私は以前、児童館で月1回の工作教室をしていたことがあります。
対象は3歳以上でしたが、まだ1歳、2歳の弟さんや妹さんも
いっしょに教室についてきていました。
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下のお子さんはいっしょに工作をするわけではなく、
工作をしているそばで
児童館のおもちゃで遊んでいるだけです。
子供たちの工作の世話をしていると、
4歳半を過ぎた子は、自分の作りたいように作っていったり
私のこしらえるものを真似て作っています。
しかし3歳代の子だと、
他の子が作っている間は、うろうろしていて、
何か面白そうなものが出来たのを見ると寄ってきて、
私に「作って~!作って~!」せっつくのが専門です。
そんな時は、私は、作り方のポイントがわかりやすいように、
ゆっくり作ってあげていました。
こんな時に、「自分で作りなさい」と突っぱねる方もいますが、
私はまだこの段階なら見せるだけでも十分だと思っています。
「作って~!作って~!」が多く、
私がたくさん作ってあげた子ほど、4歳を過ぎる頃には
熱心に上手に作品を作り始めることを
それまでの経験からも良く知っているからです。
手作りの作品は、手にして
遊ぶだけでもその構造や作り方が伝わってくるものです。
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それに人には、他者のふるまいを見たとき
自分の頭の中でも同じふるまいをしているように感じる
ミラーニューロンという脳細胞があるらしいのです。
赤ちゃんはこの脳細胞を使って、親の真似をすぐしはじめますよね。
そうして、作って~作って~の子らが、1年ほどして、
それまで作ってもらっていたものを自由に作り出したとき、
びっくりすることがありました。
それまで、お客さんだった1~2歳児が2歳、3歳になった時、
今度は「作って~」の時期はなしに、
はさみを上手に扱って、丁寧に絵を描きだしたのです。
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それまで、一度も工作をさせようと働きかけたことが
なかったにもかかわらず、兄や姉のように
それまで工作教室で見てきたさまざまなアイデアを駆使して
物を作り始めたのです。
それからも私は、これは文字でも同じことが起こるのではないか…?と
字を喜んで書く子と、
なかなか字を覚えない子の環境の違いを
観察するようになりました。
すると早くから字を書き始めたり、書くことに熱心な子は、
小さな兄や姉が書いたり描いたりするのを観察する機会が多く、
しかし自分に対して(準備が整う前に)
書く事を強要されていない子が多いことに気づきました。
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また、お母さんが絵を描いたり、手紙を書いたり
しょっちゅうするのを見ている子も
書くことに熱心です。
えんぴつを持つ前に、
敏感期の活動…穴にコインを入れたり、コップを重ねたり、水を移し変えたり
などすることに集中していたこも
字を書くことを好みます。
ただ、それには個人差があるのも事実です。
頭の回転が速い子の中に、
「字を書く」といった根気のいる手作業を好まない子もいるのです。
(0~3歳の頃、あまり敏感期の作業に熱中しないという特徴があります。)
そんな時、無理に字を書くことを強制していると、
せっかく頭の良い子が、勉強嫌いになってしまいます。
良い面を伸ばし、苦手なことはゆっくり育てていくことが大切です。
頭の良い子の場合、学校に上がっても字が書けない…という心配は無用です。
そんな風に字を書くことに熱心かどうかには
個人差の部分も大きいようです。
しかし、たいていは、「子どもに字を教えてもなかなか書こうとしません」という
相談を受けて、
「お家でお父さんやお母さんが字を書いて何かしているところを
たっぷり見れる環境でしょうか?」
とたずねると、
「いいえ、ぜんぜん…」という答えをいただくことが多いです。
おそらく、子どもの頭の中に「えんぴつを持って書く」という
イメージがたまっていないのだと思います。
0歳児でも、小さい兄や姉がいつもえんぴつで何かしているのを
見ている子は、えんぴつに向かってハイハイで直進していきますから…。
こうしたイメージなしに、子どもにえんぴつを与えることは、
大人が、いきなり目の前に使い方のわからない機械を
押し付けられるのと同じくらい、難しいことなのだと思います。
これは読書にも言えて、
絵本をたっぷり読んであげても、
大人が読書しないお家の子は、
絵本から児童書へ、児童書から大人の本へ、と移行する時に
まったく本を読まなくなってしまう子もいるようです。
子どもは見ることでも、直接体験のようにリアルに感じ取れる
心の仕組みを与えられていますから、
身近な大人の姿が、将来の子どもの姿となってくるんですね
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