虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

個性と才能を伸ばすタイミング 3

2012-03-27 09:47:37 | 子どもの個性と学習タイプ

算数の学習では、「じゃんけんをする」

「勝ったらマスに色を塗る」

「折り紙の16マスを塗り終えたら、それぞれの色の数を

数えて勝ち負けを確かめる」という3つの作業をきちんとこなすことが要求されている活動を

心から楽しんでいました。

こうした学習も、カリキュラムだから……とさせるのではなくて、

その子の敏感期によるタイミングと好みの個性に配慮した上で誘うのがいいと思います。

図鑑の話に戻りますね。

★くんは自分の頭のなかのイメージだけで繰り返し

同じことがしたいタイプです。

ですから、まずは自分でしたい活動を存分にやって、

ちょっと手持ちぶたさしたあたりで、それまでしていた活動に広がりや意味を持たせてくれる

ような図鑑を見せてあげるといいのかもしれません。

 

★くんといっしょに見たのは『はっけんずかん のりもの』と『大図解 21世紀こども百科』でした。

『はっけんずかん のりもの』は乗り物の内部の様子を、ポップアップ絵本のように

めくることで見ることができます。

 

工作で乗り物内部を作りたがる子に適しています。

★くんは駅の様子を作りたがっていたので、図鑑の駅の絵を、

「作ったら面白そうなものはないかな?」「いいアイデアはないかな?」

と言いながら、眺めました。

 

次回に続きます。


個性と才能を伸ばすタイミング 2

2012-03-27 07:59:50 | 子どもの個性と学習タイプ

個性と才能を伸ばすタイミング 1

の続きです。

★くんは自分で考えて行動に移すことが好きな

子です。几帳面で完璧主義の性質ため、

一度やりはじめたことは、細部に至るまで自分のイメージ通りになるように

根気よくていねいに関わります。

 

そのように自発的に活動することができる長所の反面、

他人の意見に耳を傾けず、自己流のやり方にこだわるため

遊びも学びもワンパターンに陥りやすいきらいもあります。

 

わたしは★くんの個性に配慮して、

自分で新しい知識やアイデアを開拓していけるような

本や図鑑との関わり方を身に付けさせたいと思いました。

 

子どもに何かを教えるには、「タイミング」というのが

重要だと感じています。

幼児というのは、いつも一生に通じるような技能を習得するための

敏感期にいるものですから。

今、その子が何の敏感期であるのか、

よく把握した上で、適切なタイミングで教えるのでなければ、

何も教えない方がまし……だと感じています。

子どもは放っておいても自分で学びますし、子どもの自発的な行動は

敏感期によるものがほとんどだからです。

この日、★くんの2歳1ヶ月の妹さんも教室に来ていたのですが、

この子はちょうど数の敏感期に入りかけているところらしくて、

ひたすら椅子を並べたり、重ねたり、数を1対1対応させることに

熱中していました。

★くんは、がんばればできそうなレベルの

「ふたつ」のことに同時に注意を向けながら、

完璧にできているかどうか確かめられて

達成感が味わえる活動に

対して非常に敏感な時期にあるようでした。

文字でしたら、「はみださないでなぞること」と「書き順通りにすること」の

ふたつに注意して作業をすることに

面白さを感じる時期ということです。

こうした敏感期のあらわれは、子どものありのままの姿を認めて

自然な成長を大切にすればするほど、はっきりと出てくるものだと実感しています。

「2歳の子に字の書き方を教えよう」「書き順にも注意させよう」といった

敏感期を無視した大人主導の教え方をしていると、

敏感期と思われるものがほとんどなく、何事にも自信がないか、

攻撃的なほどのがんばり方をするかのどちらかで、最終的に無気力になるか

過剰に他人の評価にこだわる性質になりがちだと思います。

(図鑑との関わりの教え方については次回に)

 

