ピアノのレッスンについて悩んでいます。
という次のようなコメントをいただきました。
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これまでもずっとブログ拝見し、これほどまでに深い洞察をされているなおみ先生に出会えたことを大変幸せに思い、いつももやもやと考えているけれど言葉にして誰かに相談することも難しいような内容を、このようにわかりやすく伺えること、大変幸せに思っております。育児のよりどころです。ありがとうございます。
この半年間ずっと悩んでいることがあり、今回の記事でやはりどうしたものかわからなくなってしまったので、お忙しいかとは思いますがもしご意見いただけるとありがたく思います。
私には今年4月から小学生になる息子がおります。年中より大手のヤ○ハ音楽教室で学んでおり途中から個人のピアノレッスンも勧められ週2回通っております。
私も主人も子供時代はピアノ大嫌いの挫折組でしたので、子供にピアノを無理強いするつもりは全くなかったのですが、私たちが大人になってピアノの良さを再認識し、主人も楽しんで弾くようになり、それを見て育った息子はピアノを楽しいおもちゃと思っているようでした。ピアノを習いたいというので年中よりグループの楽しそうなレッスンに入れてみて、とりあえず嫌いにだけならなければいいなと無理強いは全くせずほめる一方でいるうち、自ら前奏をつけたり移調したりするようになり、先生やお友達にもほめられて、自分ではピアノが得意だしもっと上手になりたいと思っているようです。
来年からこのままのんびりとした今のクラスのまま続けるという方法もあるのですが、先生からは、専門クラスを勧められて迷っています。今のクラスで物足りないというよく弾ける子を集めたコースで、普通クラスの約2倍の速度で進み、内容も深く作曲もたくさん取り入れられます。コンクールに出ることもあるそうで、周りも上手な子が多くこれまでのように余裕はなくなります。グループには競争意識の強い保護者の方も多いのではないかと思います。あと練習を毎日2時間(!)確保する覚悟がいるそうです。これが3年生まで続きます。親の私からみるととても足がすくむのですが、子供は今のレッスン進度ではやはり遅すぎると感じているようで時間をもてあましています。
いっそ個人だけにしてマイペースでとも思うのですが、お友達と披露し合えたり普通のピアノを弾くだけではなくアンサンブルをしたりするのが刺激となっている面もあるので迷います。
実は私自身がいつのまにか、先生のおっしゃる
「周囲に認めてもらいたい、褒めてもらいたい、感謝されたい、自分が一番でいたいという思いをがんばらないと親に見捨てられる子みたいに病的に求める人」
になっていたと思います。
私は中学くらいから常に親から一番を求められていたような感じで、大学で一人暮らしを始めたころまさに燃え尽き症候群の鬱のようになり自殺したいと考えて長い間苦しみました。加藤諦三さんの本も読み涙が止まりませんでした。
そんな私が今そうだけはなってほしくないと思いつつ育児をしています。そして今回の悩みです。
このクラスに入れることは私が競争を煽っているのか、私が競争を嫌だという理由で入れないことは子供の芽をつぶすことになるのか・・・。わからないのです。
せっかく好きになっているピアノを、練習が追いかけてくるような生活で嫌いにしてしまうのも心配です。
今の幼稚園は勉強らしいこと一切なしのほとんど自由な時間の最高にのびのびした園で、小学校低学年時代もできるだけ自由に遊んで興味の赴くまま過ごしてほしいという気持ちも強いです。
先生の息子さんはピアノを習わずして先生よりもお上手だと伺いとても考えさせられます。
先生のお考え少しでも伺えるとうれしく思います。
長くなり大変申し訳ありませんでした。
もしご迷惑でしたら、反映させていただかなくても結構ですので、簡単にご意見いただけたら本当にありがたく存じます。
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コメントありがとうございます。いつもブログを読んでくださってうれしく感じます。
今後のレッスンで、どのコースを選択するかという問題の前に、
「本当に大きな成功を収めた音楽家」と呼べる人が、
どのように音楽と関わっているかについて、
知ることが大事なのではないかと思いました。
ミハイ・チクセミントミハイは現存する創造的な人間を系統的に研究しました。芸術、ビジネス、法律、行政、医学、科学(ノーベル賞を受賞した科学者など)といった専門分野で顕著な影響を与えた人々です。
こうした成功をおさめた人々には、共通する特徴があります。
真に創造的な人間は、仕事が好きだから仕事をします。世間の注目を浴びるような発見をしたり有名になったりするのは、
ボーナスのようなもので、目的ではありません。
音楽にしても、科学にしても、
創造的な人は、純然たる楽しみや知的満足感のために行うのであって、
何らかの外的報酬を目的にするものではありません。
何もかも忘れて、没頭できるからするのです。
話を、ご質問のピアノのレッスンの話に戻します。
子どもさんの年齢、レッスンに必要とされる2時間という時間を思うと、
とても難しい問題だと感じました。
だからといってゆっくりすぎる進み方を不満に感じている息子さんの気持ちを
無視してよいわけでもないので、
親の勘がとても大事になってくる選択ではないでしょうか?
