少年のように、純粋。
子どものこころを持ったひと。
明るく純真。
無菌のまま、大人になった。
それが、夫、マサヒコ。
雨の日も風の日も、無遅刻、無欠席。
病気知らず、頑丈な身体。
仕事は勤勉、真面目によく働き、
オフは、いまも少年のように、好きなことだけに夢中になり、
明るさをキープ。
打たれ強い。(妻からの攻撃に対して)
へこたれない。(妻のイヤミに対して)
仕事は、完璧なんだから、いいか・・・
オンナ遊びもしないし、優しいし、家におカネも入れてくれるし・・・
それだけで、満足しなければバチが当たる。よ、ね。
妻、カンナは思う。
人当たりもよく、人づきあいもいい、敵のいないひと。
でも、カンナと接するのは、仕事以外のところ。
マサヒコは、一歩、家に入ると、すべての鎧を脱いで、スイッチをオフにする。
おもいっきり、脱力。
仕事やお付き合い、ストレス解消の趣味、飲み会で、家にいる時間はほとんどない。
その少ない自宅での時間も、泥酔していることが多い。
そこで力を蓄えて、また、仕事、社会に向けて、出ていく。
と、ここまで、じゅうぶん、アタマではわかっている。
感謝しても、し尽くせない。
自分のような、なんの取り柄もない者を奥さんにしてくれ、保護してくれる。
子どもを産めば、籍にも入れてくれ、教育費も出してくれる。
ゲゲゲの女房のように、夫を支える妻。
サポート役に徹して幸せを掴む。
それが、ビジネス・モデルならぬ、理想の妻モデルだった。
しかし、自分は、ミセス・ゲゲより、ひと世代、年下。
体中が、痒い・・・、むず痒いのに、掻いても掻いても痒いところに届かない、いらいら。
いまの若者が、「新型うつ」と称して、傍目には甘え、怠けて見えるのと同じ?
ハングリー精神がなくなった、現代社会が産んだ、贅沢病?
夫をそっとカゲで支える妻。
う~~~、う~~~、チアノーゼになりそう。
服も、脱ぎっぱなし。
トイレも、汚しっぱなし。
引き出しも、開けっぱなし。
家事なんて、したことがないし、するものと思っていない。
子育ても、任せっぱなし。
家のこと、家庭のこと、親戚づき合い、すべて、任せっぱなし。
楽といえば、楽。
役割分担がはっきりしているから、諍いが起こらない。
ある日、突然、理由もなく、カンナは、キレた。
幸せのまっただ中にいるはずなのに。
すべてをほっぽり出したくなった。
「おかあさん(=カンナ)、食事メニューのレパートリー少ないね。
タンシチューとか、作らないの?」
タンシチューは、マサヒコが、大好きなメニューだった。
地方出身のマサヒコが、大学に通うため、一人住まいの時に、
お世話になっていた親戚のおばさんの得意料理。
マサヒコは、洗濯ものをこのおばさんの家に持って行き、洗ってもらっていた。
おばさんには、マサヒコと同世代の息子たちもいたので、楽しく食卓を囲むこともあった。
その大好きなメニューが、タンシチューだ。
亭主の好きな赤烏帽子。
なら、タンシチューを作ってあげたらいいじゃない。
別に難しい料理でもないし。
カンタンなこと。
日頃の感謝の気持ちを込めて。
でも、カンナは、なぜか、タンシチューというキーワードを聞いた途端、キレた。
当時、おばさんには、マサヒコのママが、いくらかのおカネを送って、洗濯をしてもらっていたのだ。
マサヒコは、そんなことを知らない。
だいいち、洗濯機もある、マンションでの一人住まい、親からの仕送りはじゅうぶん、あった。
ママから下着も次々と買って送られていた。
部屋には、封を切っていない新品の衣類があふれていた。
なんで、わざわざ、洗濯ものを持って、おばさんの家まで行って、洗濯をしてもらう?
まだ幼児だったり、病気だったり、洗濯ができない障害があるわけじゃあるまいし、
そんな行為に、なぜ、なんの疑問も抱かない?
いい年をした、大の大人が!!