次回に続きます。


個性と才能を伸ばすタイミング 1

2012-03-26 16:03:00 | 子どもの個性と学習タイプ

ブロックあそびが大好きな4歳8ヶ月の★くん。

お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんに目に入れてもいたくないほどの

可愛がられようで大切に育てられてきたこともあって、

ちょっと動くたびにシャワーのようにたくさんの言葉を浴びて過ごしていました。

そうした言葉かけに素直に従う一方で、創作物や遊び方からは

思考力の高さがうかがえるのに、自分から発する言葉がすくないことが

気になっていました。

そこで、極力、大人から発する言葉を減らしていただいて、

★くんの発するものをしっかり受信するように努めていただいていました。

 

今回のレッスンでいっしょに遊ぶうちに、★くんの口にする言葉も

アイデアの質も他人の意見を取り入れる柔軟性も問題解決能力も

前回までのレッスンでは考えられないほどしっかりしたものになってきていることに

気づきました。

それを付き添いで来られていた伝えると、★くんのお父さんも

それを実感していたそうで、

たくさん声をかけ過ぎるのをやめただけで、こんなにも

しっかりと自分の意見を言い、考えを展開していくようになるのかと

驚いていたそうなのです。

もちろん、それには、★くんの頭脳活動を好み、

細部にまで気を配るという本人の才能によるところもあります。

でも、そうした個性的なものが芽をだしはじめるのは、

大人が子どもを自分の好きなように動かすのを控えた時でもあるのです。

★くんは電車の駅作りに励んでいました。

電車の長さに合わせて、ていねいに駅を作りながら、

自分の作った駅がどのようなサイクルで運営されているのか

説明してくれます。

自分の考えをしっかり表現する力がついてきた★くんですから、

今、身近な大人が★くんにどんな見本を見せてあげると、

★くんの世界が広がるのかというと、次の2点だと思いました。

 

①図鑑や本の知識を自分の活動に取り入れるためのお手本をしめす。

●自分のしている活動をより広く多角的な視点から見えるように

●問題解決の方法を身につける

 

②★くんの今の敏感期に気づいて、それに適した活動が

行いやすいようにサポートする。

 

★くんが、駅を作っていたので、

自分の作品作りに新しいアイデアを取り入れるために図鑑を見る時の

コツを教えることにしました。

 

まず、どんな図鑑を見るかです。

大図解のように機械などの内部の仕組みがくわしい図鑑、

駅のなかのさまざまなものが載っている図鑑など、

いろいろなものがありますね。

子どもと大きな本屋や図書館で選ぶのも楽しいです。

 

★くんは、駅のイラストの階段を目にしたとたん、

自分の作っている駅を地下にする設定が浮かんだようで、

テーブルの上に切符売り場や改札口があって、

そこから階段を下りてきて、地下が駅になっていて、地下にもさらに下に行くための階段

があるんだ、と説明しました。

そしてユニークな構造の作品を作りだしました。

 

次回に続きます。

 


しっかり泣けるように わがままが言えるように  (2歳7カ月の子のレッスン から) 2

2012-03-23 11:53:08 | 0~2歳児のレッスン ベビーの発達

前回の記事の続きです。

 

★くんは教室の警察の車が気に入りました。

大好きなゴミ収集車ということにして遊んでいます。

「ゴミ袋を作ろうか?」とたずねると、大喜びで乗ってきました。

★くんはサイズに敏感な子で、

空気入れで風船を膨らませているわたしを真剣な表情でチェックしています。

「それは、(ゴミ収集車に)入るよ。それは大きいから、入らないよ。それは青より大きい。青いのより小さいのにして」という具合に。

 

水風船にビーズを数個入れてから、水風船用の空気入れで膨らまします。(大きな100円ショップで売っています)

しばると小さなゴミの入った袋のできあがり。

振ると、手に振動があって面白いです。

★くんはこしらえたゴミ袋をゴミ収集車で回収してまわります。

 

乗り物のおもちゃが好きな子は

ひとりで遊ばせているとなかなか遊びが広がらない場合があります。

乗り物遊びを中心に、ブロックの街作りや、工作でガソリンスタンドや洗車場を作ること、

ストーリーのあるごっこ遊びを展開するなど

身近な人が遊びの世界を広げてあげるといいですね。

 

