進むということだろう。誰でもこの機械があれば簡単にものを作れてしまう。「こち亀」にも、両さんが3Dプリンタを買った話があったが、やがては一家に一台なんていう時代が来るかもしれない。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。
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書評:彼女のため生まれた

2013-12-07 08:59:00 | 書評:小説(その他)
彼女のため生まれた (幻冬舎文庫)
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幻冬舎


 この作品の主人公は、桑原銀次郎というフリーライター。高校の同級生だった渡部という男が、銀次郎の実家に押し入り、母親を殺害して、父親に傷害を負わせ、そのあげくに、母校の屋上から飛び降りて自殺。遺された遺書によれば、15年前に銀次郎から乱暴を受けて自殺した、赤井市子という女生徒の復讐が犯行動機だという。しかし、銀次郎は、市子とも渡部ともろくに話したこともなかった。

 いったいなぜ、渡部はこのような凶行におよんだのか。あまりにも、不可解なことが多すぎる。銀次郎は、自らの名誉を守るため、事件の真相を追い求めていくのだが、闇の中から現れて来たのは、あまりにもどろどろとした人間の心の醜さ。

 人は誰だって、辛さ悲しさを持っている。しかし、自分だけが不幸と思い混んでいる人間は、そんなことなど思いもよらず、ただ人を妬み、恨む。

 ミステリーの分野に、イヤミスというのがあるらしい。読んだあと、イヤーな気分になるミステリーのことだ。次第に明らかになっていく、狂気に近い悪意の多層構造。この作品も、十分にイヤミスの資格があるだろう。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。

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書評:謎と起源の秘密 最新・彗星学

2013-12-06 18:36:39 | 書評:学術教養(科学・工学)
謎と起源の秘密 最新・彗星学 (カドカワ・ミニッツブック)
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 先般、アイソン彗星が、太陽に近づきすぎて消滅したことが大きな話題になったが、古来より彗星の襲来は、人々の話題をさらってきた。どこからかやってきて、怪しげな光をまきちらしながら去っていく彗星は、かっては不吉の象徴だった。しかし、現代では、彗星に関する多くのことが分かっており、彗星の接近は壮大な天体ショーの一つとして楽しまれるようになっている。「謎と起源の秘密 最新・彗星学」(アストロアーツ編:カドカワミニッツブック)は、この彗星に関する最新の知見を、簡潔に分かりやすく纏めたものである。

 本書に書かれていることは、「①彗星はどこからくるのか」、「②彗星の核は何からできているのか」、「③彗星の尾は何からできているのか」、「④彗星が生命起源となった可能性について」の4つに分類される。彗星には、長周期のものと短周期のものがあり、前者は、数万天文単位も離れたオールトの雲と呼ばれることろから、また後者は冥王星の外側にあるエッジワ―ス・カイパーベルトからやって来るということ。彗星の核の主成分は水(氷)であるということ。彗星の尾には、プラズマ、ダスト、ナトリウムの3種類があるということ、彗星の核には有機物が閉じ込められているということなど、極めて興味深い話題が満載である。収められているイラストや写真も美しく、天文ファンならずとも楽しく読めるだろう。

☆☆☆☆

※本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。
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岡崎市のパスタ屋Felica

2013-12-05 06:04:29 | 旅行:中部


 この看板は、ちょっと前に姪っ子の結婚式で訪れた愛知県岡崎市にあるFelicaというパスタ屋。以前書いた通り、当日は名鉄の人身事故の影響で、大幅に到着が遅れてしまった。ホテルのフロントで、近くの食べ物屋ということで教えてもらったのがこの店。あともう少し遅れていれば、閉店だったので、滑り込みセーフといったところだ。






 正式な名前は忘れたが、お好みパスタとヒレステーキのセットだ。少々値は張ったが、他に選択肢もなく、めったにあることでもないので、プチ贅沢ということにした。ステーキはめったに食べないが、久しぶりに食べるとやはりうまい。


