糸を供える ・ 今昔物語 ( 1 - 33 )

　　　　　　　　　　糸を供える　・　今昔物語 ( 1 - 33 )

今は昔、
天竺に一人の貧しい女がいた。毎日家を出て、人に使役されるのを仕事としていた。
朝に出かけ、夕べに帰るのが日課となっていた。すると仏は、その側らにおいでになった。女は仏を見奉って、夕べに家に帰るたびごとに、糸を一本枝に懸けてお供えとした。

ある時仏は、この女に尋ねた。「そなたは何ゆえに、この糸を以って私を供養するのか。もし思い願うことがあるのなら、速やかに申しなさい」と。
女は答えて申し上げた。「願わくば、私はこの糸をもって、十方三世（ｼﾞｭｯﾎﾟｳｻﾝｾﾞ・・あらゆる方向の過去・現在・未来）の諸仏がお説きになる法文を、すべてやって来るようにして私の所でお受けし、それをみな読誦し奉って、その功徳を以って私はやがて仏と成り、一切の衆生を救済しようと思います」と。
仏はこれを聞いて褒め称えて、「善哉々々（ﾖｲｶﾅ　ﾖｲｶﾅ）」と仰せになって、授記（ｼﾞｭｷ・仏が修業者に対して未来世の成仏を予言保証すること）なされた。「そなたは、このように思い願って私を供養している功徳によって、未来世に仏になるであろう。名を善事如来と申すべし。願いのように一切の衆生を救済なさい」と説かれた。
女は、来るべき来世における仏の予言を聞いて、歓喜して家に帰った、
となむ語り伝へたるとや。

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