★くんはとても素直な聞き分けのいい子で、お母さんやお父さんに逆らったことは

ほとんどありませんでした。

★くんのおばあちゃんにだけは、怒って叩くことがあるという話でした。

★くんのおばあちゃんがいらした時に★くんと遊ぶ姿を見せていただいたところ、

いつもは無表情なことの多い★くんが、自然な喜怒哀楽を表現しながら甘えていました。

おばあちゃんには、「イヤ」という本音が出せているようなのです。

★くんのお母さんは温和な優しい方で、

どうして★くんはお母さんの前でちょっと緊張した良い子良い子した

態度を崩せないのかと気になっていました。

どうも出産でお母さんがもうすぐいなくなってしまうかもしれない

という状況が、不安だったのかもしれません。

今回、赤ちゃんといっしょに教室に来た★くんは

緊張して身体をこわばらせる癖が減って、かわいらしい笑顔をたくさん浮かべていました。

自己主張もたくさん出てきて、

わたしに「こうしてよ」「ああしてよ」とたくさん注文を出してきます。

通りがかりにわたしの肩に体重を預けてもたれかかってくるので、

抱き上げて、「高いところのおもちゃ、見て、どれがいい?」と

棚の上をのぞかせると、ちょっと身体をのけぞってみたものの、

やっぱり甘えてうれしそうな顔をしました。

そういえば、★くんは、2人目の赤ちゃんに遠慮して

お母さんに甘えて抱きついていくことができない様子です。

いつも抱っこされておっぱいをもらっている妹がお母さんを独占しているので、

遠巻きにお母さんを眺めています。

妹さんの世話が一段落着いた時には、お母さんの方から

積極的に★くんを抱きあげて甘えさせてあげるようにと伝えました。

 

次回に続きます。

 

 


自閉症の子がそれまでできなかったことが急にできるようになる境目? 5

2012-03-23 08:15:30 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

前回の記事に次のような質問をいただきました。

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はじめてコメントさせていただいています。広汎性の五歳の男児です。最近朝から晩まで、延々と「頭の中でお話作って!」と言ってきます。まず題名や登場人物を指定して、話し始めると「今度は~が~する」と自分の頭の中にある断片的な場面を脈略もなくどんどんいれたがり、私がなんとかお話としてつないでいこうとすると「ち~が~う~」と怒ったりします。
今までにない遊びで、内からでてくる想像力を私と分かち合いたいという意欲が感じ
られるので何らかの境目のような気もして
連続の思考や、秩序立てて考える初歩的練習の方向へなんとかもっていけないものかと思うのですが…
もしアドバイスいただけたらほんとうにありがたいです。お忙しいと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

確かにとても大切な境目の時期なのだと思います。

虹色教室の子もこうした「お話作って~!」という要求を出す子は、

サリーとアンの課題のような相手の心を推測する必要がある物語を

何パターンもしつこいほど聞きたがったり、

論理的な出来事の展開について考えさせる問題を人形劇をしながら

出題すると、

それは喜んで解くようになっていきました。

でも同じころに、親御さんがお話作りをしようとすると妨害したり、急に興味をそらしたり

していたので、話の内容や話し方も大切だと思います。

そうした子たちは今、小学生になっています。

そのうちのひとりの今、2年生の男の子は、

後から最初にかかっていた病院とは別の医院で診てもらったところ、

「なぜ、病院に来たのですか?」と不思議がられたほど、知能の伸びもよく、

凸凹が少なくなっていました。

こうした時期の働きかけや遊びに関しては

『自閉症のDIR治療プログラム』(S・グリーンスパン S・ウィーダー著  広瀬宏之訳 創元社)という本が

役に立つと思います。

想像力と論理的な考えを伸ばす働きかけについては

教室でもさまざまな活動を行っていますので、

近いうちにその方法についてまとめるようにしますね。

(今の状態でお話を作ってその世界に浸るだけだと

ファンタジーの世界にこもってそれにこだわるようになったら困るので、

せっかくお母さんに、自分から「お話を作って」と言ってきているこの機会を

大事にした方がいいと思います)

