『 鴉は大をそ鳥 ・ 万葉集の風景 』
鴉とふ 大をそ鳥の まさでにも
来まさぬ君を ころくとそ鳴く
作者不明
( 巻14-3521 )
からすとふ おおをそとりの まさでにも
きまさぬきみを ころくとそなく
意訳 「 鴉という 大あわてものの鳥は ほんとうは 来てもいないあの人を 来たよ来たよと鳴くのですよ 」
* 万葉集には、およそ4,500首の歌が収録されていますが、そのうち、およそ2,100首が「作者不明」となっています。この歌もその一つです。
ただ、万葉集の添え書きなどから、東国の人の歌らしいのですが、出身地は不明です。
また、作品の内容から女性が詠んだものと考えられます。
* 鴉(烏)が人里近くにいる様子は、平安王朝時代の文献にも登場していますし、現代社会でも変らぬ風景のように思われます。
この歌からは、いわゆる「妻問婚」だったらしいことが窺えます。また、作者が地方在住なのか、あるいは夫の赴任によって移住したものかは分りませんが、地方の女性もこれだけしゃれた歌が詠めるだけの教養が広がっていたのかもしれません。
* それにしても、鴉の鳴く声にさえ、愛する人が来たかと思うほど待ち焦がれているのでしょうが、それを、この歌のように、「鴉のあわてん坊」と詠む心の豊かさはすばらしいと思うのです。
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