一番良いのは、子どもの能力に適した進み方をしてくれる
音楽を愛している能力の高い個人レッスンの先生を探したり、
ゆっくりのレッスンをさせながらも、音楽会に連れて行ったり、
音楽家たちと交流できる機会を設けて子どもの世界を広げることではないかとも思いました。
もし専門クラスに進むのであれば、
いくつかのリスクを考えていつでも方向転換できるようにしておくのが良いのではないでしょうか。
まず、小学1~3年生の間に毎日2時間ピアノレッスンをさせてピアノに集中させることで考えられるリスクは、
★友だちと遊ぶ時間が減って人間関係的知能が十分育めないために、成長したとき挫折しやすい可能性があること。
★おそらくピアノ以外の面でも高い能力がある可能性が高い子ですが、
まだ思考力も十分発達していない時期に、
ほとんどの時間をピアノレッスンに使うことになってしまう。
★音楽の中でも、技術ではなく、作曲や他の面で才能があるのかもしれないのに、子どもの才能に枠を作ってしまう
★楽しいと思ってがんばっていたことを、続けるしんどさにぶつかって、
チャレンジに消極的な性格になる
★褒められることや周囲の反応が、目的になってしまう
といったことではないでしょうか?
子どもが何かを「やりたい!」と言い出してチャレンジするとき、
私は、その体験で無理することや挫折することが、
後の消極的な態度につながらないように、
とても注意していました。
大人だって、たとえば、それまで本格的にボランティアにうち込んでいるわけでないのに、
「ボランティアをして誰かの役に立ちたい」って思った矢先に、
「それならこれをしなさい」と、いきなり毎日2時間も何かさせられて、
やりたいことも我慢する日々が何年も続き、
とうとう途中で挫折してしまったとしたら、
その後、気楽に楽しく「さあ、またボランティアしてみよう!」とは思えないですよね。
徐々に、楽しいと思う気持ちや、役立っているという充実感、
その中で自分を高められることに気づいて、
いつのまにか毎日2時間するようになっていた……
という人とはずいぶん異なるのではないでしょうか。
子どもはたくさんの可能性と、
その時期その時期、内面から発達してくる新しいやりたいこと(抽象的な思考に夢中になる時期などもきます)
新しい出会いによる感動(落語に夢中になる子なんかもいますね)を
体験していきます。
その子の才能を見出して伸ばすことは大事ですが、
いつもたくさんの自由を与えて、
子どもが本当に自分が夢中になれるものとの出会いをせばめないように
しなくてはならないと感じています。
もしイチロー選手が、野球を始める前にピアノにも才能をしるしたからといって、ピアノのレッスンと野球を掛け持ちさせたのでは、
将来どのようになっていたのかわからないですよね。
損か得かで判断せず、
近視眼的にならず、
常に親の勘を大事にして、選択していくのが良いのではないでしょうか?
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