 


4歳の 女の子の工作 と 算数の問題

2012-03-23 07:06:28 | 工作 ワークショップ

ペロ嫁の工作de知育な日記

のペロ子ちゃんが教室に来てくれました。

工作とゲームを存分に楽しみました。

ペロ子ちゃん、2ヶ月ほど会わない間に、論理的に筋道を立てて考えることが

とても上手になっていました。

 

工作では、「カーテンが開けたり閉めたりできるお家が作りたい」と言って、

開け閉めするためにはどのように作ればいいのか考えてくれました。

お弁当のバランを使っています。カーテンの後ろに豆電球を取りつけて

お部屋が光るようになっています。

 

『リカちゃんのお買いものゲーム』をしながら

?のマスに止まるたびに、

算数の問題を出していたのですが、

かなり複雑なものもしっかり解けるようになっていたのには

びっくりしました。

 

7人のお人形を並べて、

「前から二番目のお人形と、後ろから3番目のお人形の間には

何人のお人形がいるでしょう?」

という問題です。

 

実際にお人形を7体並べて問うと、指で前から2番目と後ろから3番目を指して

その間にある人形を数えてみて、「ふたり!」と答えていました。

ペロ子ちゃんは好奇心旺盛で次々と

新しいアイデアがひらめく頭の回転が速い子です。

興味の移り変わりの速いこうしたタイプの子には、工作のように

手作業を通して、ゆっくりじっくり取り組む楽しさに気づかせていく遊びが

大事だなと感じます。

 

そうしてひとつのことにじっくり関わっていく活動をしていると、

「前から2番目の人形と後ろから3番目の人形を特定する」

「その人形にはさまれている人形の数を数える」

という二段階の作業が必要な問題でも考えていけるような

考える力の持続力がついてきます。

 


自閉症の子がそれまでできなかったことが急にできるようになる境目? 4

2012-03-22 19:02:20 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

先の記事に次のようなことを書きました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

わたしの体験からすると、

自閉症の子たちは、外から見える以上に怖がりで、

「この人は怖くない人だ」と身体で感じることが、その子の内面の大きな変化につながる

カギを握っています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

わたしがどうしてそんな風に感じるのかというと、

これまで遊んだ自閉傾向のある子たちはどの子も

わたしがその子を怖がらせないように少し配慮するだけで、

「こんなささいなことが、この子にはこんなにも重要なの?」と驚くほど、

その後からわたしに対して友好的な態度を取り始めるこのを何度も

体験したことがあるのです。

何度も「怖がらせない」ことに気をつけていると、

強くこちらに惹きつけられるようになり、

心と心がしっかり共鳴しあったという体験をした後は、

わたしが提示することを真似よう、こちらの意図するものを

読みとろうとする姿もあらわれてくるのです。

その後、数ヶ月の間にコミュニケーション能力が劇的に変化していった子も

たくさんいます。

 

どのような配慮をして、怖がらせないようにしているのか、

具体的なシーンを取りあげて紹介していきますね。

(鎌倉で……)知力、能力、意欲を引き出すってどうするの? 4

(鎌倉で……)知力、能力、意欲を引き出すってどうするの?  5

 

という記事で、トムくんとわたしの水遊びの様子を書いています。

こうした遊びのシーンで、わたしは瞬間、瞬間で、トムくんの注意力や意欲に合わせて

誘う態度やこちらの言動を決めています。

たいていの場合、親御さんにするとわたしの態度は物足りないものかも

しれません。

その子自身が何もしようとしない時、

わたしは子どもの興味をひきたてるような楽しい雰囲気を作るわけでもなく、

子どもに近づいて働きかけるわけでもなく、何かすばらしいことをやってのけるわけでも

ありませんから。

こうした場面で、わたしは少しずつその子の嫌なものを環境から

取り除いてあげます。興味を引きそうなものをそっと近くに置くこともあるし、

本人にできそうな面白い活動を見せることもあります。

でもあくまでも本人の活動のリズムに侵入していくほど

いきいきと動くことはありません。

 