おばさんに、そんなことを頼むママ。
おカネが動いているなんて、知らない、超・おぼっちゃまの、マサヒコ。
自分はなにもしなくても、人生のレールを誰かが準備してくれる。
世の中には、好意と善意が、満ちあふれかえっていると思っている。
おばさんのお家で、大好きなタンシチューを嬉しそうに食べている姿が目に浮かぶ。
なんて、自分は、嫌な奴なんだろう・・・
カンナは、自分が悪魔のような、サイテ―のイヤな奴に思えた。
「タンシチュー」は、マサヒコの、大人として自立できていない象徴としての、キーワードだった。
マサヒコは、仕事をし、家庭を持ち、妻・子どもを養い、ちゃんと社会人として行動している。
その、もっとも恩恵を受けている、家庭の内側から、そんな否定的な声を上げる、
それこそ、おかしなことではないか。
しかも、どんな由々しき一大事かと思いきや、ささいな、単なる「洗濯」。
見かけ、表面の行動、社会や、人々の見る目、なんの問題もない。
しかし、カンナは、こころの、芯の部分で、どうしても、ひっかかる。
根っこのところに、なにかが張り付いて、息ができない。
あらあら、まあ、こんなに汚しちゃって・・・男の子って、いつもこうなんだから・・・
まあ、すごい散らかしよう・・・ママが、片づけてあげなくっちゃ・・・
さあ、これに着替えて、こっちにおいで。
あなたは、なにも考えなくていいのよ、ママがみんな、先に用意してあげるから。
明るい純真な、かわいい男の子は、はーーい、と元気よくお返事をする。
あなたは、お勉強だけしてればいいの。
ママは、それがいちばん嬉しいのよ。
ママ、ボク、頑張る。10番以内に絶対に入る!! ママ、見ててね。
男の子は、緊張した顔で、ママに約束する。
いくつになっても、マサヒコは、男の子の延長。
ママのかわりに、妻に甘える。
カンナの心臓にくっつけていた時限爆弾が、
タンシチューのキーワードで、スイッチが入り、突然、爆発。
空中分解した。
こっぱみじんになったあと、カンナの中から出てきた、あたらしい妻。
姿かたちは、そのまま。リニューアル・カンナ。
もう壊れません。
電子頭脳。
プログラミングされたとおりに動きます。
カンナは、いつか自爆するときのことを考えて、事前にプログラミングしていた。
マサヒコは、前より断然、従順になり、無償の愛を捧げるカンナに、喜びを感じた。
ボク自身が変わることなく、子どものままでいられる、
ボクの理想通りの、ママの分身が、やっとできた。
ありがとう。カンナ。
一生、なかよく暮らそうね。
カンナは、もう死んだ。
でも、マサヒコは、それを知らない。
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子どものこころを持ったひと。
明るく純真。
無菌のまま、大人になった。
それが、夫、マサヒコ。
雨の日も風の日も、無遅刻、無欠席。
病気知らず、頑丈な身体。
仕事は勤勉、真面目によく働き、
オフは、いまも少年のように、好きなことだけに夢中になり、
明るさをキープ。
打たれ強い。(妻からの攻撃に対して)
へこたれない。(妻のイヤミに対して)
仕事は、完璧なんだから、いいか・・・
オンナ遊びもしないし、優しいし、家におカネも入れてくれるし・・・
それだけで、満足しなければバチが当たる。よ、ね。
妻、カンナは思う。
人当たりもよく、人づきあいもいい、敵のいないひと。
でも、カンナと接するのは、仕事以外のところ。
マサヒコは、一歩、家に入ると、すべての鎧を脱いで、スイッチをオフにする。
おもいっきり、脱力。
仕事やお付き合い、ストレス解消の趣味、飲み会で、家にいる時間はほとんどない。
その少ない自宅での時間も、泥酔していることが多い。
そこで力を蓄えて、また、仕事、社会に向けて、出ていく。
と、ここまで、じゅうぶん、アタマではわかっている。
感謝しても、し尽くせない。
自分のような、なんの取り柄もない者を奥さんにしてくれ、保護してくれる。
子どもを産めば、籍にも入れてくれ、教育費も出してくれる。
ゲゲゲの女房のように、夫を支える妻。
サポート役に徹して幸せを掴む。
それが、ビジネス・モデルならぬ、理想の妻モデルだった。
しかし、自分は、ミセス・ゲゲより、ひと世代、年下。
体中が、痒い・・・、むず痒いのに、掻いても掻いても痒いところに届かない、いらいら。
いまの若者が、「新型うつ」と称して、傍目には甘え、怠けて見えるのと同じ?
ハングリー精神がなくなった、現代社会が産んだ、贅沢病?
