話題の著作。筆者は博学で援助交際の研究や女性体験も豊富な方のようだ。「16歳だった」 中山美穂著の解説に援助交際三期説(92,96,01年)があり、これは秀逸であった。<o:p></o:p>
文章は会話調でトピックが次々に移って行く。章立ても「人間関係」、「教育」、「幸福」、「アメリカ」、「日本」を「どうなるのか」、「どうするのか」、「どういうことなのか」等幅が広すぎる嫌いがある。しかも、現状→背景→処方箋と完全解説とある。<o:p></o:p>
用語も「普遍主義の理論的不可能性と実践的不可避性」というテーマに加え「社会のそこが抜けた」とか「郊外化」は「団地化=専業主婦化」、「ニュータウン化=コンビニ化」、「創世譚」・「原罪譚」、「可謬」・「必謬」、「再帰性の主観的側面」、「ポピュリズム」、「プロセスプランニング」など、専門用語と独自概念の混在が見られる。<o:p></o:p>
このように多様な切口と統合を行うには、再構築が必要で論理のながれと構成を明解に示すのが不可欠だ。そのためには図示や概念の説明を用いるべきでまとまりの無い文章では困る。(博士論文はどうなのだろうか)<o:p></o:p>
理解できない論理の流れの一例を挙げる。教育で「本気」が「感染」(「この人のようになりたい」)を生むのに、「場」の適応に留まっているとの状況分析がある(P54) 大企業は「どんな仕事に向く人材」、「どんな人間関係もこなせる人材」をもとめているが昨今の学卒は3年以内に3分の1が退職する。(P236)とあり、その後、「叩き上げで獲得した専門性こそが人材価値をもたらす時代だ」と逆のこと(そつのなさか専門性か)となっている。その一方、日本のエリート(官僚)やチェ・ゲバラは「利他」で「本気」の「感染」により人動かし社会を変えるのに期待している。一体、処方箋はどこに行ったのか?<o:p></o:p>
ご本人によると「社会のデタラメさを自覚したうえで、現実にコミットメント(深い関わり)せよ」とあるが何のことか分からない。デタラメをきちんと分析し、どういうコミットメントのありようを提案すべきだろう。(もしも「利他的」な社会を作るのが目的なら、この本の文章表現は合わないだろう)<o:p></o:p>
空間経済学、金融工学などのトピックもあるが、流行の話題を採り上げたようで掘り下げが浅く親切ではない。大体、空間経済学も金融工学もそれだけで学問として成立しているものであり、軽く「知っている」くらいの書き方で「どうなるのか」、つまりは、この本の中の話題は、知っている人は読まなくても分かるし、知らない人は読んでも分からないという本だ。なぜ、メディアで好評なのかが良く分からない。<o:p></o:p>