わたしの活発で活動的な姿に引き込もうとすれば、

それはそれで従う場合もあるでしょうし、

楽しんでいるように見えることもあるでしょうが、

おそらく内面では「逃れたい」「不安で怖い」という気持ちが高まっているにも関わらず、

そうした緊張感に操られていっしょに活動しているのでしょうから。

 

そのようにわたしが何かすることよりも

どんな小さな動きでも、本人が自分から動いたことに関しては

ひとつも見逃さないほどていねいに

対応するようにしています。

 

時間を有効活用しようと思わないこと。

 

時間の無駄を気にせず、ゆったりその場で

リラックスして過ごすこと。

 

「わたし」の発信することの重要性を下げて、

「相手」の発信することの重要性を上げること。

 

そうしたことに気をつけて過ごしていれば、

何も発信していないように見える子も、

さまざまなことに好奇心をくすぐられているし、意欲の芽生えが

見えることがわかってきます。

 

ただそうした好奇心や意欲は、最初のうちは、身近な大人が、「~してみる?」と

強い期待を込めて何か提示すれば、

たちまち「怖い」「逃げたい」「不安」に転じてしまうような弱弱しいもののはずです。

ひとこと言葉を発するのにも気を使って、

そっと、こちらがまるで自然の一部や物であるほど

相手を脅かさない動きで、その子のなかで動き出している

好奇心や意欲を受け止めてあげる必要があります。

 

といってもビクビクと不自然に気を使って相手をするのではなく、

一方では、いたずらっぽく楽しく

新しい冒険をしかけてみるのも大事です。

 

この水遊びの日も、わたしのこんなことをさせよう、あんなことをしてあげよう、という意図が

見えないくらい自然に過ごすようにしていました。

しまいには、家族のみなが別の場所に移動し、わたしとトムくんだけが

ベランダに残された時などは、

お互いに何もせず、何の言葉も発しないまま

ずいぶん長い時間を過ごしていました。

そうした静けさのなかで、トムくんはそれまではしようとしなかった

(ちょっと前に見せた)魚釣りのまねごとをしはじめて、

わたしの「トイレはどこ?教えてください」という依頼に対して

決心したように立ちあがって、わたしの手を引いてトイレの前まで歩いていったのです。

 

この時期、トムくんは他人に瞬間的に注意を向けていることも難しい状態でしたし、

人を人として認識しているかすら怪しいような印象がありました。

その日、わたしは妹のジェリーちゃんをモデルとして使って

「トイレはどこ?教えてください」とたずねて連れて行ってもらう姿を

何度も見せていたとはいえ、ちらりともそちらに視線を向けない上、

その言葉の表している意図を理解できるとは

わたしはもちろん、家族の方も誰も思ってはいませんでした。

 

でも、トムくんがわたしの手を引いてトイレの前まで連れて行ってくれた時までに、

わたしとトムくんの間には何度も何度も、

わたし側からは、トムくんが怖がらないようにという細かい対応をしていて、

トムくんはそのたびに、「あれっ?」というささやかな驚きの反応と

信頼感を表すようなかすかな変化が見られたのです。

こうした心の内面と内面の約束事を交わすような気持ちの交換を繰り返したおかげか、

その数ヶ月後にトムくんに会いにいった時には、

次のような変化があったのです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

4ヶ月前には、トムくんの目には他人が透明人間のように映っているかのようでした。
トムくんのまなざしが私を見ていることを感じたのは、ブランコに乗っていて、足先を私にぶつけようとして、
ゆらゆらしている瞬間くらいだったのです。

それが今回は、
人への興味が強くなっていて、
関わりたい! いっしょに遊びたい! 甘えたい! 自分の要求をかなえて欲しいという気持ちが全身からあふれるように見えることがたびたびありました。


