『 詰めかけていた大勢の人たちは、沈みきった雰囲気に堪えかねて、要領の良い人から順番に、一人去り、二人去り、家の中はさらに静かになっていきます。 』
いよいよ受領が決定される日ともなりますと、集まってくる人の数はさらに増えて、出されるご馳走を食い散らかし、酒を飲みまくり、まるでお祭りのような騒ぎです。
やがて夜も更けて、騒ぎ疲れた頃になっても、任官を伝える使者が訪れる気配がありません。さすがに、飲み食いに励んでいた人たちも様子のただならぬのを感じてか、「どうもおかしいな」などと、ささやき合い始めます。
外の様子などを耳を澄ませて窺っていますと、先払いの声などが聞こえてきて、上達部(カンダチメ・上級貴族)たちが次々と内裏から退出なさっています。
情報を掴む為に内裏近くに行かせていた下男の姿を見つけても、事の結果を訊ねることも出来ません。
( 中略 )
やがて、詰めかけていた大勢の人たちは、沈みきった雰囲気に堪えかねて、要領の良い人から順番に、一人去り、二人去り、家の中はさらに静かになっていきます。
しかし、永年の恩顧のある人や郎等たちは逃げ出すことも出来ず、「来年国守の交替があるのは、あそこと、あそこと・・」などと指を折っているのです。
「すまじきものは宮仕え」とか申すそうですが、なんとも、はい・・・。
( 「麗しの枕草子物語」 より )
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