都市と楽しみ

都市計画と経済学を京都で考えています。楽しみは食べ歩き、テニス、庭園、絵画作成・鑑賞、オーディオと自転車

ブラック・スワン ナシーム・ニコラス・タレブ:知的興奮があるエッセイは楽しい

2009-09-17 19:39:39 | マクロ経済

 ブラック・スワン(黒い白鳥)とは「異常」、「大きな衝撃」、「可能な事後予測」を特徴とするものでこの本では「市場の暴落」などをさす。<o:p></o:p>

 筆者は研究者でもあり、内容はエッセイ風で難解でふらふらしているが内容が濃くて楽しめる。結論なら、いっそ論文を読んだほうが速いかなと感じた。<o:p></o:p>

 オプション理論の根拠である「ベル型カーブ」への懐疑があり「壮大な知的詐欺(Great Interecllectual Fraud)」と呼んでいる(P16)。具体例で平均が支配する「月並みの国」、異常値が出てくる「果ての国」を比較している。ここで面白いのは、「集中」と「異常値」の発生だ。都市でも集中が見られる(スパイキーな都市:クリエイティブ都市論)、「勝者総取り」が見られる一方、個性のある市場・産業発生が見られる。つまり、ベル型カーブは尖がる方向と裾野が広がる方向に振れているとの解釈につながる。<o:p></o:p>

 さらに黒い白鳥について①見えないことにする、②講釈でごまかす、③いないかのように振舞う、④黒い白鳥の起こるオッズを歴史が隠す、⑤「トンネル」で素性のはっきりした情報に集中する(不確実性を無視する)とある。(P102)つまりは、黒い白鳥はいないという大量の情報で、黒い白鳥がいないという証明にする傾向があるとの指摘だ。(いない情報はいないという証明にはならない)<o:p></o:p>

 市場の短期評価における仕事、リスク評価の課題もある。(P128)インチキな短期の利益とその後ろに控える大きなリスク(P185)は的確な指摘だ、<o:p></o:p>

 面白いのは「運は準備を怠らないものに味方する」という「セレンディピティ」と探し続けろという真っ当な経済活動(濡れ手に粟ではない)を推奨している。その上で予測は間違うと指摘する。(下巻 P38)そして、バーベル戦略という超保守的と超積極的投資の併用の可能性を提示する。つまりは「集中」と「異常値」を認めるのが良いのであろう。そこでベル型カーブの修正として「ベキ数」モデルを提案しているがこれはどうなのか使い方がよく分からない。<o:p></o:p>

 結論として都市計画・都市経営の考え方にもあてはまる良い著作だ。結論として、世間動向の投資(不動産投資にしてもオフィス・大型・プレミアム立地の選好性があり投資と需要の循環が起こる)は、他の投資との利回り格差や値上がりを生むが、この集中が内在するリスクを顕在化させ、雪崩的な事態を招くということだ。日本の地価もバブル崩壊まで年率二桁の上昇であったが、はじけて以降は値下がりでなかなか持ち直さないし、20年ぶりのミニバブルも砕け散った。思うに、東京への集中も全総が繰り返し対応してきて解決しなかったが、そのうち限界になると感じる。吉阪隆正先生の「生命の綱の曼荼羅」を思いだす。<o:p></o:p>

コメント
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