「にゃーにゃーよ。これはクマさんよ」と懸命に名前を教えるのはダメで、
「気持ちいいね」「つんつん、痛そうね」と情緒的・感覚的な反応で返すのがいいと聞くと、
「なら、こういう場合はどうすればいいの?」「こういう場合にはどう返事を返せばいいの?」と
たずねる方がいらっしゃいます。
また こうした話題を目にすると極端なほどモノの名前を教えないように努めて、
形容詞を中心に「~だねぇ」と子どもに共感を求めるような話し方ばかりするようになる方も
おられます。
そうたずねる気持ちも話し方が偏ってしまう気持ちもわかるのですが、
言葉を使っている大人が自分の感情から切り離された「自分」という人間がない状態で、
「こういう場面ではこう言えばいいんだったわ」
「こう聞かれたら、こう答えるんだったわ」と暗記したセリフを
子どもに返そうとしていること自体に
ちょっとどうなんだろう……?
という疑問が残るのです。
前回の記事で、「知的なカリキュラムに洗脳されてさえいなければ……」などという
ちょっと失礼ともいえる条件を挙げさせていただきました。
わたしが「知的なカリキュラムに洗脳されている」と表現する
親御さんにはちょっと困った癖があるのです。
どのような癖かというと、「こういう時にはこう言えばいいんだわ」
「これで遊ぶ時にはこう言えばいいんだわ」「子どもにこうたずねられたら、このように答えればいいんだわ」
「子どもは~秒抱きしめて、このように接しなきゃいけないんだわ」
といった具合に、子育ての一場面ごとに「正しい方法」があると信じ込んで、
自信満々で知育カリキュラムのマニュアル通りの対応をしてしまうということです。
職場でそつなく合理的にものごとを進める習慣が身についている方ほど、
その実行の仕方に人間的なほころびや漏れがないだけ、
極端に走ってしまいがちです。
(愛情を表現するという点でも)外からは文句のつけようがないように
きちんと子育てしているように見えるけれど、
極端に表面的な接し方を続けて、
子どもを慢性のイライラ状態にさせたり、無気力にさせたり、
思考停止状態にさせたりしている姿を目にすることがあるのです。
ついつい構い過ぎてしまう、一方的に質問ばかりしてしまう……というくらいなら
どの親もしてしまいがちなことで、さほど問題はないでしょうが、
そうした方法を「正しい」と信じて、
意識的にマニュアル通りに対応しようとする場合、
子どもとの関係のこじれ方は深刻なものになるように思います。
親が、その時、その時、その時間にその場面で体験していることに、
自分の気持ちや考えに基づいて対応していたら、
子どもはそれから自然にさまざまなことを学んでいきます。
知識を注ぎ込もうと、わざわざ不自然な態度を子どもに取り続ける
必要はないのです。
『自閉症のDIR治療プログラム』には、
障害のない一般的な幼児のコミュニケーションと思考の発達について
次のように整理してあります。
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◆ 0歳4ヶ月~10ヶ月以降
<双方向コミュニケーションと意志>
意図を伝達するための感情表現や、手のジェスチャー等を用いた
相互交流が、ある程度できるようになるとしています。
◆ 0歳10ヶ月~1歳6ヶ月以降
<社会的問題の解決と感情と行動のコントロール、自己意識の形成>
社会的、感情的な相互交流が問題解決のために整然と
行われるようになる。
◆ 1歳6ヶ月~2歳6ヶ月以降
<シンボルの創造と言語と観念>
意味のある単語や文章を使い、両親や養育者との間でごっこ遊びを繰り広げる。
◆ 2歳6ヶ月~3歳6ヶ月以降
<感情的思考、論理、現実感覚>
意味のある考えを論理的に結びつける。
( 『自閉症のDIR治療プログラム』S.グリーンスパン S.ウィーダー 著
広瀬宏之訳 創元社)
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教室で0歳児からのさまざまな月齢の子らと接していると、
自閉傾向のある子らは先に挙げた「幼児のコミュニケーションと思考の発達」のさまざまな
段階でつまずきがあるものの
ハンディーがないと思われる子らは適切に対応すれば、
月齢に見合った反応が返ってきます。
ただ、子ども自体は月齢相応にコミュニケーションと思考の面での発達を遂げているように
見えるのに、
親御さんの側が毎回一方通行のステレオタイプなコミュニケーションに陥ってしまうというか、
癖になっているというか……
特にお金のかかる知的なカリキュラムに傾倒している方は
強迫的にひとつのコミュニケーションのパターンにこだわっていたり、固執していたり……するので、
親御さんが話しかけ始めると、あらぬ方向を見てそわそわしはじめて、
しまいにフラフラ歩きだす子がかなりたくさんいるのも事実です。
また、自分に都合のいい場面ではかなりしっかり頭を使える子が、コミュニケーションの場面では、
決まり文句のように
「できない~」「え~」「おかあさんやって~」「ん~」と
いつもはっきりしない返事を返していることもよくあります。
次回に続きます。