一番驚いたのは、
トムくんが、ひとりで廊下に設置してあるブランコをこいでいたときに、
何メートルか離れた位置にいる私を目にとめて、
「な~お~み~せんせ~い、いっしょに遊ぼ~!」と大きな声で
呼んだときです。
この「な~お~み~せんせ~い、いっしょに遊ぼ~!」は、妹ちゃんが
私の滞在中、四六時中連呼していた言葉なので、口真似と言えばそれまでなのですが、
私が近づいてくるのをワクワクしながら待っている表情をしていて、
実際、自分が呼んだ言葉が通じて
私が来たことを確認すると、
トムくんは、ブランコから落ちんばかりの喜びようで、私の手足にじゃれて遊びだしました。
その姿を見て、
yoshikoさんも、トムくんがただのオウム返しではなく
自分の内面の要求を言葉にしはじめていて、
それが通じた喜びを体中で感じ取っていることを実感していらっしゃいました

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こうしたことを書くと「この人は怖くない」と感じる態度ってどんなもの?

と不思議に感じるかもしれません。

失礼にあたるかもしれないのですが、わたしの目から見ると、

一部の方を除いてどの親御さんも、それこそ腫れものに触るように接している方もそうした態度のせいでいっそう

こうした過敏な子どもを怖がらせているように見えます。

習い事の先生や学校の先生方も

外から見て正しく仕事をしているように見えなくてはならない

ゆえに、怖がらすことも多いと思います。


自閉症の子がそれまでできなかったことが急にできるようになる境目? 3

2012-03-22 15:27:05 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

自閉症とか広汎性発達障がいと診断される子たちは、

モデルとなる人に働きかけることが少ないためでしょうか、

ひとつひとつ意味でつながっていないバラバラの行為に

興じたまま、なかなか発展しない場合があります。

 

 

たとえば、以前、記事で紹介した広汎性発達障がいの男の子は、

「数の大小はわかる」

「サイコロを振って出た目はわかる」

「数の大小で勝ち負けが決まることはわかる」

という状態にも関わらず、

「自分は1~6までの数が書いてある普通のサイコロを振っていて、

わたしは1しか出ないサイコロを振っているので、

何度、サイコロを振り合って勝負しても、その子が勝つ結果に終わる」

理由に気づけませんでした。

 

それで、いつも勝つか、同点なので、

すっかり有頂天でした。

 

このゲームの後で、この子のわたしへの信頼感は

急激に増しました。

 

確かにそうでしょう。

バラバラな知識がバラバラなままで

つながりあっていないとすると、

もし普通に勝負して、

自分が負けるようなことがあれば、突然、理由もなく「負け」を宣告されて、

自分が不利な立場に追い込まれて、ひどい目にあっていると

感じることでしょう。

相手に対して、突然、自分に嫌なことをしてくる悪い人という印象を持つかもしれません。

 

「サイコロを振り合っていると、自分が勝つこともあれば、相手も勝つことがある」

という事実と、

「勝負の結果、負けたのであって、自分の感じている不快感は、相手の

悪意や良し悪しと関係ない」ということが、

つながっていなければ、

突如、相手がひどい人物になり、自分を迫害してくるといった感じ方をしても

仕方がないのです。

 

この子とのサイコロ勝負で、わたしは常に1しか出ないサイコロを使っていました。

もともとサイコロではなく、6つの面のどこにもひとつ穴が空いている積み木を

サイコロ代わりに使っていたからですが、

こんなささいな出来事が、

この子とわたしとの距離を急速に縮めるきっかけとなりました。

 

広汎性発達障がいの子たちは、このように、

世の中にあるルールや世界のあり様にも

圧倒され、不安を覚えているように感じます。

 

 


自閉症の子がそれまでできなかったことが急にできるようになる境目? 2

2012-03-22 09:51:47 | 初めてお越しの方

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会話をするのも困難な自閉症の子でも、

接しているこちら側の言動を調整していくことで、

この「モデルに引き寄せられる」という状態が生じやすくなることを

実感しています。

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と書いた内容について、もう少しくわしく説明しますね。

 

