雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

寒波到来

2025-01-29 19:02:46 | 日々これ好日

      『 寒波到来 』

    寒波が到来すると 呼びかけられている
    当地も 昨日あたりから 
    寒さに加え 風が強い
    インフルエンザが流行しているところに
    ポカポカ陽気で 花粉症の注意報も
    そして一転 寒波到来とか
    くれぐれも 体調にご注意を
    それと 火事のニュースが多いので
    こちらの方もご注意を お互いに・・・

               ☆☆☆

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武勇の人橘則光 ・ 今昔の人々

2025-01-29 07:59:26 | 今昔の人々

     『 武勇の人橘則光 ・ 今昔の人々 』


陸奧の前司橘則光という人がいた。
武人の家柄ではないが、極めて豪胆なうえに思慮深く、腕力もとても強かった。
容姿も優れていて、世間の評判も良く、人々から一目置かれていた。

さて、その人がまだ若い頃の事であるが、一条天皇の御代に衛府の蔵人として仕えていたが、宮中の宿直所から忍んで女の所に出掛けた。
夜がしだいに更けていく頃で、大刀だけを持ち小舎人童一人だけ連れて門を出て、大宮大路を下っていくと、大きな垣のある辺りに何人かの人が立っている様子が窺えた。
則光は、「これは、恐ろしいぞ」と思いながらも、急いで通り過ぎようとした。八月九日頃の月は西の山近くなっていて、大垣の辺りは影になっていて人の姿ははっきり見えないが、その方向から声だけが「そこを行く人、止まれ。公達のお通りだぞ。通ってはならぬ」と言った。
則光は、「やはり、盗賊のお決まりの言葉だ」と思ったが、もはや引き返すこともならず、急いで通り過ぎようとすると、「そのまま通る気か」と言って、走り懸かってくる者がいた。

則光は、とっさに身を伏せてその方向を見ると、弓の影は見えず大刀がきらりと光るのが見えた。「弓で襲ってくるのではない」と知って安心し、身を低くして逃げると、その男が後を追ってくる。「頭を打ち割られる」と感じるほど迫られたところで、にわかに横に飛びのいた。追ってきた男は止まることが出来ずに則光の先まで走り出てしまったので、則光は体制を整えて、その男の頭を真っ二つに打ち割った。
「うまくいった」と思っている間もなく、「どうしたのだ」と言いながら、別の男が駆けつけてくる。そこで、大刀を収める間もなかったので、小脇に挟んで逃げ出すと、「此奴め、なかなか腕の立つ奴だな」と言いながら追ってくるが、先の男より足が速そうで、前と同じようには行くまい、と思って、突然その場に坐り込むと、追ってきた男は則光の身体につまずくように倒れ込んだので、すぐに立ち上がり、起き上がる隙も与えず頭を打ち割った。
「これで終った」と思っていると、なおも、三人目の男が「なかなかの者だな。絶対に逃さないぞ」と言いながら、なおも迫ってくるので、さすがに則光も、「今度はやられそうだ」と感じたので、「仏神、助け給え」と祈念して、大刀を鉾のように持ち変えて、走ってくる男に向かって真っ正面から突っ込んでいった。追ってきた男も大刀を振るおうとしたがあまりに近いため着物さえ切れなかった。鉾のように持った則光の大刀は背中まで突き通った。その大刀を引き抜くと、男は仰向けに倒れたので、大刀を持っている方の腕を肩から切り落した。

「まだ、来るのか」と様子を窺ったが、何の音もしなかったので、走って逃げて、中御門に駆け込み、柱の陰に隠れて、「小舎人童は無事かな」と待っていると、童が大宮大路を南の方から泣きながら歩いてくるのが見えたので、声をかけると飛ぶように走ってきた。
そこで、小舎人童に着替えを取ってこさせ、上衣や指貫や大刀などの血などを洗い流し、童には固く口止めして、素知らぬ顔で宿直所に帰って、寝てしまった。

しかし、「もしかすると、自分の仕業だと知られるかもしれない」とびくびくしているうちに夜が明けた。
夜が明けると、「大宮大路の大炊御門の辺りで、大男が三人切り殺されている。やったのは凄く腕の立つ奴らしい」などと大騒ぎになっていた。
殿上人たちも、「さあ行ってみよう」などと言って皆出掛けて行く。則光も誘われ、断るわけにもいかず、渋々ついて行った。
車からこぼれるほど大勢が乗って、その場所まで行ってみると、まだ死体はそのままになっている。
ところが、そのそばで、三十歳ばかりの髭面の男が、無地の袴に紺の洗いざらしの袷と、その上に山吹色ですっかり日に焼けた衣を着て、猪の毛を逆立てた尻鞘をつけた大刀を帯び、鹿の皮の沓を履いて立ちはだかっていて、大声で何か叫んでいる。
「何を言っているのか」と、供の雑色に尋ねさせると、「あの男が、自分がこの三人を切り殺したと言っています」と報告した。

「わけを聞こう」ということで呼び寄せると、男はやってきて、とうとうと語り始めた。
「昨夜、所用があってこの近くを通り過ぎようとしたところ、此奴ら三人に襲われました。どうせ盗賊だろうと思って、叩き切ってやりましたが、今朝改めて見ますと、長年私を狙っていた敵でした。これから、しゃっ首を取ってやろうと思っているのです」と言って仁王立ちになっている。
殿上人たちが、「それは、それは」と感心すると、男は、頭を振り、手を振ってしゃべり続けている。

これを見て則光は、内心おかしくてならなかったが、「此奴が、このように名乗り出ているのだから、人殺しの罪は此奴に譲れてありがたいことだ」と思った。
「それまでは、もしかすると自分の仕業だと分るのではないかと心配していたが、『自分がやった』と名乗り出た男のおかげで、其奴のせいにしてしまった」と、則光は年老いてから子供に初めて話したのである。

橘則光は、あの清少納言の夫であった人物である。二人の間には一男がおり、越中の守にまで昇っている。
則光は無骨で風流を解せない人物と誤解されることがあるが、清少納言とは、夫婦の縁が切れた後も、「兄と妹」の仲として親交があり、周囲の人たちも認めていたという。
則光は、従四位上まで昇っており、武勇ばかりでなく人格面も優れていたと思われるのである。

        ☆   ☆   ☆

  ( 「今昔物語」巻二十三の第十五話を参考にしました )



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