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書評:いとみち

2013-12-03 06:09:59 | 書評:小説(その他)
いとみち (新潮文庫)
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新潮社



<おがえりなさいませ、ごスずん様>

 人見知りを克服するため、青森市のメイド喫茶で、アルバイトを始めた相馬いと。一応高校生だが、とてもそうは見えないロリッ娘である。おまけに、あがり症のドジッ娘。それでも津軽娘らしく、じょっぱりな一面も持っている。

 いとの、今時の娘とも思えない、矯正不能なバリバリの津軽弁も、古風な名前も、みんな祖母のおかげなのである。この祖母は、津軽三味線の名手だ。祖母から三味線を習っていたいとも、かなりの腕前なのだが、そこは年頃の女の子。自分が、三味線を弾いているときの姿があまりに凄じいことにショックを受け、中三になってからは、ぷっつりとやめてしまった。

 彼女が働くことになった、青森市のメイドカフェの仲間が、なかなか魅力的だ。まず、化粧をすれば10歳は若返るという、ちょっと怖いお姉さんの幸子。実はシングルマザーで娘が一人いる。次に、幸子から青森一のバカと呼ばれる、能天気でやたら元気な智美。彼女は、漫画家志望だ。いとの評によれば、<心にオヤジば飼ってる>そうである。幸子と智美は、顔を合わせればケンカばかりしているが、以外とチームワークは良い。さらに、彼女たちを纏める優しい雇われ店長の工藤。そして、まるでトドのような大量の脂肪を纏ったオーナーの成田。いかにも胡散臭げで、迫力満点。いとは気に入られているようだが、どうも苦手だ、しかし、こちらも、見かけによらず好い人なのである。

 個性豊かなカフェのスタッフたちだが、実はそれぞれに辛い過去を持っており、人の痛みを知っている。だから、みんな心根はとても優しい。そんなカフェに通ってくる常連さんたちもやはり優しい。そんな人々に囲まれながらも、ドジぶりを発揮するいと。内気で、人とのコミュニケーションが苦手だったいとは、このカフェでアルバイトを始めたことがきっかけになり、かけがいのない学校での友達やカフェでの仲間ができた。カフェが廃業のピンチを脱したときには、リニューアル記念のコンサートのために、再び三味線を手にする決意をする。

 作者は、津軽弁バリバリのメイドに三味線という、いかにもミスマッチな材料から、魔法のように、かけがえのない物語を紡ぎだしてみせた。笑いと涙、そして津軽弁のたっぷり入った<めごい>いとの物語は、読者に大きな感動をもたらすだろう。

☆☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。



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書評:爆速経営 新生ヤフーの500日

2013-12-02 06:58:17 | 書評:ビジネス
爆速経営 新生ヤフーの500日
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日経BP社


 いわゆるIT企業というやつは、雨後のタケノコのようににょきにょきと現れては、どんどん合併したり、買収されたりあるいはつぶれたりして名前が消えていく。まさに、「流れに浮かぶうたかた」のようなもので、その方面の人なら違うのだろうが、私のような人間には、なかなか会社の名前を覚えることができない。今はすっかり世の中に定着したかに見える"yahoo"
なんかも、最初にこの文字を見た時は、「『ヤッホー』? 山登りの道具でも取り扱っている会社かいな?」なんて思ったものだ。

 IT企業の特徴は、若い人が多く小回りのきく会社だと思っていたが、このヤフー、今では従業員5000人を超える大企業になっているというから驚いた。操業が1996年、20年も経ってないのに、もう意思決定が遅く社内調整ばかりに時間が取られるという大企業病の兆候が見えだしたというのは、意外や意外。「IT企業得意のワークスタイル変換はどうした!?」と突っ込んでみるが、まあこれが日本の会社の実態なんだろうなとも思う。

 どんな企業でも、大きくなれば守りに回って活力が失われていってしまう。しかし、守りに入ってしまっては企業の発展は望めない。「爆速経営 新生ヤフーの500日」(蛯谷敏:日経BP)は、そんなヤフーが、どのように、新たな発展を目指して、改革を進めて行ったかを描いたものである。