わたしの体験からすると、

自閉症の子たちは、外から見える以上に怖がりで、

「この人は怖くない人だ」と身体で感じることが、その子の内面の大きな変化につながる

カギを握っています。

 

やっかいなのが、「この人は怖くない人だ」という判断の基準が、

あまりにも微細な変化に左右されているため

何年もいっしょに過ごしていた親ですら気づかない場合が多いということです。

また自分の不安感を外の人に伝える力が弱いために、

本人の動揺の大きさに対して、

サラッとした表情でご機嫌で過ごしているように見えたり、

鈍感に何も感じていないためもう少し刺激が必要かも……という周囲の人にさらなる

怖がらせる行為を誘発してしまう点です。

また普段は甘えている母親相手でも、コロコロ印象が変わって、

ある何気ない場面では恐怖の対象となっているようなのです。

 

わたしが、どうしてそんなことに気づくのかというと、

虹色教室には感覚過敏を持っている子や神経過敏な子がたくさんいるので、

子どもたちがどのような場面でどのような恐怖に囚われるのか、

「よくこんなものを怖がるもの……」と呆れるようなものまで

網羅しているからでもあります。

 

たとえば、時計は大好きなのに、

秒針がカチカチ動くのが怖いから

といってフリーズしてしまい、その後の全ての活動がストップしてしまう子(ハンディーのない子たちにもけっこういます)

というのは、

笑い話でも、オーバーな話でもないのです。

そうした子はさまざまな場面で原初的知覚に振り回されるために、

恐怖心から問題行動を起こしているように見えます。

 

自閉症の子の場合、親御さんのちょっと強めの口調や、二度繰り返す言葉などに

誘発されて、

自分の世界に入りこむことで、外の世界にバリアを張って防御する子らがいます。

 

わたし自身がADD傾向があるので、

他の人々は拾わないような微細な変化や情報まで全て感受してしまうせいで、

そうした敏感な子らといっしょにいる時は、

その子が感じている外の世界に圧倒されるような感覚や、呑み込まれるような恐怖心、その子の内部に侵入して

主導権を奪い取るような人の気配を

自分のことのように感じてもいて、寒気やチクチクする感じや押さえつけられるような息苦しさを覚えるのです。

 

自閉症の子たちが「この人は怖くない人だ」と思う決め手となるのは

遊びの場面、場面で、

その子が主導権を握れるように

こちらの言動をコントロールすることです。

ひとりごとや常同運動が多い子ほど

その基準は見えにくく、「えっ、そんなことを?」と思うような

自分の筋肉への力の入れ具合や興味の移り変わりのスピードでさえ、

子どもの不安材料になっているように思います。

 

 

次回に続きます。

 


自閉症の子がそれまでできなかったことが急にできるようになる境目? 1

2012-03-21 17:56:37 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

「自閉症」とか「広汎性発達障がい」という診断を受けている子たちといっしょに

遊び込んでいると、

こうしたハンディーキャップを持った子たちが

昨日と今日、先週と今週で、別人のように激変していく

「ある重要な時期」があることを感じます。

 

この「ある重要な時期」について説明する前に、

ちょっと遠回りなのですが、それとよく似た「ある重要な時期」を通過していく

一般的な幼い子たちの姿について書かせてくださいね。

 

わたしはふだん、ブロックをしたり、工作したり、

お人形遊びをしたり、ゲームをしたり……とそれはさまざまな種類の

遊びを通して、0歳、1歳、2歳、3歳といった幼い子どもたちと関わっています。

もちろん、ブロック遊びといったって、0歳や1歳の子でしたら、

こちらが、「カッチャン、カッチャン」と言いながらはめていくブロックを奪い取っては、

バラバラに崩していくだけだったり、

ゲームといったって、「せいので、ハイ!」のかけ声に合わせて、カードを出したり、ベルを押して「チリン」と

音を立てるだけだったりします。

それでも、何となくブロック遊びもどき、工作もどき、お人形遊びもどき、ゲームもどきの

遊びを繰り返していれば、ある時、そうした遊びの質が劇的に変化していく時期に差し掛かります。

 

