リーマン・ショックを超える需要低下(アブソープションとは稼働(入居)床の増減)が2020年の大阪中心部(以下 大阪)で発生した。(M商事データで分析)
1.市場分析
大阪の昨年1年間アブソープションがネガティヴ(需要減)になっていた。▲5万坪、オフィス・ストック(貸室総面積)比(アブソープション率)▲2.3%、年末空室率3.44%(昨年比+1.62%)→新規供給は8千坪だが建替えに伴う取壊しを除くとオフィス・ストック(総貸室面積)の純減▲1.5万坪となりストック成長率は▲0.7%となり空室率上昇を抑えた(空室率増:1.62≒▲0.7(ストック成長率)―▲2.3(アブソープション率))。(注①参照)
注①
前年:v0(前年空室率)=(V0(空室面積)/S0(オフィス・ストック(総貸室面積))
本年:v1(本年空室率)=((V0-⊿A1(アブソープション面積)+⊿S1(ストック成長面積))/(S0(オフィス・ストック(総貸室面積)+⊿S1(ストック成長面積))
⊿S1がS0に対し十分小さい場合(数%程度)は: v1(本年空室率)≒v0(前年空室率)+⊿s1(ストック成長率)-⊿a1(アブソープション率)
よって、⊿v(本年空室率の増加)=v1―v0≒⊿s1(ストック成長率)-⊿a1(アブソープション率)
となる
なお、ストック成長面積は新規供給面積から取壊し・売止めのビルなど滅失率を差し引いたものに等しい、純供給面積にあたる
対して、東京中心部(以下 東京)のアブソープションは▲2.5万坪、アブソープション率▲0.3%、年末空室率4.49%(昨年比+2.94%)→新規供給26.1万坪 ( https://soken.xymax.co.jp/2020/01/08/2001-office_new_supply_2020/ なお、2003年問題と同等の大量供給) によりオフィス・ストック(貸室総面積)は20.8万坪、ストック成長率は2.7%の増加となっている(空室率増加:2.94≒2.7(ストック成長率)-▲0.3(アブソープション率))(注①参照)
2.今後の見通し
空室率の上昇要因は、大阪が「需要の減」、東京が「供給過多」と対比している。
リーマン・ショック 2008年の大阪でもアブソープションは ▲4.5万坪、▲2.3%のため、大型開発での移転準備を含んだとしても、コロナ禍での大阪は需要縮小の反応が速く、リーマン・ショックと同程度の需要減少とは驚いた。
なお、大阪では昨年の月別の分析でも5月以降のマイナス化がみられる。つまりはコロナ禍でテレワークや不況の本格化とリンクしている。
大阪において、当方の分析モデルであるSDPQサイクル( P12、13 https://drive.google.com/file/d/1QspMq0T5IWzPwa81OQ09xXyzyLywPqBY/view?usp=sharing )において、D(需要)の減少となり、空室の増加と賃料の低下が見込まれる。さらにS(供給)として2022年に5万1千坪、2024年に7万8千坪の大規模なSクラスビルの供給ピークが見込まれているため、今後のアブソープション(需要)が0のままとすれば9%近くまで上昇する。さらに需要のマイナスが継続すると2010年の空室率ピーク11.9%を超える可能性もある。
なお、JLLのプロパティ・クロックにおいても、大阪の賃料は1年間で上昇から低下に90度転換した( https://www.joneslanglasalle.co.jp/content/dam/jll-com/documents/pdf/japan/news/jll-property-clock-2020q3-pr.pdf )ご覧の通り、これほどの変動の都市はない。(東京も同程度低下に向かっている)
3.大阪での今後の戦略
大阪オフィス市場の激変の歴史は繰り返す。東京本社の危機管理として、大阪本店(副本社)の誘致を大阪市・大阪府一体となりすすめるべきだ。例えば、本社機能の一部移転やバック・オフィス(経理・総務などアウトソーシング分社 など)が考えられる。大阪のオフィス賃料は安く、住宅も潤沢で通勤電車の混雑も低く、通勤時間も短い。さらにアメニティとして緑や世界文化遺産も多い。コロナ禍の人口当たりの感染率なども東京に比して大阪は3分の2程度で推移している。
大阪市・府として「東京からのオフィス誘致」組織を官民で準備し、東京の大企業への提案営業を至急行うべきだ。我が国の国土安全と、関西振興に寄与できる。
当方も一助となりたい。企業の業種・部門の働き方提案による能率向上と財務効率の両面から、コンサルできると幸いだ。もちろん、大阪市・府やビル・オーナーとの協働が前提となる。経済再生が急務なのは言うまでもない。
大阪のオフィスを支えるべく東京を攻めるなら今だ