『 糟糠の妻との約束 ・ 今昔物語 ( 10 - 25 ) 』
今は昔、
震旦の漢の御代に、高鳳(コウホウ・後漢の学者。)という人がいた。幼い時から賢くて、昼夜に学問を学び、他の事には全く関心を示さなかった。
ところが、高鳳の家は極めて貧しく、妻が一人いるだけで使用人などは全くいなかった。けれども、高鳳は世間のことを全く知らず、ただ学問を学ぶばかりで年月を送っているうちに、当面の夕方の食事にさえ事欠くようになった。
そこで、妻は隣の家に行って、麦を求めて持ち帰り、夕方の食事の充てるために庭に干していた。
妻は高鳳に「わたしは、夕方の食べ物がないので、隣家に行って麦を求めて来て、庭に干しています。もし鶏がやって来てこの麦を食べようとしたら、遠くに追いやって下さい。わたしは火を取ってきますから」と言って出て行った。
その後、鶏がやって来て庭の麦を食べた。けれども、高鳳は学問を学ぶ以外に気が回らなかったので、それに気がつかず、鶏は思いのままに麦を全部食べてしまった。
妻が戻ってきて見ると、麦がない。
「どうして、あの麦がないのですか」と訊ねると、高鳳は、知らないと答えた。
すると、妻は大いに怒り、「あなたは、学問を学んでいらっしゃいますが、世間のことは何もご存じなく、極めて愚かです。もう、わたしは、あなたと一緒にいることなど出来ません」と言うと、高鳳は、「あと三年経てば、私は富貴な身になることが出来る。なあ、お前、その時まで待ってくれ」と言ったが、妻は、もうその言葉を信じることが出来ず、出て行ってしまった。
その後、その妻は、算洲という所に行って、別の男に嫁いだ。
やがて、四年が過ぎ、高鳳は遂に算洲の刺史(シシ・長官)に任ぜられた。
それによって、高鳳は富貴の身となり、その洲に下る途中、算洲の人々は挙って道やあちらこちらを祓い清めて、大騒ぎして準備した。
その洲の貴賤の男女が数知れないほど集まって、刺史が下向してくるのを見た。その中に、刺史の旧い妻もいて、今の夫と共に藪の中に入ってその様子を見ていたが、刺史は、かすかに旧い妻が藪の中にいるのを見つけて、輿を止めて、人を遣って伝えさせた。「私は、そなたの旧い夫ではないか。そなたは、私の旧い妻ではないか」と。
旧い妻はこれを聞いて大いに喜び、藪の中から出てきた。近くに呼び寄せて見るに、まことにそうであったので、感慨深く思うこと限りなかった。
刺史は、貧しい時代のことを忘れておらず、旧い妻を召して、以前のように家に引き取り世話をしたので、刺史の今の妻は情けなくて去ってしまった、
となむ語り伝へたるとや。
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ありがとう*\(^o^)/*
私今昔物語すきなんです〜😙
今昔物語、拙い訳文ですが、残りあと1年程まで来ました。よろしくお願いします。
いよいよ入院ですね。準備万端のようですので、手術は大成功するでしょうが、遠くからも祈念しております。
くれぐれもご自愛下さいますように。