金木犀、薔薇、白木蓮

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113:大島恵真 『107小節目から』

2018-12-05 09:43:23 | 18 本の感想
大島恵真『107小節目から』(講談社)
★★★☆☆3.5

【Amazonの内容紹介】

【第58回講談社児童文学新人賞佳作入選作】

泳いでいるとき、由羽来(ゆうら)の頭の中には、音楽が流れている。
それは、泳いでいる苦しさを忘れるため。
そして、本当は音楽をやりたい自分を消してしまうため――。
「世界に一着しかない服を作ろう」とアトリエを開いたはずの父は、
親戚に借金までして強制的に由羽来に水泳を習わせ、
そして母に暴力を振るうようになった。
その母は、家族への気持ちを言葉にしようとしない。
そんな両親のいる家で、由羽来も家族をあきらめている。
父に命じられるままスイミングクラブで泳ぐ由羽来の心に、
ドボルザークの交響曲「新世界より」が響くとき、
彼女の世界は変わるのだろうか――。
最後の一行まで小六の少女に寄り添って描かれた、切なくも優しい児童文学の誕生。

水の中にいるみたいに、息が苦しいって感じているみんなに伝えたい。

きっと「新しい世界」は、すぐそばにあるんだって――。 【対象:小学上級以上】

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先輩から借りた本。
中学入試に使われそう。

いわゆる毒親でDV癖のある父親に支配された家庭を舞台に、
小学生の少女が両親のことを理解し、
自分の意志をもちそれをはっきり伝えることができるようになるまでの
家族の再出の物語。

おとうさんにとって、オリンピックは、楽しさの向こうにある夢だった。
夢なんだから、届かないところにあるって、わかってたはずだ。
だからわたしも、そのくらい、わかってあげればよかったのに。(P.222)


父の生い立ちを部分的ながらも知って、父を理解する場面の一部で、
終盤なんて本当に静かに胸を打つんだけども、
小学生がそこまで親の心をおもんばかって
やらなきゃいけないってところが切ないよ。
親に愛されて守られている子どもは、親の心に無頓着でいられるのに。

「暴君の父」というモチーフは昔からあるけれども、
その父の支配が
「音楽や絵では食べていけない」
という発想にもとづくものだっていたり、自分の挫折や失敗をもとに
「子どものため」という大義名分で何かを強要したりするのが現代的。

読んでいて楽しい話ではないけれど、繊細な心理を描いた良作。


コメント
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