中国の人はエイズに「愛死」の字をあてた。歌劇の作曲家リヒャルト・ワーグナーの作品「トリスタンとイゾルデ」の悲恋物語に「愛死」と呼んだ人がいる。
そしてこの小説は、不倫の末エイズにかかった大学教授の美貌の妻彰子。それを取り巻く夫昌平、姪の遥子、血友病で治療用の血液製剤でエイズになった遥子の友人亮(りょう)など、重い病気を抱えた人たちの愛と死を見つめ心の襞を震わせる。
瀬戸内寂聴といえば、上品な官能的場面を期待するが、それはあまりない。ただ、著者の信条かとも思われる言葉を、彰子の不倫相手画家の大月伶(おおつき れい)に言わせている。
『性は快楽だと言い切る伶は「その快楽を求めるためには何をしてもいいと言いきった。愛してはならない相手なんて人間にはないんだ。してはならない性愛の行為なんてないんだ」
その伶を知ってはじめて自分の性の深淵を覗き見した。腹の底からほとばしってくる自分の声の通り、彰子は性愛のきわみで、幾度となく死に、性懲りもなく再生するのだった』
面白いことに、この本を図書館で借りたがアマゾンで検索したが出てこなかった。本作は、1993年11月4日~1994年9月5日まで読売新聞朝刊に連載されたもの。