11時、起床。夜型の生活が続いている。今日は大学に出なくていい日(会議のない水曜日)である。ジンギスカン(夕食の残り)、トースト、アイスティーの朝食兼昼食。
午後(すぐに午後なのだが)、いくつかの用件で、メールを数本書き、電話を数本掛けてから、床屋に出かける。平日の床屋は空いていて、すぐに散髪をしてもらえる。今日、私を担当するのは最近入った職人さんで、とはいっても年齢は私と大して違わないように思われる。一昔前ならば、自分の店を持ってやっていくところなのだろうが、低下価格競争の激しい昨今の状況では、個人経営の理髪店は大変なのだ。
新入りであるとの自覚のためだろうか、元々そうなのか、よく話しかけてくる人で、「今日は仕事はお休みですか?」とまず聞かれた。平日の昼間に床屋に来る中年男性には定番の質問である。「ええ、今日は休みなんです」と答えながら、話題が他のことに転じてくれないかなと願うが、やっぱり「お仕事は何をされているのですか?」と次の質問が来た。「教師をしています」「小学校とかですか?」「大学で教えています」ここまで来るともう次の質問は避けられない。「何を教えているのですか?」これが困るのである。正直に「社会学です」と答えると、まず間違いなく「社会学というのはどういう学問ですか?」と聞かれるからである。これがもし「数学です」とか「法学です」とかなら、「それはどういう学問ですか?」とは聞かれないだろう。話はそこで終って、「最近の学生さんはどうですか?」といった気楽な話題に移行するはずである。しかし「社会学とはどういう学問ですか?」という質問に、手短に、しかも相手が納得してくれる回答をするのは難しい。きっと就職活動のとき社会学専修の学生たちも苦労したに違いない。ごめんね、説明しにく学問で。今日もよほど「数学を教えています」と答えようかと思ったが、万一、数学に関心のある人で、フェルマーの最終定理について聞かれたりすると困るから、目をつぶって「社会学を教えています」と答える。案の定「難しそうな学問ですね」との反応が返ってきたので、「はい、それはそれはもう難しいのです。ですから、それは一体どういう学問なのかなんて聞かないでくださいね」と言うと、相手も笑ってくれて、それ以上の追求は勘弁してくれた。
以後、話題は趣味の話になり、最初は私の趣味(将棋)の話が中心だったが、しだいに相手の趣味(釣り)の話が中心になり、私は聞き役に回ることになった。その方が楽であるし、安全である(何しろ髭を剃ってもらっているときだったから)。私は床屋で髭を剃ってもらっているとき志賀直哉の「剃刀」という短篇を思い出す癖がある。床屋の主人がふとしたことから客の喉を剃刀でかき切ってしまう話だ。客は声を立てる暇もなく絶命する。怖い話である。床屋で職人さんの機嫌をそこねては絶対にいけないのである。しかし、釣り好きの人が釣りの話をしているときは大丈夫。安心である。この人は函館の生まれで、元々は漁師さんだったそうだ。漁師から理容師へ至るライフコースについては、今日は尋ねずにおいた。もしかしたらそこには苦汁の記憶があるかもしれないからだ。危ない、危ない。
散髪を終えて、小腹が空いたので、東急プラザの「シビタス」でホットケーキと紅茶とフルーツとアイスのセットを頼む。栄松堂で十重田裕一『「名作」はつくられる 川端康成とその作品』(NHKカルチャーラジオのテキスト)を購入。基礎演習の教材論文で読んだ記憶のあるものも含まれている。帰りに薬局でアイマスクを購入。雨戸のない窓から差し込む朝の光がまぶしいのだ。
午後(すぐに午後なのだが)、いくつかの用件で、メールを数本書き、電話を数本掛けてから、床屋に出かける。平日の床屋は空いていて、すぐに散髪をしてもらえる。今日、私を担当するのは最近入った職人さんで、とはいっても年齢は私と大して違わないように思われる。一昔前ならば、自分の店を持ってやっていくところなのだろうが、低下価格競争の激しい昨今の状況では、個人経営の理髪店は大変なのだ。
新入りであるとの自覚のためだろうか、元々そうなのか、よく話しかけてくる人で、「今日は仕事はお休みですか?」とまず聞かれた。平日の昼間に床屋に来る中年男性には定番の質問である。「ええ、今日は休みなんです」と答えながら、話題が他のことに転じてくれないかなと願うが、やっぱり「お仕事は何をされているのですか?」と次の質問が来た。「教師をしています」「小学校とかですか?」「大学で教えています」ここまで来るともう次の質問は避けられない。「何を教えているのですか?」これが困るのである。正直に「社会学です」と答えると、まず間違いなく「社会学というのはどういう学問ですか?」と聞かれるからである。これがもし「数学です」とか「法学です」とかなら、「それはどういう学問ですか?」とは聞かれないだろう。話はそこで終って、「最近の学生さんはどうですか?」といった気楽な話題に移行するはずである。しかし「社会学とはどういう学問ですか?」という質問に、手短に、しかも相手が納得してくれる回答をするのは難しい。きっと就職活動のとき社会学専修の学生たちも苦労したに違いない。ごめんね、説明しにく学問で。今日もよほど「数学を教えています」と答えようかと思ったが、万一、数学に関心のある人で、フェルマーの最終定理について聞かれたりすると困るから、目をつぶって「社会学を教えています」と答える。案の定「難しそうな学問ですね」との反応が返ってきたので、「はい、それはそれはもう難しいのです。ですから、それは一体どういう学問なのかなんて聞かないでくださいね」と言うと、相手も笑ってくれて、それ以上の追求は勘弁してくれた。
以後、話題は趣味の話になり、最初は私の趣味(将棋)の話が中心だったが、しだいに相手の趣味(釣り)の話が中心になり、私は聞き役に回ることになった。その方が楽であるし、安全である(何しろ髭を剃ってもらっているときだったから)。私は床屋で髭を剃ってもらっているとき志賀直哉の「剃刀」という短篇を思い出す癖がある。床屋の主人がふとしたことから客の喉を剃刀でかき切ってしまう話だ。客は声を立てる暇もなく絶命する。怖い話である。床屋で職人さんの機嫌をそこねては絶対にいけないのである。しかし、釣り好きの人が釣りの話をしているときは大丈夫。安心である。この人は函館の生まれで、元々は漁師さんだったそうだ。漁師から理容師へ至るライフコースについては、今日は尋ねずにおいた。もしかしたらそこには苦汁の記憶があるかもしれないからだ。危ない、危ない。
散髪を終えて、小腹が空いたので、東急プラザの「シビタス」でホットケーキと紅茶とフルーツとアイスのセットを頼む。栄松堂で十重田裕一『「名作」はつくられる 川端康成とその作品』(NHKカルチャーラジオのテキスト)を購入。基礎演習の教材論文で読んだ記憶のあるものも含まれている。帰りに薬局でアイマスクを購入。雨戸のない窓から差し込む朝の光がまぶしいのだ。