雨、17度、85%
フォークやナイフ、スプーンの形にとてもひかれます。銀器ばかりでなくて、ステンレスも象牙やマザーパールの柄が付いたものも、食べる営みの中に手の延長として使う道具でありながら、装飾性があります。テーブルのプレートの横に並んだナイフやフォーク、プレートやグラスに負けず劣らずテーブルに彩りを添えてくれます。その趣は日本の箸が、研ぎすまされ真一文字にお膳に座っている様と好対照です。
西欧人の食生活とは切っても切り離せないこれらのスプーンやフォークにナイフ、それぞれ用途によって大きさも形も違います。蟹用のフォーク、オイスター用のフォーク、瓶の底のピクルスを取るピクルスフォーク、熱々のお芋を丸ごと取り分けるフォーク、トースト用のフォークまで実に様々。
19994年刊行の[FORKS,KNIVES & SPOONS ]この20年、飽きもせずよく手に取る本です。1997年の返還前の香港は、こうしたフォークなどを扱う店が沢山ありました。お金もありませんが、ショーケースを除くだけでワクワクしました。私にとっては、ダイヤモンドより輝いて見えます。結局、買い求めたのはクリストフルのアメリカン、すっきりと曲線的でない装飾性のないシリーズです。
思い切って求めたのは、テーブルスプーンにフォークにナイフ、ティースプーンにパイフォークを6客ずつ。レンクロフォードのガラスのショーケースの上で、値段の交渉までした記憶があります。30代になったばかり、30年近く前の話です。
その後、クリストフルが自分の店を出すことになり、レンクロフォードから撤退するときのことです。信じられない安さで、クリストフルの銀器がバーゲンされました。サービング用のナイフやフォーク、カービング用のものを求めたのもこの時です。そして、ずっと欲しかった、フィッシュフォークとナイフも求めました。
普通のテーブルナイフとフォークでも充分なのですが、フィッシュ用は、ややこぶり、そしてナイフにもフォークにもカーブが入っています。ちょっとした装飾です。日本人ですから、お箸でお魚を食べればいいようなものですが、恥ずかしい話お箸を使うのがとても下手な私です。もちろん、このフォークとナイフでは、サンマの塩焼きやお煮付けは食べません。ソウルを赤ピーマンの上におきグリルしたものやクリームでそっと煮た魚の時のはテーブルに上ります。お肉と違ってきちんと火の通った魚は、力を入れずに外れます。ナイフのエッジは鋭くありません。
いつだったか、香港のJOYCEがまだテーブルウェアーを扱っていた頃、見つけたのがフィッシュ用のサービングナイフとフォークです。見出し写真、それぞれのシェープがきれいです。持ち手にはシダの葉っぱは施されています。これはクリストフルではありません。SIECLEといかかれています。フランスのものです。私が持つナイフたちの中で数少ない、装飾性の強いものです。このサービングナイフとフォークは実に使い勝手がよく、一匹丸のまま蒸したタイを取り分けるのにも重宝します。ところがお箸遣いが上手な主人などは、そんなもの使わなくていいとおっしゃいます。
スプーンも含めて、もうこれ以上増やすつもりはありません。それでも、象牙の小さなスプーンや塗りの大きな取り分け用のスプーンを見ると、心がぐらりと動きます。出来たら、いえ、見つけることが出来れば、サーディン用のフォークを買いたいと思っています。フォークの先が4、5本、オイルサーディンを缶から出す為だけのフォークです。思い続ければいつかどこかで会えそうな気がします。