 ヤフーが行ったことは、まず経営陣の刷新。社長以下、主な幹部陣が大幅に変わった。次に目標を明確にした。「201X年までに営業利益を2倍にする」というのがそれだ。そしてビジネスの主戦場をスマートフォンの世界に定めた。ヤフーが提供している各サービスには、ヤフー番付という序列が付けられているという。番付で上位5位以内に入ると、社内から好きな人材を引き抜いてこられるという特権が与えられるというからすごい。逆に番付の最下位ランクに位置づけられ成長の可能性がないと判断されたサービスは取りやめになってしまう。人事評価制度も明快なものに変えた。

 要するに、社員の側から見れば、何をどうしたら評価されるのかが、とても分かりやすいのだ。不透明な人事制度や社内システムほど社員のモチベーションを下げるものはない。ヤフーで行われた多くの改革は、大企業病を打破したいと思っている会社経営者には大いに参考になるだろう。しかし、無批判に取り入れればよいと言う訳ではないのは当然である。例えば、鉄道のような公益事業で、番付制度を取り入れたりしたら、田舎はみんな廃線になってしまう。自分の会社に合うようにアレンジすることは欠かせないのだ。それが経営者のセンスというものだろう。

☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。

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書評:日記は囁く

2013-12-01 19:30:00 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
日記は囁く
クリエーター情報なし
東京創元社


 ドイツで25万部以上も売れたという、オカルティックなミステリー「日記は囁く」(イザベル・アベディ/酒寄進一:東京創元社)。ドイツの人口が8000万人だから、単純に日本の人口1億2600万人分に直せば、40万部ということになる。さすがにハリーポッター並みにとはいかないものの、ミステリーとしては大ヒットの部類だろう。読んでみると、なるほど、確かに面白い。

 このお話の主人公は、写真家志望のノアという16歳の少女である。バカンスを過ごすために、母親で有名女優のカートと、その友達でゲイのギルベルトの三人で、ヴェスターヴァルト地方の村にある、築500年という屋敷を借りて住むことになる。

 この3人と、ノアが友達になった少年ダーヴィトとで行った降霊術に、エリーツァという少女の霊が現れ、自分はこの家の屋根裏で殺されたという。確かに30年前に、エリーツァという18歳の少女が行方不明になった事件が発生していた。しかし、誰もが、エリーツァのことに関しては言葉を濁す。少年探偵団ならぬノアとダーヴィトの二人は、当時一体何がこの家で起こったのかと、事件の真相を調べ始める。

 かなりオカルティックな設定だが、完全なホラーという訳ではない。降霊術というのは、アルファベットと数字を書いた紙の上にグラスを置いて、それに皆で手を添えて、霊を呼び出すと、霊がグラスを動かして、メッセージを伝えるというものだ。だから、エリーツァの霊も直接現れて人々を恐怖に陥れるようなことなどしない。ただ二人にヒントを与えるだけで、降霊術を行った時に現れる以外の怪奇現象が起きることもない。だから、ほとんどオカルティックな怖さはないのだ。

 むしろ本当に怖いのは、真犯人の方である。確かにエリーツァは、容姿はすばらしかった反面、心の方は、かなりねじまがっていた。しかし、通常はこれが殺害までに発展するほどとも思えない。やはり、犯人は、かなりサイコな性格なのだろう。事件が露見しそうになると、やはり同じことを繰り返している。

 この作品の読みどころは、次の二つだろう。一つは、二人がいかにして真実にせまっていくかということ。もう一つは、ノアが最低だった初体験のトラウマを、ダーヴィトを知ることによって、乗り越えていくということだ。だから、この物語は、一種のノアの成長の物語でもあるのだ。各章の冒頭には、タイトルにもなっているエリーツァ日記の一節が示されており、これを受けていったいどのように話が展開していくかという、読者の興味を盛りたててくれる。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。


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