その時期の変化の仕方というのが、

どの子にも共通した特徴のある流れのようなものがあって

面白いのです。

 

先日、『1歳児のこころ』(近藤 直子  ひとなる書房)

という本を読んでいたら、わたしが面白いなぁ、と感じている

「どの子にも共通した特徴のある流れ」について

3年間もかけて実験をした結果が載っていました。

ただ、虹色教室で子供たちの成長する姿を見ていると、遊びの体験が豊かで

親子の気持ちのやりとりが活発な子らは、

データーとしてある月齢よりずっと早い時期に

そうした課題ができるようになるとは感じたのですが。

 

その実験というのは、次のようなものです。

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プラスチックでできた中が見える箱に、2.5立法センチの赤い積み木を8個入れて

「ナイナイ」とフタをして見せ、子どもにも同じものを提示して

「○○ちゃんもナイナイしてね」と指示したときの反応の変化をみる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この課題は、

「8個の積み木を入れる」と「箱にフタをする」の2種類の行為でできています。

「ナイナイする」というおとなのことばが意味するプロセスをモデル通りに再現できるかを

調べています。

実験した結果、1歳の初めごろ、過半数の子が、

2種類の行為のうち1種類だけしていたのが、

2種類の行為をするようになったはいいけど、

どこかちぐはぐで、お手本を見せている人とは似てもにつかない結果となっています。

1歳5ヶ月を過ぎると、完璧とはいえないまでも、

お手本通りにしようという意図がはっきりしてきて、

1歳7カ月頃には、お手本を見せている人が何を求めているのか、

その意図を理解していることが明瞭にわかるようになっていました。

 

その姿を『1歳のこころ』では次のような一文があります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

モデルの意図を理解して取り入れるというよりは、

モデルの使った対象を取り入れ、その後対象に対するモデルの行為を取り入れることで

結果として、モデルの提起した「ナイナイする」という意味を取り入れ、

モデルの意図を理解することになるのです。

このモデルを使う対象の取り入れにあたって、1歳3ヶ月~1歳4カ月の間に

興味深い現象が見られます。

 

一人ひとりの反応で見ていくと、9人中7人の子供で、積み木を箱に入れるという

一種類の行為の取り入れ反応で占められていた時期から、

 

初めて2種類の行為が開始する直前の週に「モデルに働きかける」反応が

見られています。

 

具体的には(1個ずつ積み木を箱に入れ、3個入れると私を見て、フタを差し出し、

さらに積み木も差し出す)というように、箱と積み木だけでなく、

次の週に行為対象とするフタを差し出しているのです。

子どもが行為対象を広げる上では、いったんモデルに引き寄せられる必要があると

言えそうです。

    『1歳児のこころ』 近藤直子  ひとなる書房

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上の文章の終わりに、「子どもが行為対象を広げる上では、いったんモデルに

引き寄せられる必要があると言えそうです。」とあります。

 

自閉症の子の場合、この「モデルに引き寄せられる」という状態が

自然には生まれにくいですよね。

わたしには、こうした人の行為に引き寄せられることの少なさが、自閉症の子たちが

さまざまなことを習得していく困難さの原因のひとつのように見えます。

 

でも、会話をするのも困難な自閉症の子でも、

接しているこちら側の言動を調整していくことで、

この「モデルに引き寄せられる」という状態が生じやすくなることを

実感しています。

そうして、「モデルに引き寄せられる」という状態を経ると、

それから間もなく、その子の行為の対象に広がりが見え始めるのです。

 

わたしは、どうすればそうした状態が生じやすいか、

またどのような時、生じにくいかといったことも

子どもたちと過ごす中でいろいろな気づきを得ています。

 

次回に続きます。