夕食や朝食の準備や後片付けをできるだけ子どもたちにしてもらっています。
その時、子どもたちにどんな仕事を任せるか、どんな言葉をかけるかによって、
子どもの表情の輝きや食後の活動や学習への取り組み方に
雲泥の差が出るのを、実感しています。
大事にしているのは、手伝わせることではなくて、
自分で気づいて考えて動くチャンスをたくさん作ることです。
たいていの場合、親御さんたちは食堂に着くなり子どもたちを席に座らせて、
子どもたちの食事の世話をし始めます。
そこで、わたしが、「ここでは、子どもたちに自分で食事の準備をしてもらいますよ。
でも熱いお味噌汁をついだり(火傷しない温度の時は、子どもたちについでもらって
います)運んだりすることや、割れそうなものを運ぶのは、大人がします。
みんなは、自分でできそうなことはないか、お箸はみんなの分そろっているかな、
ご飯が足りない人はいないかな、と調べて、気づいたことがあったら、
お箸を取りに行ったり、ごはんをよそったりしてちょうだいね」と告げると、
それまで座ったまま「いただきます」を言う許可が出るのを待っていた子らや
「早く食べたい」と愚図りだした子らが、きょろきょろ周囲を見渡して、何をしようかと
考えだします。
すると、子どもが「何をしたらいい?」と親御さんに助けを求めて、
親御さんが「ご飯をよそって」とか、「お椀を取ってきて」と指示を出して、
子どもが指示通り動く……ということがよくあります。
子どもが困った顔をすると、すかさず、どうすればいいのかていねいに説明して、
手取り足取り、次の手順を教える方も大勢います。
見ていると、身体として「何か上手にこなすこと」「何かできるようになること」を
支援して、「失敗しないように」助けるけれど、
子ども自身が自分の頭を使う場面は奪っているように感じます。
テキパキ動くことや「お手伝い体験」というイベントに参加させることは望むけれど、
極力、頭は使わせないようにしている方はとても多いのです。
その一方で、「頭を使わせる」ことを意識しすぎて、テストすることなど不必要な
場面で、子どもの知能を試すような問いを投げかける方もいます。
子どもにしっかり頭を使わせることも、頭を使わないようにさせることも、
対応としては大差はないのだと思います。
ちょっとした言葉のかけ方。
自分で考える時間を持てるよう少しだけ待つこと。
失敗や間違いを受け止める態度。
そんなささいなことが、子どもが自分で考えることを習慣にするか否かを
決めているように見えるのです。
先日のユースホステルで、こんなシーンがありました。
デザートの小皿が、食事のテーブルとは別の場所に置いてありました。
職員さんに、「こちらにデザートを置いていますので、取りにきてくださいね」と声を
かけられたので、子どもたちに行ってもらうことにしました。
デザートの小皿の脇には、スプーンやフォークが置いてありませんでした。
そこで、子どもたちに、「デザートの小皿を取りに行く時に、
何か足りないものがないか、注意してね。ほら、食べる時に必要なものが
ないと困るでしょう?
もし足りないものがあったら、どうすればいいのかよく考えてね」と言いました。
すると、一人の子が、「スプーンがないから、スプーンを取りに行って、
デザートも持ってきたらいいんでしょう?
もし、探してもスプーンが見当たらなかったら、あそこにいる人に
スプーンを20本くださいって言えばいいんでしょう?みんなで20人だから」と言い、
それはうれしそうな得意気な表情をしていました。
それを見た別の子が、そそくさとトレイを取っきて、
「これに乗せたら、いっぺんにたくさん運べるわ」と言いました。
「いいこと気づいたね。そうよ。両手を使っても、ひとりで2皿しか運べないわよね。
トレイなら、たくさん運べるわ。でも、ひっくり返さない量にしてね」
と言うと、満面の笑み。
最初に、「デザートを取りに行ってね」と言い、
取ってきたら、「スプーンをくださいってあそこの職員さんに言ってね」という
声のかけ方をしていたら、
こんな魅力的な子どもたちの笑顔を見ることもなかっただろうな、としみじみ
感じました。
子どもたちがお手伝いをする時、怪我をさせないことはもちろん、
他のお客さんや職員さんの迷惑にならないか気をつけることも大事だと思っています。
お漬物をスプーンで小皿につぐ作業をしたがった子がいたのですが、
上手にスプーンが扱えずにこぼしていました。
そこで、お漬物をよそう作業は年上の子にしてもらい、
お漬物を運ぶ作業をその子にしてもらうことにしました。
そんな場面でも、子どもたちの意見や不満などによく耳を傾けていると、
子どもたちは何に問題があったのかよく理解し、
大人が考えるよりもよいアイデアを出してくれることはよくあります。
食べ終わった食器を返しにいく際、「お皿もお箸もいっしょに返すだけでいいのかな?
何か気づいたことや発見したことがあったら教えてね」と言うと、
「お箸やスプーンを入れるケースがあることに気づいた子がいました。
その発見があんまりうれしそうだったので、
「あそこにお箸やスプーンを入れることを知らない子たちがいるはずよ。
お皿を返しに行く子たちがいたら、教えてあげてね」と言うと、
スプーンを返しにきたおチビちゃんを抱っこして、スプーンをケースに入れるのを
手伝ってあげていました。