この記事は2年前のもので、当時、年中だったAくんは現在、小学1年生です。
無事、小学校受験に合格し、元気に学校に通っています。
今も耳で聞いたことを記憶に保つことや抽象語を理解する
ことに難しさはありますが、事前に理解しづらい言葉の意味を目で見たり、
手で操作したりして体感しておくことや
学びやすい環境を整えることで、今のところ学校の成績は好調のようです。
年中のAくんは、発達にゆっくりした面のある男の子です。
何か指示されると、言われたことを耳で保っておくことができず、
考える作業を抜きにして、「わかんない」と言うことがよくあります。
また、ことばの抽象的な理解が進まないことも、
Aくんの「わからない」と言い張る癖に拍車をかけています。
Aくんのお母さんは、小学校に入ってから授業についていけなくなるのではないか
と気にかけて、お家で簡単なワークなどに取り組ませているそうです。
でも、問題を読んであげると、「わからない」と返ってくるので、
「これは、こういう意味で、こうやって、こうやって」と手を変え品を変えて解説して
ようやく理解に至るというお話でした。
Aくんの語彙力やワーキングメモリーの問題を思うと、Aくんのお母さんが今から
少しずつワークなどに取り組ませていることはわたしも賛成でした。
が、Aくんのお母さんの解説の仕方は、
少し改善する必要を感じました。
というのも、Aくんが「わからない」といった時点で、「こういう風に解くのよ」「こういう風にするのよ」と
やり方を教え込む形で関わっているため、
Aくんの持っている
「ワーキングメモリーの弱さをどのように補ったらいいか?」
と「抽象的な言葉の理解力をどうやって高めるか?」という二つ問題が、
何の手立ても打たれないままになってしまうからです。
(最レベ1年生)
そこで、わたしは、Aくんが普段しているものより
少し難しいワークの問題を使って、どのようにAくんに教えたらいいのか
お母さんに学んでいただくことにしました。
「のりこさんは まえから 5ばんめです。」のところまで読んで、
「どういう意味かな?」とAくんにたずねました。
Aくんは開口一番、「わかんない」。
それまでお母さんは、「わかんない」と言われると、
「前からってことは、こっちが前でしょ。だから、前から5番目だから、
こっちから、1、2、3、4、5と指で押さえて、この子がのりこさんでしょう?」という具合に教えていたようです。
わたしは、こういう場合、最低限のヒント以外は与えません。
まず、もう一度、「のりこさんは まえから 5ばんめです。」と読んで
「まえからって、どういうことかな?」とたずねました。
「ここ」と前を指すAくん。
「それなら、のりこさんは まえから 5ばんめですっていうのは、どういう意味?」
すると、Aくんは、自分で前の子から、1,2,3と数えていって5番目の子を指しました。
「それは誰?」と聞くと、
「わからない」と答えます。
「わからない時はどうするの?さっき、読んだところに名前があったね」
と言うと、Aくんは、「の、り、こ……」とたどたどしく読み始め、わたしが読みを手伝ってあげると、
5番目を指して、「のりこさん」と答えました。
そこで、続きの「のりこさんの うしろは よしこさんです」を読んで、どういう意味かたずねると、
Aくんはのりこさんの後ろを指したまま、黙っていました。
「その子の名前は何というの?」とたずねると、「わからない」と言います。
「わからない時はどうするんだった?」「もう一度、読む」とAくん。
「そうよね。のりこさんの うしろは よしこさんです、って書いてある」
「わかった、よしこさん」とAくん。
Aくんと3並べゲームをしました。
相手は2歳になったばかりの妹さん。
ふたりはなかなかいい勝負でした。
Aくんは「たてかよこに3つ並べると勝ち」というルールはわかったものの、
2つ並んでいて、あとひとつそれに続けて玉を置けばいい場合も
どうすればいいのかわかりません。
偶然、勝った時は、3つ並んだから勝ったということはわかっていて、
並んだ玉を指さして、「やったー」とポーズを取るものの、
それなら、どこに玉を置けば3つ並ぶのか見当がつかなくて、
でたらめにあちこち置いていきます。
妹ちゃんも、「順番に置く」ことと「根気よくゲームの進行につきあうこと」はできているものの、
まだ幼いので、ルールがピンときていません。
Aくんは本気でがんばっているのですが、
「3つ並べる」という目的のために、自分がどんな行動を取ったらいいのか
イメージすることが難しいようでした。
おかげで何となく参加させられているBちゃんと
真剣そのもののAくんがちょうどいい試合を展開していました。
理解してゲームをしているとは言い難いAくんですが、
何度もそのゲームをやりたがっており、3つそろった場面では、
何が起こっているのか察しているようだったので、Aくんに
お家でも繰り返し取り組むとといいゲームだと思いました。
そこで簡単にゲーム盤作り。お家にあるおはじきで遊ぶそうです。
ゲーム後、Aくんが得意そうに、「ぼくは3回勝って、Bちゃん(妹)は1回だけ勝った」と繰り返すので、
「AくんとBちゃんは、どちらが何点勝ったの?」とたずねると、
「ぼくが勝った」とAくん。
「そう、Aくんが勝ったね。何点、Bちゃんより多く勝ったの?」と問いなおすと、
「ぼくで、3点」とAくん。
そこで、指で1と3を作り、
重ねて、「いっしょ」の部分と、「おおい」部分を目で確かめられるようにした上で、
「Aくんくんは、何点、Bちゃんより多く勝ったの?」と問うと、
何度も間違えた後で、
少し神妙な顔をして指の「おおい」部分を見つめながら、
「ぼくが2点勝った」と正しい答えを言いました。
教室では『トパーズ』という計算ゲームが人気なのですが、今は販売されていないようなので、
Aくんが持っているという『パレオン』というカードゲームを使って
トパーズ風に遊ぶことにしました。
場にでているカードと同じ色のカードを出していきます。
たてやよこにつながった★の数を自分の得点にします。
10点ごとにキャラクター人形と変えて遊びました。
遊んだ後で、
「自分の得点は何点でしょう?」と数える時間が重要です。
上の写真は、10、20。30……31、32、33と数えて、33です。
算数の学習に困難がある子の体感を増やすアイデアは、
虹色オンライン算数
http://nijiiroonline.moo.jp/senden/
で、たくさん紹介しています。
サンプルだけでも、小学校の準備は十分できますから、よかったらごらんください。