夫をそっとカゲで支える妻。
う~~~、う~~~、チアノーゼになりそう。
服も、脱ぎっぱなし。
トイレも、汚しっぱなし。
引き出しも、開けっぱなし。
家事なんて、したことがないし、するものと思っていない。
子育ても、任せっぱなし。
家のこと、家庭のこと、親戚づき合い、すべて、任せっぱなし。
楽といえば、楽。
役割分担がはっきりしているから、諍いが起こらない。
ある日、突然、理由もなく、カンナは、キレた。
幸せのまっただ中にいるはずなのに。
すべてをほっぽり出したくなった。
「おかあさん(=カンナ)、食事メニューのレパートリー少ないね。
タンシチューとか、作らないの?」
タンシチューは、マサヒコが、大好きなメニューだった。
地方出身のマサヒコが、大学に通うため、一人住まいの時に、
お世話になっていた親戚のおばさんの得意料理。
マサヒコは、洗濯ものをこのおばさんの家に持って行き、洗ってもらっていた。
おばさんには、マサヒコと同世代の息子たちもいたので、楽しく食卓を囲むこともあった。
その大好きなメニューが、タンシチューだ。
亭主の好きな赤烏帽子。
なら、タンシチューを作ってあげたらいいじゃない。
別に難しい料理でもないし。
カンタンなこと。
日頃の感謝の気持ちを込めて。
でも、カンナは、なぜか、タンシチューというキーワードを聞いた途端、キレた。
当時、おばさんには、マサヒコのママが、いくらかのおカネを送って、洗濯をしてもらっていたのだ。
マサヒコは、そんなことを知らない。
だいいち、洗濯機もある、マンションでの一人住まい、親からの仕送りはじゅうぶん、あった。
ママから下着も次々と買って送られていた。
部屋には、封を切っていない新品の衣類があふれていた。
なんで、わざわざ、洗濯ものを持って、おばさんの家まで行って、洗濯をしてもらう?
まだ幼児だったり、病気だったり、洗濯ができない障害があるわけじゃあるまいし、
そんな行為に、なぜ、なんの疑問も抱かない?
いい年をした、大の大人が!!
おばさんに、そんなことを頼むママ。
おカネが動いているなんて、知らない、超・おぼっちゃまの、マサヒコ。
自分はなにもしなくても、人生のレールを誰かが準備してくれる。
世の中には、好意と善意が、満ちあふれかえっていると思っている。
おばさんのお家で、大好きなタンシチューを嬉しそうに食べている姿が目に浮かぶ。
なんて、自分は、嫌な奴なんだろう・・・
カンナは、自分が悪魔のような、サイテ―のイヤな奴に思えた。
「タンシチュー」は、マサヒコの、大人として自立できていない象徴としての、キーワードだった。
マサヒコは、仕事をし、家庭を持ち、妻・子どもを養い、ちゃんと社会人として行動している。
その、もっとも恩恵を受けている、家庭の内側から、そんな否定的な声を上げる、
それこそ、おかしなことではないか。
しかも、どんな由々しき一大事かと思いきや、ささいな、単なる「洗濯」。
見かけ、表面の行動、社会や、人々の見る目、なんの問題もない。
しかし、カンナは、こころの、芯の部分で、どうしても、ひっかかる。
根っこのところに、なにかが張り付いて、息ができない。
あらあら、まあ、こんなに汚しちゃって・・・男の子って、いつもこうなんだから・・・
まあ、すごい散らかしよう・・・ママが、片づけてあげなくっちゃ・・・
さあ、これに着替えて、こっちにおいで。
あなたは、なにも考えなくていいのよ、ママがみんな、先に用意してあげるから。
明るい純真な、かわいい男の子は、はーーい、と元気よくお返事をする。
あなたは、お勉強だけしてればいいの。
ママは、それがいちばん嬉しいのよ。
ママ、ボク、頑張る。10番以内に絶対に入る!! ママ、見ててね。
男の子は、緊張した顔で、ママに約束する。
いくつになっても、マサヒコは、男の子の延長。
ママのかわりに、妻に甘える。
カンナの心臓にくっつけていた時限爆弾が、
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こっぱみじんになったあと、カンナの中から出てきた、あたらしい妻。
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もう壊れません。
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カンナは、いつか自爆するときのことを考えて、事前にプログラミングしていた。
マサヒコは、前より断然、従順になり、無償の愛を捧げるカンナに、喜びを感じた。
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ボクの理想通りの、ママの分身が、やっとできた。
ありがとう。カンナ。
一生、なかよく暮らそうね。
カンナは、もう死んだ。
でも、マサヒコは、それを知らない。
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