ユースホステルのレッスンには、子どもとの関わり方に悩んでいる親御さんが何人か来ておられました。
4歳の◎ちゃんのお母さんは、ちょっとしたことでしょっちゅうパニック状態に陥って感情を爆発させる、◎ちゃんへの接し方に戸惑っていました。
◎ちゃんはもともと感覚が過敏で、人に対する警戒心が強く、社会性の発達がゆっくりしている子です。
虹色教室に通いだした頃は同じ室内に他の人や子がいるだけで我慢ならなくて、部屋を布や段ボールで仕切って、他の子が絶対近づかないようにしていないと遊べませんでした。
それがこの1年ほどで、次第にお友だちやお友だちのお母さんに打ち解けてきて、自分から友だちを求めるようになってきました。
笑顔もたくさん見られるようになり、お母さんやわたしに「作って!」と頼むことも多いものの工作も楽しめています。
言葉遣いや表情にはまだ硬いところがありますが、「ごっこ遊び」のような想像力を必要とする遊びも上手になってきました。
今回のユースホステルのレッスンも本人が指折り数えて楽しみにしてくれていたのです。
◎ちゃんのちょっと育てにくい性質はおそらく生得的なもので、お母さんの育て方とは関係ないはずです。
とはいえ食事や遊びの場面でのお母さんの◎ちゃんへの関わり方を見ていると、改善した方がいいと思われる面がたくさんありました。
また晩の親のための勉強会でうかがった「お家でのお母さんと◎ちゃんの過ごし方」にしても軌道修正が必要そうでした。
ユースホステルの朝食はバイキング方式で、パンやソーセージやフルーツや魚など、好きなものを好きなだけ自分の皿に持って食べるスタイルでした。
2歳から6歳までの子どもたちは、氷水やジュースを取ってきたり、スプーンを並べたりして朝食の準備を手伝っていました。
◎ちゃんのお母さんは、席に着いて待っている◎ちゃんの前に、自分と◎ちゃん用にたっぷり盛った皿を置きました。
「いただきます」の後で、◎ちゃんのお母さんは、皿の上の料理を次々と◎ちゃんに勧めだしました。
その熱心さから、栄養のあるものを少しでもたくさん食べてもらいたいという気持ちが伝わってきます。
◎ちゃんは食が細い子です。
おまけに前の晩の食事量が多かったためか、お母さんが矢継ぎ早に「オレンジは?」「パンを一口食べてみる?」と勧めるごとに、口をへの字に曲げて、不機嫌そうなやぶにらみの顔を作って椅子にもたれかかっています。
それでもお母さんが、「1つだけ食べたら?」「ほらオレンジ。食べてみて!」と催促するので、「食べさせて!お母さんが食べさせて!」と口の中でもごもご言っていたかと思うと、
その後からは、「さぁ、食べなさい」「ソーセージは?」とお母さんが口をきくたびに、キレ気味のキンキンする声で、「食べさせて!お母さんが食べさせて!」と喚きはじめました。
お母さんの話では毎日、こうした食事風景が繰り広げられているそうで、いつもは根負けして、4歳の◎ちゃんに対して、まるで0,1歳の赤ちゃんにするようにお母さんが食べさせてあげることも多いようです。
しつこいほど「お母さんが食べさせて!」とごねている◎ちゃんは、外から見ると、大人からの誘いかけに「イヤ」と反発ばかりしているわがままな子のように映ることでしょう。
でもわたしは◎ちゃんのこうした荒れは、きちんとお母さんに対して「イヤ」が言えていないことに
原因のひとつがあるように感じました。
もちろん、言葉だけに注目すれば、◎ちゃん、口を開けば「イヤ」ばかりなのです。
でも、この食事シーンを含めてさまざまな場面で、実際には、◎ちゃんのお母さんの想定の中に◎ちゃんという個人が「OK」と「イヤ」のふたつの選択肢を持っている自立した存在だと感じられていないように見え、それが◎ちゃんの荒れた言動を引き出しているように思えることが、度々あったのです。
◎ちゃんとお母さんの関係の中で、◎ちゃんの「イヤ」という気持ちは、あってもないものとして、受信されないものとして、意味として認められないものとして扱われているように感じたのです。